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7.  ダラムの三銃士

傾斜が急なヴェールの山中を、草木を薙ぎ倒し、岩を削る轟音を上げながらハリケーン号は進む。

ベルフルールの妹ミアの救出の為、サンレゾの管轄するダラムへと向かい、現在、下山の真っ最中である。


 「......イヤぁ、実に、スゴいですなぁ! ......この帆船ふねはどうして、

 このような山中でも、難無く航行が可能なのでしょうなぁ......? 」


腕組みをしながら、金髪がさかんに不思議がる。後ろでジルたちも頷いているのが見える。


 「......知らん。(キッパリ)......スゲェ、都合良く出来てるんだろぅよ。

......あんま、難しく考えんな」


操舵輪を握り締めたまま、どーでもよさそうに、不機嫌そうな態度で返す黒騎士あつし


 ......多分、俺の夢の中だからじゃねぇか? なんか言えっかよ......


 「そぅ! まさにソレなのですよッ!! ......いやァ、実に不思議ですなぁ! 一体、

 どぉなっておるんでしょうなぁ ......!? ムムムぅ ......!! 」


 金髪のうるささは、今日も絶好調だ。誰も聞いていなくても、一人でペラペラ喋り続ける。

心に余裕がある時は良いのだが、結構、ウザすぎて ......とりあえず、無視を決め込む。


あつしがこの世界に召喚? されてから既に、約3か月間程が経過している。


過ごすほどに、様々な懸案も発生してきており ......色々、頭を悩ませるようになる。


まずは、「救出した妖精たちの今後」の問題。


今回、シアンの砦での奴隷市場より、約40名程の妖精などの「亜人」たちを、解放する事ができた。


 この程度の数は、現在いまは余裕で戦空艇は受け入れできている。

金貨もあるし、食料も砦に備蓄していたモノを頂戴した事で、当面は何の心配も無い。


 ......だが、おそらく今後も保護する者は増えるはずだし、備蓄にも限界がある。

そこらの夜盗のような真似事は、あまりしたくない。戦空艇の収容人数にも当然、限界がある。


 保護した妖精たちからは、これからの旅の同行を強く懇願されている。

大陸内での彼女たちへの不当な扱いは、確かに不憫であり、何とかしてあげたい思いもある。


独立国の樹立までとは、さすがに言わないが、妖精たちの安心して暮らせる場所を確保してあげたい。


 次に、これから行う予定の「ダラムでの、ミア救出に伴うサンレゾとの戦闘」における、

犠牲者の問題。


 今までの、ベガンにミリア、シアンの砦での殲滅した相手は、全て

「ハッキリとした敵集団」のみだった。

ただ感情のままに、命乞いも許さず根絶やしにしてしまえば、それで良かった。


 だが今回は、事情が違う。

「サンレゾの悪行には加担しておらず、ただ配属されているだけの騎士達」を、どうするかだ。

ファルナの同僚でもあり、判断が非常に難しい。

この件の心労で焦燥しきった最近のファルナの事もあり、無益な殺戮は極力、控えたいし、

ダラムで生活している住民の被害も極力、抑えたい。


......いかにして、悪人だけを征伐する事ができるのだろうか......?


そして最後で一番、重要なのは「自分自身の、現実世界リアルでの事」の、問題。


 ......この世界での3ヶ月間は、現実世界リアルで何日間分の夢なのだろうか?

夢の世界で起きて、食べて、寝て......また、夢の世界で目覚める日々。

さすがに、現実世界リアルの事が、気にかかる。......なぜ、目覚めない?


 俺は一体、何日間、寝てるんだろうか。

自分の身に、何かとんでもない事態が発生しているんじゃ、ないだろうか!?


 ......たとえば、脳溢血とか? 脳卒中とか? ......

部屋で倒れたままとか、病院の集中治療室の中とかだったら、どうしようか......

仕事も、今は灯油の配送等が一番、忙しい時期だ。そう、何日も休めないしなぁ......

いやいや、やっぱり目覚めれば、イベ終了直後の翌朝なのかもしれん。そう、思いたい!


その為には、まず目覚めないと、いけないのに......内心、かなり焦っている。


 ......この夢? の内容も問題だ。

いくらゲームにどっぷり、ハマっているからとはいえ、いくら夢でも、この短期間に

悪人共を大量に殺戮しまくる日々は、さすがに......心が病んでくる。


 ......俺は、こんなにも日常でストレスを溜め込んでたんだろうか?

このままでは、かなり寝覚めの悪い朝を迎えてしまいそうだ。


 今はまず、ミアを無事に救出し、ファルナは何の処罰も受けない様に、大公に計らってもらう。

そして、ベルフルールたち亜人の安住の地を提供してあげる事。


 これだけは実現させて見届けた後......寝覚め良く現実むこうでの朝を迎えたい。

......切実に願っている。


 ヴェールの山麓の、樹海のような原始林の中をハリケーン号は突き進んでいく。

「この林を抜けて、少し進んだ先が......ダラムです」

地図を睨みながら、ジルが教えてくれた。艇内の皆の表情が、緊張で硬くなっていくのがわかる。

気を引き締める。......まずは一つ目、終わらせてやらねば......!


 その頃、城壁都市ダラムの内部では、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

巡回中の警備隊から、ヴェール山中を巨大な轟音と共に滑り落ちる「巨大な何か」が、

一直線にダラムに向かっているとの報告を受けた為だ。


 対策を講じる為、急遽、召集された三人の騎士がサンレゾの前に並ぶ。

一人目は、肩までかかる黒髪を後ろで縛っている、細身で穏やかな表情の男。

二人目は、角刈りのような赤い短髪で中肉中背の、やや落ち着きが無い青年。

三人目は、レスラーのようなどっしりとした大柄の体系に、茶色で長いパーマ頭が印象的な、

髭面の大男。

皆、神妙な面持ちで、今後の事について講じている最中である。


 「......だから、俺が現地さきに行って確認をすると、申し上げておるのです! 」

赤髪の青年が、我慢ができないといった素振りで立ち上がり、今にも部屋を飛び出ていかんばかりの

剣幕で、一気にまくし立てる。


 「......落ち着きなさい、アラン。貴方の隊だけで動くのは、時期早々です。今は、もう少し、

状況を見極める必要があると思いますよ。」黒髪の男が、穏やかな口調で赤髪の男をたしなめる。


 「何を悠長な事をっ! 此処に向かっているのであれば、シアンは既に陥落しておるのでしょう!

そうでなければ、異常に気付いた砦の者が1人は此処に報告に来るはずでしょう! 誰も来ない!

・・・・・・問題は、その「巨大な何か」が、一体、何かもわからない事でしょう!?

砦の兵力を殲滅させるほどの力を持ったモノとは、魔獣なのか、敵の新兵器なのか、

何なのか・・・・・・その確認もできず、何を見極められると申されるのですかっ!!! 」


 アランと呼ばれる赤髪の男は、常に苛ついた素振りでソワソワと落ち着きがない。

血気盛んなこの若き騎士は、一刻も早くこの場を離れて確認に向かいたくて仕方が無いようだ。


 「シアンが簡単に攻略されたのであれば、敵であれ魔獣であれ、貴方の隊500名程度では

おそらく相手にならない力を持っている可能性が高いと、先程から言っているのですよ。

・・・・・・ネルソンは、どう思いますか? 」

駄々っ子をあやすような口調でアランを諭しつつ、黒髪の男はもう一人の大男にも声をかける。


 「・・・・・・ミリアを侵略おとしたとかいう、司教国軍ヴィエンヌがもう、

此処ミリアまで進軍しているのかもしれんが・・・・・・」

ネルソンという寡黙な大男がボソッと呟く。


 「......いや、その可能性は非常に低いでしょう。ミリアを陥落させてからの進軍が、

あまりにも早すぎます。それとはまた別の......「何か」ではないかと。

まあ、いずれにせよ「その何か」は間違いなくヴェールを抜けて此処ダラムに来ます。

此処の手前で、我ら3人の部隊を揃えて迎え撃つ策が賢明かと思いますが......

いかかでしょうか? サンレゾ連隊長様? 」


......3人の騎士の会話を静かに聞くネズミ顔の中年男、サンレゾ。

小柄な猫背の男だが、歴戦のつわものらしく、鷹のような鋭い眼光で三人を見渡す。


 サンレゾは静かに口を開く。

わしも、ブライアンと同じ認識だ。......

司教国ヴィエンヌ此方こちらに到着するには、まだ、あまりにも、な。

ただ......強大な力を持つモノである事はまず、間違いは無いだろう。

何としても、このダラムで食い止め、被害を最小限に抑えねばならぬ......!

単独ではなく、お前達三人の力を結集し......立ち向かうのだ。期待しておるぞ」


 「・・・・・・御意。一命に賭けても、お守り致します」

深々と一礼すると、三人はその場を離れ、それぞれの隊へと向かい出す。

ダラムに向かう、未知の強大なる脅威と対峙する為に。


 ・・・・・・アラン、ネルソン、ブライアンの3人は、大公国内では「ダラムの三銃士」と呼ばれる

勇猛で忠実な騎士達だ。


 3人の中で一番若く、正義に燃える熱血理想主義者、アラン。

寡黙ながら忠義に厚く、必要以上の成果をきっちりと上げる律儀な大男、ネルソン。

3人のまとめ役であり、沈着冷静、頭脳明晰で常に穏やかな表情の軍師ブライアン。

それぞれが、大公国の騎士団中隊500名程を率いる優秀な騎士隊長。

連隊長サンレゾの信任厚く、このダラムの治安、防衛関連は全て彼らに一任されている。


 頭に血が上りやすく、つい突っ走りがちになるアランを抑えつつ、冷静なブライアンが作戦を立案し、

ネルソンは忠実に実行する。

互いの長所を尊重し、活かし合うように一致団結して戦う彼らは、まさに鬼神の如き強さだ。

今までも、どんな強敵であっても瞬く間に撃破してきた。


 生まれも育ちも性格も全く違う3人ではあるが、時には反発もあるがまるで兄弟のように

互いを理解し合い、協力し合い、切磋琢磨する事でダラムは鉄壁の守備を誇っている。

今回も、強い意志と絆の力で「何であろうと」撃破できると、固く信じている。

アランは心に誓う。

......必ずや、シアンの仇を討ち、ダラムの都市まちを守る......!


 そのアランの横顔を見つめながら、ブライアンは優しく語りかける。

「......急がねばなりませんが、焦りは禁物ですよ、アラン。我ら3人ならば、

決して大した敵ではありませんからね......ねえ?ネルソン」

「......そうだな」ボソッと一言、ネルソンが返す。

「その「何か」をダラムの城壁前ギリギリまでまで引き付けてから、我々の部隊で包囲しましょう。

......通常いつもどうり、軽く撃退してやりましょう」ブライアンが微笑みかける。


 ......ただし、彼らの持つ情報には誤りがある。

ミリアは陥落していないし、侵略者ヴィエンヌは全滅した。だが、彼らは把握できていない。

全てが急すぎて、司教国軍のミリア侵攻直前までの古い情報しか持ち合わせていないのだ。

......彼らの想像する、司教国軍や魔獣を遥かに凌駕する存在と対決するなどとは、

夢想だにしない。せいぜいが、「砦の約200程の兵を瞬殺した、何か」程度のものだと考えている。



 ......ヴェールの山麓の原始林を抜け、直進を進むハリケーン号の遥か前方に

巨大な城壁を持つ都市が現れる。その城壁前に陣取る、多数の騎士団らしき大きな黒い影が見えた。


 「......随分と、お待たせしちゃったみてぇだな。」

操舵輪を握りながら呟くあつしに、ファルナが泣きそうな顔で話しかける。

「......ど、どうなさるお積りなのでしょうか......? そ、そのまま、正面から

轢き......潰されるのでは......! 」


 ファルナの頬を優しく撫でながら、穏やかな口調で落ち着かせるように話すあつし。

「......オメェの仲間だった奴らなんだろ? いきなり、そんな可哀想なマネはしねぇからよ、

安心しろって......まずは、正面から「正々堂々と、穏やかな話し合い」からだろ? な? 」


「......何と、慈悲深きお言葉......!有難う、御座います......!」


「喜ぶのは......まだはえぇよ。あくまで、話次第だ。宜しく頼むな? 」


 頼りにされている実感。たった一言ででファルナは天にも昇る様な高揚感を覚え、舞い上がる。

「はっ、はい......!!わ、私の命に賭けましても、貴方様のぉ゛っぅぅ゛!? 」

ファルナの頬をあつしの指が、チミチミと強くつねっている。


 「......命、賭けっとか、余計だ。危ねぇマネだけは絶対ぜってぇ、すんな。

怪我とかしたら、絶対ぜってぇ、許さん。......マジで泣かす。いいな......?

あくまで、説得してみる役だからな? くれぐれも、俺の後ろから絶対ぜってぇ、離れんな? 」


「ふ、ふぁ゛ぃ......! ふぁ、ふぁかりまふぃたぁ......!! 」

抓られながらお説教されて、涙目のファルナさん......


 一方、ダラムの城壁前で待ち構える三銃士の騎士団は、轟音を響かせながら

こちら側に向かって突き進む、巨大な陸の帆船の異様さに度肝を抜かれ、激しく動揺していた。


 ざわつく団員達を、必死で激を飛ばすアラン。彼の表情にも、明らかな焦りの色が見える。

・・・・・・何なんだ、ありゃぁ! 何で、陸を、あんなデケェのが......!!

あ、あんな帆船、止められるのかよ......!?


 ブライアンやネルソンの隊も、隊列を崩さないようにする事で手一杯だ。

遠目からでもわかる。あの巨大な鉄の塊は、ヒトの力程度では、まず止められない。

まるで蟻んこのように、プチプチと潰されていくだろう。

勇猛で鳴らした筈の屈強な騎士おとこ達が皆、恐怖でガタガタ身震いしている。


 ......恐怖を信念で捻じ伏せ、アランは覚悟を決める。

この身は千切れようと、何としてでも帆船アレを止め、ダラムを......!!

震える手で、固く剣を握る。気合を入れ、雄叫びを上げた、その時......


......アランたちの眼前で、帆船は急激に速度を落とし......停泊した。


安堵と同時に、呆気にとられる騎士団の面々。


 巨大な船体に、両側に多数配備される大砲、不思議な両翼。見る者は皆、圧倒され、言葉を失う。

......この帆船ふね一隻だけで、ここの騎士団・約2000名は軽く殲滅されてしまいそうだ。


 騎士団の誰もが皆、固唾を呑んで状況を見守る。

......敵か味方か......? 船内なかには一体、何人いるんだ......?

主は誰だ......? 目的は何だ......? 外に出てくるのか......?


張り裂けそうな程の極度の緊張感が、アラン達を支配し続けている。


 ・・・・・・やがて、甲板の上に登場する鎧姿の男に、全ての者の視線が釘付けとなる。

縄梯子で下に降りてくる全身、黒づくめの騎士にコアラのように前からしがみ付く、

一人のフードローブ姿の顔を隠した女。

黒騎士はお買い物袋のように、片手で巨大な大剣と盗賊姿の男を軽々と抱えて降りてくる。

降りてくるのは......たった、これだけの人数のみ。


 騎士団の皆が、混乱する。余裕だからか、親善なのか、はたまた、別の目的なのか。

まるで人類が初めて、円盤から地上に降りる宇宙人を見るような......

奇異、恐怖、不安、畏怖、疑念......あらゆる感情が混ざり合い、何も出来ずにただ、待つ。


 「......あ、あつし殿っ! ひ、人前で、こ、このような格好は、

さ、さすがに、恥ずかしいですっ......!! 」

あつしにしがみ付くファルナが、顔を真っ赤にしてあつしに訴えかける。


 「仕方無ぇだろが......! 弓でられちゃぁ、おしめぇだろぉがよ。

......嫌でも落っこちねぇ様に、しっかり、手ぇ、掴んどけよ。......いいな? 」


 「い、いぇッ! ......嫌ではなく、むしろ、う、嬉しい......ではなくっ!

この......状況、が......そ、そのぉ......」

不機嫌そうなあつしに焦るファルナの、シドロモドロの返答。


 「......? ヘンな奴。まぁ、いいや。......ホラ、着いたぞ。後ろ、くっ付いていろ」

ファルナとハキムを地面に下ろすと、堂々とした態度で、あつしはアラン達の騎士団を見渡す。


 ・・・・・・正面側にはブライアンの隊と奥にサンレゾと親衛隊。右にはアランの隊。

そして左にはネルソンの部隊があつしを包囲する様に整列し、無言で待ち構える。


 「......俺の名はァ! 流浪の黒騎士で、あつし、って、いうモンだがよぉ......!

......此処のぉ! 統治者で連隊長サンレゾってぇのは、どこのどいつだ......? 」

良く響き渡る、大きな声。大勢の兵に囲まれても微動だにせず、余裕の物腰で仁王立ちする

黒騎士に怖気づき、誰も返事ができない。


 「......ファルナ、野郎サンレゾはココに居るか? 」

小声で確認を取る。

「......いえ、前方にはおりません。......もし、居るのであれば後方に紛れておるのでは、と」


 意を決して、アランが黒騎士の前に姿を現す。

「此処、ダラムの守護を任されている、アランと申す。......き、貴様は一体、何者なんだ!?

......シアンで一体、何をした!? そもそも、サンレゾ様に」

「先に、俺の質問に答えろやァァァ!!! ......礼儀を知らねぇ、野郎だな。

もう一回、言うぞ。......サンレゾってぇのは、ドコに居るんだ? ん? 」


 アランの言葉を遮る、黒騎士の怒声。気迫に押されて黙り込むアランとの間に

ブライアンが割り込んでくる。

「......大変、失礼致しました。このアランと共に此処を守護するブライアンと申します。

失礼ですが、サンレゾ様に何用でいらっしゃいますか? まずは、お聞かせ願いたい」

丁重に一礼した後、穏やかな口調で話し出すブライアン。


 「妖精を探してる。......シアンの奴隷市場で、サンレゾの野郎が連れていきやがった

ミアってぇ、見た目5歳最位くれぇの、女のシルフだ。

.......無事にさっさと返せや、コラ」


 「妖精? 奴隷市場ぁ!? シアンでぇ!? 貴様、一体、何を言って......」

つい、口を挟むアラン。

「イチイチ、話に割り込むなやァァァ!!!! まずは、サンレゾ、連れてこいヤァァァ!!!! 」

黒騎士は、眼前の2000名の兵を前に苛つき、剣を構え殺気立つ。


「......あつし様! お、お待ち下さい! まずは話し合いだと、先程は......! 」

後ろで女が必死になって、黒騎士を説得している様子を、ただ呆気に取られて眺める騎士達。


 「......一体、何なのだ、お前達は。......全く騒々しい奴等だな」


中央の隊列がモーゼの十戒の一シーンのように大きく割れて、

中から小規模の騎士隊が黒騎士の前に姿を見せる。

明らかに差別化された、防御力が高そうな金色の鎧の男が、馬上から黒騎士を見下ろす。


「......!! あ、あつし様っ、アレが......サ、サンレゾ、です......!」

驚きで上擦うわずった声を出すファルナ。緊張で、身体が震え出す。


「......? 誰だ、お前は。どこかで会った者か? 何故、儂の名を知っておる? 」

不思議そうに首を傾げる金鎧のサンレゾ。


 「ほぉ......オメェがサンレゾさんかい。......聞いてたんだろ? 手前テメェ

連れてった、妖精シルフの女の子......さっさと連れてこいや」


 「......いきなり、奴隷とか妖精とか、一体、何の戯言ざれごとだ?

貴様の方が最低限の口の利き方も知らぬ、低俗な輩にしか見えんがな。......何が目的だ? 」


圧倒的な兵数を背景に、あくまで強気で見下した口調のサンレゾ。

サンレゾの毅然とした態度に、騎士団の皆の間に安心感と士気が徐々に高まっていく。


 「あくまで、砦で何があったか知らねぇ、ってか? ......いいぜ。忘れたんなら、

思い出してもらうダケだからよ......っと! 」

地面に転がる男のフードコートを勢い良く引き剥がすと、

手枷と足枷をはめられたハキムの姿がサンレゾの視界に入ってくる。


 「!!! 」驚愕で一瞬、サンレゾの表情が硬くなる。努めて平静を装うが、

兜の中の表情は青くなり、鎧の下の素肌は、べっとりと冷や汗をかいている。

「......誰だ、コイツは。......知らん顔だ」


「サ、サンレゾ様ぁ......もう、お終いです。さすがに、もう......! 」

蚊の鳴くような、ハキムの泣き声。


 戸惑い、黒騎士とサンレゾの会話を食い入る様に眺めるダラムの騎士達。

......何だ、この会話......何の話をしてる......!?

アランも、気が気でならない。全く会話の内容についていけていない。

静かな表情で、状況を見つめるブライアンに、無表情のネルソン。


 「まだ思い出せねぇか......ついでに、これも見せとこうか? ホレ」

懐から出す、「蠍の巣」からサンレゾ宛への書類の数々。


 「思い出したかァァ!? ......オメェは、沢山の賄賂を貰った見返りにィィィ!!!

この外道の奴等を砦に匿うばかりかァァ!! 砦の中で奴隷市場など開きやがってェェェ!!!

妖精共を、死なせてきたんだよなァァァ!!!! 」


 たった一人の黒騎士から湧き出る、激しい憤怒と殺意の念が周囲を震撼させる。

......まさに、鬼神。


 「こ、こんな書類モノ......いくらでも偽造できるような代物だ。

......何の証拠にも、なりゃあ、せんわ。黒騎士オマエも、この盗賊オトコもな」


 動揺しながらも、シラを切り通すサンレゾにファルナが痺れを切らし、叫ぶ。

「......連隊長殿!! 私の顔と声をお忘れか......!!! 私も、見た!!!

あの砦での、汚らわしく非道な行いの数々......!!! 私も、証人だ!!! 」


 「......ファルナ......大隊長か? な、何故......貴様が、此処で、生きて......!? 

ミ、ミリアの陥落で貴様は死んだ筈では......!? 」

驚愕でサンレゾの声が震えている。ファルナは続ける。


 「私、ファルナは生きている! ......司教国ヴィエンヌは撃退し、ミリアは死守した!

......全て、この黒騎士殿かたの御活躍の御蔭だ!!」


有り得ない。ファルナの叫びにサンレゾ含め、ダラムの騎士団の者が皆、耳を疑う。


 「で、出鱈目デタラメだ!! ......し、司教国7000程の兵を

援軍無く、貴様等キサマら如きで撃退し、即、此処ダラムまで来ただと......!? 

しかも途中、シアン攻略おとしてきたなど......! あ、有り得んわ!!! 」


 「......カハハッ!! (笑)こりゃ、傑作だ。信じたくねぇってか。

そりゃ、仕方無ぇよなー。そんな情報、持って無ぇもんなあ。そりゃぁ、確かに仕方無ぇ。

......残念だがなぁ、7000の司教国ヴィエンヌ共は皆、死んだんだよ。

オメェらが援軍も寄越さずに、見殺しにしたハズのミリアが無事なのはなぁ......

「この、俺様」が、奴等を皆殺しにしたからなんだよ......! 」


 事も無げに、笑いながら話す黒騎士に、サンレゾ達の混乱は更に深まる。

「......貴様、狂っておるのか? ......貴様は一体、何を言って......」


 「こう話してて、不思議なんだがよぉ? オメェ、「司教国の兵は7000」って具体的な数、

一体いってぇ、ドコから手に入れた? ......ソコだけやけに正確なんだよなぁ。

事前に蠍の巣からでも貰ったか? その上で見捨てたか? ん?

......それとも、オメェの方からミリアの情報でも売りつけたんか......? 」

黒騎士は、サンレゾに語りかけながら、転がるハキムの首に剣先を当てる。

ハキムの首からダラダラと、幾筋もの血が流れ出していく。


 「......もっ! 貰いましたァァ!! サンレゾ様より、ミリアの兵力削減の情報を頂き!

情報ソレが司教国に高く売れてッ! ......ミリア侵攻の情報は、我々からッ!!! 」

恐れおののき、泣き叫ぶハキム。


 「 お、おのれ! あッ、貴方はァァァッ!!! 金の為に、く、大公国くにを......!

我等を裏切り、大勢を見殺しにしたと言うのかぁぁぁぁ!!!! 」

身を乗り出しながら、憤怒の表情でファルナが叫ぶ。三銃士も事の推移を見守っている。


 ......ぐぅの音も出ない表情のサンレゾが、ようやく重い口を開く。

「......くだらん会話だ。......さっさと、始末せい」

親衛隊にそう命じると、会話を切り上げ奥へと下がっていく。


命令と同時に、弓兵の放つ無数の矢が黒騎士とファルナに向け飛来する。

咄嗟にファルナを庇い、覆いかぶさる黒騎士。背中のマントに矢が突き刺さっていく。

あっという間にハキムは多数の矢に射抜かれてまるで剣山のような、

矢だらけの哀れな姿の屍と化した。


 黒騎士の死亡を確認に近づく、親衛隊の騎士10名程が絶叫と共に、

血しぶきを上げる肉片へと変わる。

......ダラムの騎士もの達、皆が......戦慄する。

無傷で立ち上がり、一振りで大勢を撫で斬りにする男......黒騎士の存在に。


 「お、お怪我はございませんか......!? わ、私などの為に、貴方様の身に何か......!! 」

顔面蒼白のファルナに、優しく語りかける。

「俺ぁ、ダイジョウブだって。怪我ぁ、無くて良かったな......後は、下がってな」


 後ろに下げたファルナを護るように、戦空艇より飛び立った三匹のグリフォンが傍に寄り添う。

シアンで活躍した、あの獣神たちだ。

初めて見る、未知なる魔獣に騎士団の連中からどよめきの声が上がる。


 すかさず詠唱する ― Dark biting (闇の棘)―

地面から這い出る無数の黒い棘の蔦植物は、ダラムの城扉にびっしりと貼りついて退路を断つ。


「オイオイオイ、勝手に帰んなよ......ってまぁ、帰さねぇけどな。

......オィ! 騎士共テメェら!! よーく、聞けよォォ!!!

ゼニの為に外道と組んで国を裏切りィ! 護るべき民も多数死なせたこのサンレゾって、野郎にィ!!

かける情けは欠片もねぇよ。・・・・・・その上で最後に聞いておくぞォォォ!!!!

この野郎の為の、正義でも! 愛国心でも!! 騎士精神でもねぇ戦いを始めたい奴はいるかァ!?

いるなら、かかってこいや!! 1000だろーが2000だろぅが、構わねぇよ。

どいつも、まとめて肉切れにしてやらァァァ!!! 

......ただしィィィ!!! 戦う気の無ぇ奴ぁ、この場を離れな!!!

そん時ぁ、命だけは助けてやらぁ。......さぁ、どぉすんだ!? 決めろやァァァ!!!! 」


 たった1人が、2000名に対して行う最終通告。

騎士団の全ての者が硬直し、沈黙する。後方から、サンレゾの叱咤激励の声が空しく響いている。


 気が付くと......アランは涙を流していた。

剣を握る手に、どうしても力が入らない。忠誠を誓ったはずの主君サンレゾを護る気など起きない。

......黒騎士コイツの言う通りだ。......ここからの戦いに正義など、無い。

悪党の主君を護る事と、見捨てる事と......どちらが正解だ? 裏切り者はどっちだ!?

苦悩する。躊躇する。混乱する。......固い信念が、いとも簡単に瓦解していく。


 「......アラン、良いのです。ここからは......己の信じる道を選びなさい。

私は、決して貴方を責めませんから」背後からブライアンが優しく声をかける。

「貴方は昔から......正義と情熱の騎士。それで良いのです。

あの黒騎士オトコの言う通り......この場を離れなさい。希望者と共に」


 「......黒騎士殿! 今一度、お願いで御座います! 

戦う意志が無い騎士もの達には、決して手を出さぬ事を! お約束頂けますか!? 」

ブライアンの問いかけに、黒騎士は不機嫌そうに返す。

「......武士オトコに二言は無ぇんだよ。......さっさとしろや」


「よぉーし! 御前達に告ぐ! ......これより、あの黒騎士と戦う意志がある者は残り、

戦う意志無き者は、このアランと共にこの場を立ち去るのだ!! 良いな!? 

......自由に選んで構わん! 罰則は無い! さぁ、はよぅ、行動せぇ!! 」


 ブライアンの言葉に安堵したように、多数の騎士達が、ゾロゾロと隊列から離れていく。

「では、アラン......残った騎士達を、宜しくお願いしますよ。

血は繋がらないが......私の可愛い弟よ」

そう言って微笑むと、軽く背中を叩いて隊列からの離脱を促した。


 「ブライアンっ、貴様ァ!! い、一体、どういう積りでっ......!!」

怒鳴り込むサンレゾに動じる事無く、穏やかな口調で応じるブライアン。


「どうもこうも......今からの戦いに大義も正義もありません。

貴方様を護る気があるかどうか。だけの戦いですからねぇ。無い者には、可哀想でしょう。

......ほら、貴方様の親衛隊からも離脱者が続出してますよ? 困りましたねぇ。

......貴方様達だけで、あの黒騎士オトコに本気で勝てるとお思いですか? 

希望者は......離脱させなさい。そして少し......黙ってて下さい」


「ブ、ブライアン......! あ、貴方は......! 」

その場に留まるブライアンに、アランが悲痛の表情で叫ぶ。微笑み返すアラン。


......やがて時は過ぎ、ダラムの騎士団は大きく2つに分断された。


 1つは、アラン率いる黒騎士とは戦う意思を失くしてサンレゾに見切りをつけた集団。

そして、もう1つは......主君サンレゾを護る為に黒騎士と剣を交える事を選択した、

ブライアン率いる集団だ。

......正確には、主君の為というより、ブライアンと共に戦う選択をした、という者が

圧倒的に多いのかもしれない。


 「......ネルソン、貴方まで、この場に残る必要など、全く無かったのに」

隣に並ぶ無表情のネルソンに、ブライアンが困った表情で語りかける。

「まあ、いいじゃねえか。......これも、俺の自由だ。付き合わせろ」

いつもどおりの、ボソっとしたネルソンの呟き。思わずブライアンに笑みがこぼれる。


 「......これで全部か。最後に聞いておくが、オメェらにとって今からの戦いは

一体いってぇ、何の為だ? ......やっぱ、こんな外道サンレゾを護る為の戦いか? 」


 不思議そうに首を傾げる黒騎士に、ネルソンが無表情で答える。

「......正義は無いが、忠義はある。悪党こんなのでも一応、主君なんでな。

......主君は、選べねえ。......ただ、それだけだ」


 「......毒食わば、皿まで。......まぁ、そんなところでしょうか」

穏やかな表情で、ブライアンも返す。......暫しの間、沈黙の間が流れる。


 「まぁ、そんな考え方もあるかもしれん......否定はしねぇが、共感も同情もしねぇ。

ただ、外道の為に俺の前、邪魔するんなら......全て、叩っ斬る」


 呆れた様な、深い溜息をついた後に黒騎士は、大剣を身構える。

気配を察したグリフォンの1匹が、ファルナを掴み安全な戦空挺の甲板上まで避難する。


 一気に周囲に充満する、身体中から漲る殺気。

まるで魔人と対峙しているかの如き、圧倒的な威圧感。

瞬く間に、騎士団の間に恐怖と動揺が広がっていく。


 次いで、アビリティの詠唱。

― マスター・オブ・レイジ ―(自己と味方全員への攻撃加護絶大)

― マスター・オブ・ディフェンスクレイブ ―

(敵全体の防御力を最下限に下降)


 黒騎士の鎧と大剣より湧き出る幻想的な青白いオーラが、騎士達を死へといざなう。

瞬時に黒騎士が騎士団に突進し、騎士を切り捨てる事で1対1000の戦いの火蓋は切られた。


 ......ダラムの平野にて、砂塵が舞う。雄叫びも、絶叫も、血しぶきも肉片も全てが舞い上がる。

砂塵の中央で剣を振る黒騎士。勇猛で鳴らしたダラムの騎士達が、玩具おもちゃの人形のように

幾人も薙ぎ倒され、千切れ、紙切れのように舞い上がる。

騎士団自慢の鎧は何の役にも立たず、ブツ切りにされ、剣は折れる。

アビリティで威力を増した剣の一振りで、20人以上の騎士達が、物言わぬタダの肉の塊と変わる。

黒騎士はただ黙々と、屍の山を積み上げていく。


 Arrowy rain ― 矢の雨 ― の詠唱。

天から騎士達に向け、無数に降り注ぐ光の矢が体を貫き、串刺しにしていく。


 ......黒騎士相手に悲壮な戦いを仕掛けているのは、ブライアンとネルソンの隊が殆どで、

肝心のサンレゾ直属の親衛隊は、姑息にも手薄な戦空艇側に兵を向かわせていた。

それを迎え撃つは、3匹のSRグリフォン。

艇に近寄る騎士達を片っ端から強力な爪で引き裂き、引き千切り、食い散らかして寄せ付けない。

ここでも、おびただしい数の屍が次々と出来上がっていく。


 「ち、畜生めェェェ!!! たかが......黒騎士1人と魔獣3匹如きを......

な、何だ、これはァァァ!!!? 我が、騎士団が......!!!

行けっ!! 行かんかァァァ!!! 黒騎士ヤツを倒さんかァァァ!!!! 」

安全な場所から目を血走らせたサンレゾの、声を枯らさんばかりの絶叫など、誰も聞いちゃいない。

......1人、また1人と無謀な突進で死者の数が増やされていく。


 アランを含めた戦う意思の無い騎士達は、離れた場所から何も出来ず、ただ震えながら

この戦闘を眺めている。

竜巻のような砂塵が舞い上がっている間はあの黒騎士オトコは生きている。

遠目からでも、瞬く間に騎士の数が減っていくのが容易に確認できる。


 最早、戦闘とは呼べないかもしれない。まさに、鬼神の怒りの鉄槌。

自分達の力では、どうにも出来ない天災のような......無力感が漂う。

ただひたすら、嵐が過ぎ去るのを、震えながら、待つ。


 戦空挺の中では、ファルナが祈りを捧げている。ただひたすら、固く祈りを捧げている。

戦闘が始まった今は、ファルナには最早、祈る事しか出来ない。

......死に行く哀れな騎士なかま達が、少しでも苦痛無く安らかに逝けるように。

それと......早く、一刻も早く、いつも通りのちょっとだけ不機嫌で無愛想な、

いつも通りの黒騎士の姿で私達の元へ......!!

艇の皆と共に、祈りながら、待つ。


 ブライアンの後方で一際、大きな悲鳴が上がる。

逃げ回るサンレゾが、グリフォンの1匹にしっかりと捕獲されて身動きが取れず泣き喚いているのだ。

グリフォンの鋭利な爪はサンレゾの鎧を突き破り、しっかりと肉に食い込んで離さない。

一瞬の躊躇の後、ブライアンは黒騎士ではなくグリフォンに向けて馬を走らせる。

......が、別のグリフォンが上空からブライアン目掛け、容赦無く襲い掛かる。

鋭い一撃は辛うじて避けたものの、彼の愛馬は呆気なく頭を握り潰されて地面に転がり込んだ。

起き上がるブライアンの眼前に、巨大なグリフォンが身構えている。

落馬の衝撃による激痛。すぐには動けない状況でグリフォンはゆっくりと近づいていく。

獲物として認識されている、獰猛な猛禽類の視線に、威嚇する唸り声。


 最後の刻を、覚悟するブライアン。その時......

「ボサっと、すんな! ブライアン!! うおォォォ!!! 」

横から槍を持つネルソンが加勢する。驚いて飛び跳ねるグリフォン。

「......さっさと構えろ。諦めるのは、まだ早いだろ」

グリフォンを睨みながら、目も合わせず不愛想に呟くネルソン。

横顔をみるブライアンはつい、嬉しくなり頬が緩んでしまった。

「......笑ってる余裕は無いだろ」

「ふふっ......確かにそうですね。早々に、一匹目を倒してしまいましょう」


 獲物を邪魔されたグリフォンはかなり興奮している。

サンレゾ自慢の親衛隊を食い荒らした力を持つこの化物を、たった2人で倒せるのか......?

空中から繰り出される、凄まじい速さの爪やクチバシでの攻撃をすんでの所で

身をかわし、盾で受け流す。間髪を入れずにネルソンが槍で威嚇する。

......一瞬でも気が抜けて、タイミングが遅れた時は即、死ぬ。......先程の愛馬のように。

だからこそ慎重に、焦らず、じっくりと......連携した同じ動作を繰り返す。


 どちらかがミスした方が死ぬ状況で、先に大きく仕掛けたのはグリフォンからだった。

槍に気を取られ、なかなか致命的な一打を繰り出せない状況に苛つくグリフォンは

一際、けたたましく咆哮すると鬱憤を晴らすかの如き痛恨の一撃をブライアンに喰らわせる。

ブライアンの盾が凄まじい音と同時にへしゃげて、弾き飛ばされていく。

......グリフォンに一瞬の隙が出来たのを、ブライアンは見逃さなかった。


 すかさず、― A blow of freezing ― (氷結の一撃)の奥義を発動する。

無数の氷がグリフォンの無防備になった羽部分に集中して放たれる。

凍り付く羽で自由を奪われるグリフォンは、勢い良く地面に叩きつけられた。


 合わせてネルソンが奥義 ― 猪突雷突 ― を発動。

出せる以上の力を込めた、渾身の一撃をグリフォンの心臓目掛け、胴体に突き刺していく。

......激痛の悲鳴を上げながら、グリフォンは身をねじる。

ネルソンが地面に叩き付けられ、動きが止まる。まだ、グリフォンにとどめは刺せていない。


「んおぉぉぉぉぉぉ!!!!! 」残る力を振り絞り、強く右手の剣を振り抜くと、

断末魔の雄叫びを上げたグリフォンは、首が切り離された後に地面に倒れ、ようやく動かなくなった。


 「......ネ、ネルソン......! 大丈夫ですかっ......!? 」

慌ててネルソンの傍へ駆け寄るブライアン。

「ガハッ! カッ......! ま、まだ......死んじゃ、いねえぞ......!

ただ、肋骨の......何本かはイっちまったみてぇだ......」

大きく咳込み、吐血しながら苦しそうに呻くネルソン。


 互いの無事と、酷い怪我具合を眺め合い、不謹慎にも思わず笑い合う2人。

・・・・・・ブライアンの左手は折れてダラリと垂れ下がり、自慢の鎧も裂けている。

ネルソンも、鎧はベコベコにへこみ、兜は吹き飛んでしまっている。

どちらも血だらけで、立っているのもやっとの......まさに、満身創痍の状態。


 ここまでの思いをして倒せたのは......たった、グリフォン1匹のみ。

あと、2匹も......そして、黒騎士がいる。


 自嘲的な笑いしか出てこない。改めて周囲を見渡すと、夕日の差す地平線上に・......

数え切れない程、大地に転がる死体の黒い影が広がっている。

生き残っている騎士は......本当に、本当にごく僅かだ。


 黒騎士は攻撃の手を止め、死んだグリフォンの傍らで愛おしそうに亡骸の体を撫でていた。

手を止めて立ち上がり......2人を見据えて、口を開く。

「俺の神獣ペット、倒したのは......オメェらが初めてだ。......褒めてやるよ」

そして、穏やかな口調で語り続ける。

「もぅ......いいじゃ、ねぇか。 これ以上、り合うのは、不毛だろ?

こっちは外道アイツも、とっ捕まえたし、ここらで、おしめぇにしねぇか? 」


 顔を見合わせるブライアンとネルソン。暫しの沈黙が流れる。そして......

「なんと......寛大なるお心遣い。......誠に有難く存じます。

......ですが、最後に今一度だけ......貴方様とお手合わせを願いたい」

そして......ふらつきながら2人共、身構える。


 「......その意味が、マジで判んねぇ。ファルナといい、オメェらといい、なんで......

騎士道とか言ってすぐ、死にたがるんかねぇ......」


 「......ケジメは、必要でしょう。......私達2人が倒されれば、

残る僅かの者も......反撃の気力すら失くすでしょう。

残った者の命だけはどうか......お願い致します」


 遠くから、アランが叫びながら駆け寄ってくるのが見える。

「邪魔が入りそうですね。......では、失礼します」

一気に黒騎士に向かい、走り寄るブライアン達。黒騎士は......最早、構える事もしない。


最後の覚悟で臨む、全身全霊の力を注いだ ― A blow of freezing ― (氷結の一撃)の奥義。

避けもしない黒騎士。彼の防御力の高い鎧では、少しのダメージも与えられない。

悲壮な思いで振り下ろす剣は、まるで棒切れのように簡単に......折れた。

絶望と同時に、覚悟を決める。


 黒騎士は剣を下し......叫ぶ。

「必殺......! 渾身の、右ストレートぉぉぉ!!!! 」

顔面をぶっ飛ばされて、吹っ飛んだブライアンはそのまま、動かなくなった。

全くの予想外の攻撃に、一瞬たじろぐネルソン。

「もう、いっちょ必殺の......!! 左フックぅぅぅ!!!! 」

ネルソンも地面に叩き付けられて、ピクリとも動かない。慌てたアランが2人のもとへ駆け寄っていく。


 「はい、お終い......っと。オイ......そこの小僧! 」

「ハ、ハイッ......!! わ、私の事でございますか......!? 」

黒騎士の問いかけに、震えながら答える涙目のアラン。


 「死んでねぇハズだからよ。......ちゃんと介抱してやれ。で、目ぇ、覚ましたら言ってやれ。

隊長ならよぉ......ちったぁ、残ったモンの事ぐれぇ、考えてやれってな。ワカったか? 」


 「......!!! あ、有難う御座います......!!! 有難う......!!

御座います......!! あり......がとう......ござ......!! 」

涙で言葉にならないアランを横目に、黒騎士はサンレゾに近づいていく。


 「......お待たせ。じゃあ、行こっか。......ミアのいるトコロによ。案内せえや」

首根っこを掴んで引っ張り起こすと、そのままダラムの街中に引きずって歩いていく。


 ......サンレゾの居城内。渋るサンレゾを脅しつつ、寝室横の鍵をかけた書斎の中に入る

黒騎士一行は......言葉を失った。


 書斎内にずらりと立ち並ぶのは......実に多数の剥製だった。

エルフやシルフ、ニンフにピクシー、デュラハンにその他......大勢。

あらゆる種の精霊や妖精の「亜人たち」の変わり果てた姿がそこにあった。

下卑た欲望の為に集められ、奪われた命の数々の哀れさに抑えきれず湧き上がる怒りの衝動。

感情のままに、ただひたすら、殴り、蹴り、投げ飛ばす。泣き叫び、呻くサンレゾ。


 「お待ち下さい......! こ、これ以上は......我慢、我慢でございます!

居場所を聞き出す前に、死なせてしまっては! ......何卒、我慢を......!! 」

必死で金髪やファルナが黒騎士をサンレゾから引き離し、説得する。

震えるサンレゾが指差す先......壁の大きな本棚を動かすと、

その床は扉のある隠し部屋へと繋がっているようだった。


 扉の向こうの、地下へと続く薄暗い階段を下りていく。

途中、遭遇した番人か護衛かもわからないような雑魚は敵にもならない。瞬時に叩き殺した。

通路を突き進んだ一番、奥に見えたものは、地下牢だった。


 鉄格子の向こうに見える3つの動く姿。

どれも首輪と鎖で拘束されている、2人は大人の女。

そして、もう1人は......羽の生えた銀髪の幼女。

幼女を見るベルフルールが、歓喜の声を上げる。

「ああッ!! ミ、ミアぁ!!! ......良かった......!! 生きて......!! 」


 鍵を使うなど面倒臭く、鉄格子は大剣でぶった斬った。牢の中に飛び込むベルフルールは、

ミアの身体を強く、ただひたすら強く、抱き締める。

「無事で......! 良かった......! あたしの、大事な妹......!! 」


 号泣するベルフールに、ほっと胸をなでおろす黒騎士あつし

鎖を解いてやり、立ち上がると傍らには、ファルナが優しく、愛しむように微笑んでくれる。

「......本当に......お疲れ様で御座いました」


 大きな安堵感と、嬉しいような照れ臭いような、何かムズムズした思いが交差する。

つい、いつもの不愛想な態度で誤魔化そうとしている時......不意に横から

体当たり気味に抱き付いてくる2人の女に面食らい、あつしは素っ頓狂な声を出して飛び跳ねる。

「うわォ!? な、ナニ? 何だっ!? おめぇら、きゅ、急に......!?」


 「嗚呼、勇者様......!! あなたサマ、貴方様がわたし共を助けて下さったのですね!?

何と勇敢な御方なのでしょう......!! 何と、何と御礼申し上げれば良いのか、

言葉が見つかりません!! 嗚呼、是非! 貴方様への御恩返しを......!! 」 


 グイグイ迫り寄る亜人の美女2人。たじろぐ、あつし。

「ちょ、ちょ、チョットあなた方! 名も名乗らずに、失礼にも程があるでしょう! 

いきなり抱き付くなど、馴れ馴れしいにも程がありますよ! 

......離れなさい。あつし様から、さっさと離れなさいよォォォ!! ムキィ―!! 」


 般若の形相で亜人と揉み合いを始めるファルナ。呆気に取られている金髪に

「済まねぇな。......あと、ヨロシク」

有無を言わさず金髪に後処理を押し付け、サンレゾを引きずって部屋を出て行くあつし。

「さぁ、行こうぜ。......懺悔の時間だ」


 地下牢の向かい側には、拷問部屋らしき部屋が見えた。

室内に入ると、拘束具付きの寝台に乾いた血がこびり付いた、様々な器具が無造作に転がっている。

幾人もの血を吸い込んでドス黒く色づいた、床や壁。

カビや埃、血や汚物に薬品等、あらゆる匂いが混ざり合い、吐き気を催す。

おそらく、ここで......あの剥製たちは命を落としていったのだろう。


 黒騎士は怯えるサンレゾの顎を掴み、顔を寄せて穏やかに語りかける。

「さて、と......お別れの前に......!! 」

顎を掴む右手に憎悪の力を込めて、そのまま顎と頬の骨を握り潰していく。

ゴキッ、ゴキュッ、っと、骨が砕けていく嫌な音と右手の感触。

サンレゾの声にならない悶絶の悲鳴が拷問室内に響き渡る。

転げまわるサンレゾを押え付けて、そのまま順番に両腕と両足の骨もへし折っていく。

......サンレゾは芋虫のように、惨めに床の上でヒクヒクと痙攣している。


 「......気分はどーだい? ......喋れねぇ、触れねぇ、歩けねぇ。イイ、感じだろ?

もう、ココには用無しでだーれも来や、しねぇからよ......

安心して、ココで......朽ち果てて、死ね。懺悔しながらな......じゃぁな」


 寝返りも打てずに、うつ伏せでモゾモゾする事しか出来ないサンレゾは、

何を言っているのかもわからないし、もう、聞くつもりも無い。

踵を返して拷問室を出たあつし。地下牢では、まだファルナ達が騒々しく、やり合っている。


......呆れたような、安心したような溜息を一つ。


 「おぉーい!! ......俺ぁ、もぅ、先に戦空挺ふねに帰ってるからなぁ!

あと、ヨロシク頼むなぁー!! 」

慌てて、あつしに向かって駆け寄ってくるファルナ達。

ようやく、一仕事終えた達成感を感じるのと同時に、激しい疲労と空腹があつしを襲う。


......あぁ、早くメシ食って、シャワー浴びて......今日はもぅ、さっさと寝てぇ......


重い足を引きずるように、帰途につく。ハリケーン号が、主の帰りを待ってくれている......



































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