第19話(おじいさま…褒めてくれるのは嬉しいですが、なんなんですかその『ワシの考えた最強の孫』は…)
突然現れた謎のおっさんの登場に、僕とソフィーアは一瞬フリーズをするもなんとか再起動する。
「えーっと、申し訳ありませんがお名前をお聞かせ頂けますか?昨日王都に来たばかりの田舎者でして、無礼をお許し下さい」
貴族街ということで少なくとも貴族の関係者であると判断し、可能な限り丁寧な言葉を使ってどちら様か問う。辺境伯より爵位が上の人間に当たる事も少ないので、そこまで気にする必要があるかは不明だが、息子の僕が偉い訳じゃないし。
「こちらこそ失礼した、私はヴィンという者だ。お前のじいちゃんの友達だよ。屋敷にお邪魔しようかと思っていたら、風を斬る音が聞こえてな。こちらに見に来たんだが…ハルトの手紙もあながち妄想でもないのか?」
ニヤニヤしていた顔を戻し、立ち上がり僕に挨拶をするヴィンというおっさん。そういえば王都に行くと言われた日に、ヴィンという同級生がいたと話していた気がする。
ブツブツと何かを呟いているヴィンを観察する。黒いブーツにカーキ色のスボン、白いシャツの袖をまくりワインレッドのベストとラフな格好をしているが、仕立て自体は上等なものに見える。髪は赤色で白髪が一部混じっていて、今は整えていないのか無造作ヘアーだ。格好や口調からおじいさまと同い年には見えない。
(本当におじいさまの友人のヴィンっていう人なのかな? なんか怪しい…)
まだ1人でブツブツ呟いている自称ヴィンを疑いの目で見ていると屋敷からおばあさまが出てきた。
「あらあら、執事から来客があったと知らせがあったのでお待ちしておりましたのに、いらっしゃらないから探しに来てみればこちらにいらしたのですね。ヴィン様、随分お早いですね」
「おぉ、アルマか。いや、朝早くに迷惑だとも思ったんだが、自由に動くとなるとどうしても朝早くなってしまってな。すまんな」
自称ヴィンが独り言を辞め、おばあさまに挨拶をする。おばあさまの口ぶりからしてもおじいさまの知り合いのヴィン様で間違いないのだろう。
「いえいえ、歓迎いたしますわ。朝食はおとりになられましたか? よろしければ一緒に如何かしら。ヴェルも一緒に食べましょう」
ヴィン様は馳走になろう。と言いおばあさまについていく。僕は訓練でかいた汗を拭いてから食堂へ向かう。
朝食を食べた後紅茶を飲んでいると、ヴィン様がおばあさまに話しかける。
「しかしアルマよ、貴族学校に通う方も有能と聞いているが、下の孫も有能じゃないか。ハルトが俺の孫自慢に見栄を張って妄想を書いてきたんだと思っていたが」
「あらあら、私の自慢の孫ですもの。まったくあの人はどんな手紙を書いたのかしら…」
「3歳で大人顔負けの会話をし、5歳で歴史書を読み始めて、短剣を持たせたら将来上に立つ者はいない才能を持ってると書いてあったぞ?さすがにそれはないと思ったが、先ほど見た剣捌きは見事だったし、会話にも驚いた。えーと、そう言えばまだ名前も歳も聞いてなかったな」
(おじいさま…褒めてくれるのは嬉しいですが、なんなんですかその『ワシの考えた最強の孫』は…)
「先に名を聞いたにも関わらず挨拶が遅れ、失礼いたしました。ヴェルナー・ツァイスと申します、今年8歳です」
「いや問題ない、俺の事は親戚のおっさんだと思ってくれて構わない。ハルトとアルマが自慢するのも分かるな、これは。うちにも8歳の孫がいるが、相当手を焼いているみたいだからな。そうだ、貴族学校に行っている孫も同級生で仲が良いと聞いているし、ヴェルナーも下の孫と同い年だ。出来れば仲良くしてやってくれないか? いつでも遊びに来てくれていいから」
ヴィン様が妙案を思いついたと片目を瞑り頼むよ。と僕にお願いをする。
「はぁ、そのお孫さんが仲良くしてくれるなら僕は構わないのですが。頼まれて仲良くするのは何か違いますので、お約束は出来かねます」
「いやいやそれで構わん。確かに頼まれて仲良くする友など、あの子と君の為にならんだろうしな。遊びに来て話してみてくれ、今日の夜なんてどうだ? 朝食をご馳走してもらったし、お返しだ」
やけに早いお誘いだな、まぁ観光しようかなーぐらいしか思ってなかったから僕はいいんだけど。じゃあ夜お邪魔しますと答えようとした時に食堂の扉が開いた。
「うーむ、やはり王都のビールはうまいな。コルンまで飲み過ぎてしまった…って、ヴィン! 貴様こんな朝早くからなぜうちにいるんじゃ!」
頭を押さえながらフラフラとやってきたおじいさまが、ヴィン様を見つけ突然大声を出す。
「随分遅い歓迎だなハルト? お前が帰ってきたと兵が噂をしてたからな、自慢の孫を見に来てやったんだよ。というか、なんだその口調は。もうじじい気取りか?まぁ手紙を貰った時はついに耄碌したかと思ったが」
自分の大声で頭にダメージを負い苦しむおじいさまに、ニヤニヤ笑いながらヴィン様が追撃する。
「ぐぬぬ、耄碌なんぞしとらんわ! いてて…お前も同い年じゃろうが。チャラチャラした格好しおってからに!」
「ハッハッハ、うるさいじじいの顔も見たしそろそろお暇しようかな。じゃあヴェルナー、今日の夜準備して待ってるからな」
「なんの話じゃ! えぇいその笑顔をやめろ! 早くお前も引退しろチャラおやじが!」
おじいさまの大声を気にせずハッハッハーと笑い声をあげながらヴィン様が帰っていった。僕にウインクをしながら。っていうか僕まだ返事してないんだけど。
「まったく、あなたは本当に朝から騒がしいですね。お城ではヴィン様にあんな言葉遣いしないでくださいね? さすがに物理的に首が飛びますよ、気をつけてくださいね」
「ぐぬぬ、わかっておる。あいつのニヤついた顔を見るとどうしてもな。ソフィーア、紅茶を持ってきてくれ」
「まぁヴィン様もわかっててやってる節はありますからね。あとヴェル、今日は今から貴族街のお店に行って準備ですからね。まさか今日行く事になるとは思ってませんでしたから、急いで準備しなくちゃ」
さっきから嫌な予感しかしないけど、確認しないことには始まらない。僕は恐る恐る手を挙げおばあさまに質問をする。
「あのー、ヴィン様っていう名前と親戚のおじさんだと思えという言葉しか知らないのですが、今日招待されたのはどこのどなたなんでしょうか」
「あらあら…ヴェルもやっぱりまだ8歳の子供なのね。ヴィン様は私達にはあまり呼ばれたくないと言っているけど、フルネームはヴィンフリート・ネシオル。このネシオル国の王よ? ちなみに今日招待されたのはお城」
…おっさんがウインクしながら招待したのは王城でした。軽いノリで会話してたけど、僕は今日無事帰ってこれるのだろうか。
ストックが残り1話分です…非常に焦っております!
あと、この話からアップする前に読んでくれている人の目が入っていません。
おかしな部分があったら申し訳ありません。
7/15ヴィンの名前がヴィルになってたのを修正。
7/18ヴェル君の一人称が「俺」になっている所を修正。




