閑話 銃魔法使いソフィーアの往く末は②
ツァイス家のメイドとして働かせて頂く事になり、マリーナ様の後についてお屋敷を案内して頂きました。そこには床にちょこんと座り本を読んでいる黒髪の男の子と、飽きてしまったのか本を投げ出し床に寝転がる金髪の男の子がいらっしゃいました。
「ヴェルくん? 今日からヴェルくんのお世話をしてくれるソフィーアちゃんよ。迷惑を掛けないようにね?」
マリーナ様にヴェルくんと呼ばれた黒髪の男の子はこてんと首を傾げ私を見る。
「ヴェルナー3歳です。趣味は読書です。今一番会いたい人は思うところがあって女神さまです」
と、3歳とは思えない自己紹介をするヴェル様。
「あと、悲しい事があったならお日様に当たって勇者の絵本を読むのがいいと思います。暗い所は気分を沈ませますし、勇者の絵本は元気をくれますから」
お庭に行って来ます。とヴェル様がトコトコ歩いて部屋から出て行く。ヴェル様の赤茶色の瞳が私の気持ちを見透かしているようでドキリとさせました。
「ちょっと変な子なんだけどね、3歳には見えないでしょ? 私はアルくんとちょっとお話するから、ソフィーアちゃんはヴェルくんについていってあげて」
私はかしこまりました、と返事をし中庭に向けて歩き出す。後ろからは断末魔のような声が聞こえるが、今はヴェル様のところへ向かう。
トコトコと歩くヴェル様についていくと、そこには綺麗な中庭があった。春が終わりに近づき緑を深めた草木が、柔らかい日差しの中風に揺れている。ゴテゴテと華美すぎない上品なティーテーブル、よく手入れされた芝生。ツァイス家の人達と触れ合い、この中庭にいる事で王都で溜め込んだ薄暗い何かが少しずつ消えて行くような感覚になる。
「無理して笑うことはないけれど、いつか笑顔を見せて欲しいな。ソフィーアさん」
芝生の上に座り本を読むヴェル様が、本に目を落としながらそう言いました。
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私の説明不足により恐れるような、悲しむような顔をしたヴェル様がいました。10歳も年下なのに大人のような事を言ったり、年齢相応な表情をするヴェル様にドキリとさせられます。きっと弟がいたらこんな感じなんだろうなぁと自然と笑みが漏れ出る。誰かを前に自然に笑えたことに自分自身驚き、それを誤魔化すようにヴェル様に問いかける。
「みんなを笑顔にして、銃魔法の常識に風穴を開けたい」
普段はマリーナ様そっくりの優しい顔をしているのに、今明かりに照らされて見える顔は、不安に押し潰されそうになりながらも自分の夢を語る男の子の顔。フリッツ様を思わせる顔に私はヴェル様の運命を見た気がしました。
(不幸なこともあったけど、私はここから生まれ変われる。ツァイス家の皆様と、ヴェル様と歩む私はきっと透明ではいられない。銃魔法使いとしての道を往こう)
おっと、もうこんな時間ですか。何か物騒な想像をしているヴェル様に早く寝るようお伝えし、退出する。ドアを閉めた後足音を消して歩く。ルードルフ様から教えて頂いてから、ずっと続けている隠密術。ヴェル様が不思議そうにこちらを見るのが可笑しくて、止めるタイミングを逃してしまった。
暗い廊下は嫌いだった、家を追い出されたあの日を思い出すから。でも今夜は、窓という窓から月の光が差し込んでいた。暗闇を踏まないように光り差すところだけ歩くように、軽い足取りで部屋に向かう。
次の日の朝、私はいつもより早く目が覚める。体から悪いものが抜け落ちたような、体が軽い感じだった。
「おや、ソフィーアさんおはようございます。今日は朝の訓練はなかったはずですが…何か良い事でも? 暗い海の上で、灯台の光を見つけたようなお顔をしていますが」
「おはようございます、ルードルフ様。それはどんな顔をしているのでしょう。鏡を見るのが怖くなってきました。いつもお世話になっているのにお願いをするのは心苦しいのですが、ルードルフ様は散髪などできますでしょうか?」
「自信を持って鏡を見てみなさい、とてもよい顔つきになられましたよ。散髪ですか? まぁできますよ、執事ですので」
ルードルフ様はニヤリと笑いこちらへどうぞ、と椅子を勧める。執事だからという理由はよく分からないが、ルードルフ様に言われるとなぜか納得してしまう。
「しかし本当によろしいのですかな?かなり思い切って切るようですが…勿体無いですなぁ、綺麗なロングヘアーでしたのに」
「えぇ、バッサリとお願い致します。今日から私は銃魔法使いとして生きていきますので、邪魔になることもあるでしょうから」
サクサクと切れ味の良いハサミが私の紫色の髪の毛を切り落としていく。母と同じ髪色で自慢だったロングヘアー、家族が綺麗だと言ってくれた髪の毛をさっとはたき落とし立ち上がる。
「ありがとうございました、ルードルフ様。銃魔法をヴェル様から教えて頂きますが、今後もナイフ戦闘術のご指導もお願い致します。それでは、ヴェル様を起こして参りますね」
そうルードルフ様に礼をして、ヴェル様の部屋へ向かう。
今まで灰色に見えていた景色が、春の日差しで色がついたように見える。淡いピンク色の花びらが舞い、夏に向かって深みを増す草木の緑。私自身も透明なソフィーア・ベーエから、メイドのソフィーアとして色が着いた様に思えた。あ、でも気配を消すのはやめませんよ。魔物を倒すとき隠密も必要ですからね。
そして私はいつものようにヴェル様の部屋のドアをノックする。
明日から第2章です。




