第35話「僕の名前はヴェルナー。家族にはヴェルと呼ばれているから、みんなもそれでよろしく」
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「あー、まずは自己紹介しようぜ。俺の名前はコンラート。んで、この無駄にでかいのがテオな」
「ん…」
「と、まぁこんな感じで、こいつは昔っからあんまり喋らねぇから、俺が変わりによろしくって言っておくわ」
目つきの悪い少年、コンラートが笑顔で自己紹介をする。笑顔なんだろうけど、目つきが悪いからなのかちょっと怖い。でも、テオとの関係を見ると良い奴っぽい感じがするね。
「うむ、私の番だな。私の名はヘルミーナ! ミーナと呼んでくれ!」
「僕の名前はヴェルナー。家族にはヴェルと呼ばれているから、みんなもそれでよろしく」
ミーナが「コン! 私はハルトムート様と同じ槍魔法使いなのだ!」と、自慢げにコンラートに言っている。「お、おう…すごいな。あぁ? っていうか、コンってのは俺の事か…?」と、コンラートは勢いに引いていたが、自分の愛称が突如決まった事に呆然としていた。
僕も本を閉じて会話に混ざっていると、前方の入り口から先生達が入ってきた。僕達はやっと始まるのかと、雑談をやめて前を向く。先生達が入ってきても騒いでいる子どもたちを前にして、一人の先生が立ち止まる。
「いつまで騒いでんだオラァ! 遊びに来てんじゃねぇんだぞ!」
ビリビリと空気を震わす大きな声。スキンヘッドでマッチョな先生の大声に、さすがの子どもたちも大人しく席につくようだ。静かになったのを確認して、近づいてきた他の先生と入れ替わり腕組みをして目を瞑るスキンヘッド先生。
「…以上が今日の予定となります。では、入学式の最後に学校長から挨拶があります」
数十分説明をした先生が、僕達に向けて一礼し、スキンヘッド先生の隣に立つ。スキンヘッド先生は僕達の後ろの入り口を睨みつけるように見ている。僕も気になってはいた。こそこそと数人、いや、数十人冒険者の格好をした人達が、中の様子を見ているのだ。中には口を手で押さえ、涙ぐんでいる人もいる。主に強面のおじさんだが。
(いるんだ…入学式見に来る親)
体から力が抜け椅子から落ちそうになるが、気を取り直して前方の壇上を見る。説明をしてくれた先生の代わりに壇上に上がったのは、おじいさまと同じ年齢くらいの人だった。朗らかな笑顔を見せている学校長は、背筋はまっすぐに伸び、それでいて隙がない。実力者と思わせる立ち振る舞いだった。
「みなさん、入学おめでとう。冒険者になるにあたり、この冒険者学校に入学したことを、学校長として懸命な判断だと賞賛する」
後ろに座っているコンの口から、小さく「あぁ?」と聞こえる。祝うのではなく、懸命な判断だと褒める。知らなければ、随分な入学の挨拶だろう。でも、僕はベルクに着いた日に、宿屋の食堂で酔っぱらいの先輩冒険者に話を聞いている。僅かにざわつく建物内を、気にすることもなく学校長は話を続ける。
「冒険者学校には、貴族学校のような交友を深める旅行や、パーティーや祭り等の行事は一切存在しない。あるのは魔物と戦う為の勉強と訓練、実戦のみである」
ゆっくりと僕達を見回しながら語りかける。
「訓練でも実戦でも、常に傷つくだろう。心折れそうになる事もあるだろう」
静かに、しかしみんなに聞こえるしっかりとした声で語りかける。
「だが、そのすべては仲間を、家族を、そして後ろにいる国の民を守る力となるだろう。かつて初代辺境伯様は、我々の先祖にこう言った。『それぞれが一粒の雨となり、盾として戦い、民達に潤いを与えることを願う』と」
あれだけ騒がしかった子どもたちも、金縛りにあったように動かない。
「励めよ、幼き冒険者達。最後に、遥か昔に卒業した冒険者学校の先輩として、君達の入学を祝う言葉を送り、挨拶とする。入学おめでとう」
最後に一瞬、いたずらが成功した子供のような笑顔を見せて、颯爽と壇上を後にする学校長。すぐに先生達が動き出し、まだ呆けている子どもたちを誘導していく。AからFまで教室があり、各自自由に教室に向かう。序列はまったくないが、明らかにAの教室に殺到しそうな空気だ。僕達はただの文字を取り合う気はないので、人気の無さそうなFの教室に向かう。
「おもしれぇ学校長だったなぁ、テオ」
「ん…」
前を歩くコンが、首の後ろで両手を組みながらテオに話しかける。ガシャガシャと金属がぶつかる音を響かせながら歩くテオも、静かに肯定している。
「うむ、初老の男性だが、アレは今だに現役のように見えたな」
「あぁ、ありゃ強ぇぞ。渋々だったが、案外学校も悪かねぇかもなぁ」
腕を組みながら歩くミーナが言うと、続けてコンが目つきをさらに鋭くしながら笑う。そんな話をしながら廊下を歩いていると、F教室に着く。思った通り数人しか人はおらず、それもすでにグループが出来上がっているようだ。A教室の方向からは何かを言い合う声が聞こえてくる。
「担当が来るまでに、自己紹介の続きでもしとくかぁ?」
言い出しっぺのコンから自己紹介が始まる。どうやらコンはイメージとは違い、風魔法使いらしい。テオとは幼馴染で「俺がいねぇとテオは誰とも喋れねぇからなぁ」とため息をついた。口と目つきが悪いわりに、面倒見がとても良い。
「んで、こいつが…」
「…盾…だけ…」
コンが代わりにテオの自己紹介をしようとすると、テオが喋った。「ん…」以外を初めて聞いた。コンが目を見開き驚いている。まぁ結局はコンの補足が必要な訳だけど。テオは盾魔法使いのようで、両手で持つ大きな盾を召喚して戦うようだ。
「うむ! 私の番だな! 私はハルトムート様と同じ! 槍魔法だ!」
「「知ってる」」
「ん…」
おじいさま狂のミーナの自己紹介は、先程から何度も聞かされている為すぐに終わる。素早さ重視の手数で押すタイプの槍魔法使い。おじいさまはパワーで薙ぎ払うタイプなので、ゆくゆくはそうなりたいらしい。
「最後は僕だね。僕の魔法属性は…弓魔法。でも、ナイフを使っての近接や、投擲もやるよ」
3人がおぉーと歓声をあげる。テオは「ん…」だが。嘘を付いている事に罪悪感を覚えるが、銃魔法の事を言う訳にはいかない。早く本当の自己紹介ができるようになりたい。
「ド近接に近接、中・近接に遠距離か、バランス取れてんじゃねぇか?」
「うむ! 出来すぎなくらいに理想的な属性バランスだな!」
「ん…」
(アリーセ様お久しぶりです、僕を見ていますか? 見ていたら連絡ください、怒らないから)
ちなみに4人の身長は、テオ、ミーナ、コンより僅かに小さく僕という順だ。いずれ超えてみせるぞ…テオ!
「はーい、みんなー席についてねー」
教室のドアが開き、どこかで聞いたようなマイペースな声が聞こえてくる。振り返って見てみると、そこにはミケさんの姿があった。
「はーい、F教室の担任の、ミケですー。まぁー、数日だけ割り当てられてるだけなんだけどねー」
「一週間もしたら待ち合わせくらいにしか教室使わないよー、あははー」と笑うミケさん。相変わらずのマイペースさである。周囲の子供達も、ミケさんのマイペースさに脱力している。
「今年から先生として働くことになったのでー、君達と同じ一年生ですー。でもー、冒険者としても卒業生としても先輩になるのでー、これも何かの縁だと思って、今後も相談に来てくれたら嬉しいなー」
コンはゆったりとしたミケさんの喋りが、性格的に合わないようでイライラしている。ミーナは何かを考えるように、腕を組みミケさんをじっと見つめていた。そんな視線をミケさんは気にする事もなく、明日からの予定を伝えていく。春の間は、午前中に座学と各職に分かれての訓練。午後はチームで集まり連携の調整。夏からは徐々に実践的な訓練や討伐依頼を受けるようだ。Fランクからスタートし三年でDランク、一人前一歩手前くらいまでサポートするのが冒険者学校の目的だ。弱い魔物を相手にするはずの、FランクからDランクの冒険者の死亡率が高い為、学校で厳しくそして手厚くサポートする。ゆったりとしたミケさんの口から、冒険者学校の意図が説明される。
「ちなみに僕はー、斥候職と弓魔法の担当になりますー。厳しく行くから覚悟してねー。それじゃ解散ー」
僕に向けて小さく手を振り、ミケ先生が教室から出ていく。偽属性の選択を間違ったかも知れない…あんな喋り方だがミケさんは有能だ。でも、みんなに弓魔法だと言った手前、もう引く事は出来ない。
「ヴェルに向けて手ぇ振ってたけど、知り合いかぁ?」
頭を抱えているとコンが僕の肩に腕を回し、声を掛ける。
「う、うん…父さんの仕事の都合で、レイゲンの冒険者ギルドに行った時にちょっとね」
「…うむ! 思い出したぞ! 彼はフリッツ様の冒険者時代のパーティーメンバーだ!」
突然大声を出したミーナに、僕達三人は驚き肩を跳ねさせる。テオはなぜか、キョロキョロと周囲を警戒していた。
「現辺境伯様の元パーティーメンバーだぁ? あんなホワホワした奴がかよ」
「うむ! ヴェルが羨ましいな! ミケ先生と知り合いだったら、ゆくゆくはハルトムート様とも知り合いに…」
ブツブツと独り言を言い始めたミーナを見て苦笑いをしつつ、小さくため息をつく。
(早いうちにミケさ…先生と口裏合わせなきゃ)
投稿する直前まで、ヴェル君の偽属性に悩みました。
今まで書いた話と、矛盾がないか不安です。
5/5誤字修正




