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3.虐殺の地

 ・・・・・・あつしが、ヤン一味を討伐後、ベガンの村に帰還してから、

既に二週間が過ぎようとしていた・・・・・・


 今は、真っ暗な午前二時。いわゆる丑三うしみつ時、という時間帯だ。

皆がぐっすりと寝静まる中、起こさぬ様に静かに、静かにハリケーン号に

向かって歩き続けている。


 生き残った女達(村に着くまでは、新しい搾取者マスターでは?

との恐怖から、全く会話が無かったのが、精神的に辛すぎたのだが)と共に、

ヤンから奪った(元はあつしのものだが)、大量の金貨を持って帰還した際の、村人達の凄まじいばかりの熱烈的歓喜と歓迎・称賛の嵐は、嬉しくもあるが

正直、面映おもはゆい日々であった。


・・・・・・まるで、鬼が島から戻った桃太郎みてぇだな、オレ・・・・・・


 神か天使かと、あがたてまつり、

村に貴重な備蓄の食材や酒を惜しげも無くご馳走して貰い、

まるで君主のような、何の不自由も無い暮らしを存分に楽しませてもらった。

この世界に来てからというもの、回復薬エクリシルしか、

口にしていなかったあつしには、涙が出るほど美味しかった。


 助けた女達も、とにかく献身的に、あつしの身の回りの世話を焼いてくれる。

まるで女中かメイドかと思う位、それも競うように。正直、熱心すぎて

こちらが引いてしまい、いつしか逃げ気味になってしまう程。


 そして、今・・・・・・あつしはこの村を去ろうとしている。心の中で、

皆にお礼と別れを告げて。


今までに、何度も、村を去ろうとはしていたが、その都度、強烈に慰留され、

嘆き悲しまれ、なかなか、村を出る事が出来なくなっていた。

この生活も悪くはない。だが・・・・・・

このまま、ずっと居続けるわけにもいかない。さすがに、そろそろ頃合いだ。


「・・・・・・やはり・・・・・・行きなさるか・・・・・・」


ハリケーン号に搭乗する直前、背後から村長のベルグが声をかけてくる。


 「なんだ、村長。・・・・・・居たのかよ。

せっかく、寝たかと思ったのによぉ・・・・・・

ゴメンな、皆に黙ったまんまでさ・・・・・・

・・・・・・今まで、ありがとな。でも、もぅ、行かなきゃ。」


「ワシ等は・・・あんたに、この先もずっと、この村におっ

ほしいんじゃが・・・・・・できる事なら、

ここで嫁でもめとってもろうて・・・・・・

ジルもあんたにゃ、死んだ叔父のように懐いておるし・・・・・・

やはり、駄目なのかのぉ・・・・・・」


残念そうに、懇願するベルグ。


「・・・・・・」


 あつしも、気付いている。女達が単に恩だけでは無く、思慕の念を抱きつつ、自分に接してくれている事実に。どのも皆、勿体無い程、魅力的だ。

このまま、この中の、どのかを選んで・・・・・・も、悪くない。

悪くないのだが・・・・・・


 ジルも素直で可愛い、妹のような存在だ。現実の妹とは、とっくの昔に

仲は修復不能になってしまってはいるが・・・・・・

馬鹿犬ベス公も含め、この世界にきて、心から、自分を和ませてくれた、

有難い存在だった。


 でも、これは「夢の中」なのだ。「自分にとって、都合の良い夢」なのだ。


 現実世界リアルじゃ彼女もできない自分が、

ここではハーレムでも・・・・・・と、

頭の中で、冷静に考え、冷めている自分がいる。目覚めた後が正直、怖い。


 ・・・・・・NPCに、惚れてもらっても、なぁ。

・・・・・・そんなにオレ、女に飢えてたっけ・・・・・・?


 どうせ「寝てる夢の途中」なら、まだ見ぬ冒険の先へ、目覚めるまで、

少しでも先へ・・・・・・! の思いの方が、大きいのだ。


 ベルグから、このヴィクセン大公国は、このベガンからかなり南部に進むと

首都トリアムが、北部に少し進むと司教国ヴィエンヌとの国境沿いに、

経済と軍事的の要衝である中規模都市ミリアがある事を教えてもらっている。


 この村はもう、暫くの間は安泰だ。大量の金貨は、貧しい村の発展に貢献し、

発展すれば他からの移住者も増える事で益々、豊かに繁栄してくれるだろう。

気を付けるのは、略奪者からの襲撃位だが、これもLV30ヘルハウンドを

一匹残しておけば、ヤンの時のような、ならず者集団のみならず、

ちょっとした軍の小隊位は軽く、蹴散らしてくれるだろう。


 それに対して、ヴィクセン大公国の国内情勢は、非常に不安定のようだ。

広大な「ファーラント大陸」の中央に位置するこの国は、巨大な運河を有し、

農工業や商業も栄え、非常に富む様だが、故に他国からの侵略も

非常に受けやすく、この大陸の紛争の歴史の常に中心であるようだ。


 元首のヘルム大公に忠誠を誓う騎士団が中心の軍隊は強力で、

長く平和を保たれていたが最近は、国境沿いでの司教国との諍いだけでなく、

遥か西方の国々からも、挑発を受けているようだ。その為に、

どうしても兵力が分散してしまい、戦力が弱まっている状況らしい。


 ・・・・・・大陸・・・・・・騎士団・・・・・・侵略・・・・・・危機。

なかなかに、興味をそそられる。あつしの心はもう、決まっていた。


 ・・・・・・まずは、近場のミリアだな・・・・・・うん。

んでもって、次に、トリアムに向かおうかな・・・・・・


「ありがてぇんだけどさ、女子供は危ねぇから・・・・・・

連れてけねぇんだよ。・・・・・・ヘルハウンド、可愛がってやってくれよ。

村の為にガンバッてくれるはずだからさ。

・・・・・・ホント、今までありがとな、村長さん。・・・・・・じゃっ」


 笑顔で別れの挨拶を済ませ、ハリケーン号に搭乗すると、

巨大な戦空艇は大きな轟音を響かせながら、村を去っていく。


「礼を言うのは、ワシらのほうなんじゃ・・・・・・!

いつでも、戻ってきてくれ・・・・・・!待っとるからなっ・・・・・・! 」


ベルグの絶叫が、痛いほど、耳と心に突き刺さる。


 ・・・・・・さらば、ベガンのみんな。

・・・・・・俺は、新天地を・・・・・・目指す・・・・・・!!


 しばらく、しんみりしながら暗闇の中をひとり、操舵輪を握り締めるあつし。

操縦に没頭していると、背後から何かの・・・・・・気配。

・・・・・・それも人外・・・・・・の・・・・・・?


 ・・・・・・時間も時間だ、この世界でも、なにやら、

幽霊らしからぬモノがでたって、別に可笑おかしかぁ、ねぇけど・・・・・いやいや、チョット待って・・・・・・ソッチ系、苦手なんだよねぇ(冷汗)


・・・・・・そう、現実世界リアルではあつしは、ホラーやスプラッターは

大の苦手だ。特に怨念に取り付かれる系とか、猟奇殺人的なヤツとか。


 どっちも、理不尽で最後は救いの無いエンディング多し。

ついつい、見てしまった日にゃぁ、その後三日間程は、

うつモード確定。・・・・・・怖いのは、大嫌いなのだ!!!!!


 ハァッ・・・・・・ハァッ、ハァ・・・・・・近づく、息づかい。

怖くて、後ろが振り向けない。鳥肌、立ってきた。

・・・・・・頼む、あっち行って、アッチいってっ・・・・・・!!!!!


「ぅワンッ! ワンッ・・・・・・! ハッ、ハッ・・・・・・ゥワンッ! 」


「うぉわっ!!! ぁああああああっ!! ひぃぃぃっ!!!!!!!!! 」


 思いっきり、ビックリ飛び跳ね、逃げ回ってしまった。

・・・・・・が、ベ・・・・・・ベス公、か・・・・・・!?


 ダイナミックにあつしに飛びつき、全身で喜びを示すベス公。

頼むから兜のスキマに舌ぁ、入れるなって・・・


「・・・・・・ベス公がいるって、こたぁ、あぁっ!コラっ、ジルぅ!! 」


 予感の通り周囲を見回すと、一生懸命、奥の影から隠れて

コッチを覗いているジル発見。


「あっ・・・・・・見つかっ、ちゃった・・・・・・えへへ・・・・・・」

バツが悪そうに、苦笑いしてやがる。


「えへへ・・・・・・じゃ、ねぇよ、この、バカモンっ!!!!! 

オマェ、一体どぉやって・・・・・・ま、まぁ、いいや。

コドモはもぅ、寝てなきゃいけねぇ時間だ。村に戻るから、帰るんだぞ、

いいな!?」


 「・・・・・・イヤです」

凛とした表情で、ジルが即答する。


「村を出るのなら・・・お供します。」

「ぅワンッ!!」ベス公も即、吠え。


「ぃぃぃ!?  お、お供するじゃ、ねぇよ。女子供は危ねぇから、

ダメだっ!!! ホラっ、おうち、帰んなさぃ・・・・・・ってコラっ、逃げんなって・・・・・・!! 」


 「イ ・ ヤ ・ で ・ す (キッパリ)。お供します!

・・・・・・って、やっ、なにするんですかっ、って、

ヤ・メ・テ・く・だ・さ・いっ!!

・・・・・・イヤぁ! イヤイヤイヤァァァァ!! 」


 操舵室内を捕まるまいと、必死の形相で逃げ回るジルに、

これまた必死の形相で追い回す、あつし。

その傍を、ワンワン吠えて楽しそうにはしゃぎ回るベス。

・・・なんだ、これ。まだ早朝の三時だぜ。


「・・・・・・ハァ、はぁ、ハァ。・・・・・・ど、どーしても、

村に帰れって、仰るなら・・・・・・も、もぉ、いいです。

・・・・・・あたし、ココから・・・・・・!! 」


壁に追い詰められ、決死の形相で窓から飛び降りようと、身を乗り出すジルを、


「だぁぁああああああぁ!! ぅわっ、バカッ、やめぇぇぇぇぇぇっ!!! 」

間一髪、腕を掴んで引き戻すあつし。


・・・・・・ヤバ、かった。・・・・・・心臓に、悪いぜ・・・・・・


 「バッキャロォ―――――――――――ゥ!!!!!!!!!!!!!!!

(死語)何ィ、考えてんだぁ、この、バカチンがぁぁぁ!! 死んじまぅかと、思ったじゃねぇかぁぁ!!!! 」


 「ご め゛ん゛な゛ざぃぃぃ・・・・・・!! (号泣)だあ゛っ、でぇ、

帰れ゛ってぇ、ゆ゛ぅからぁ゛!! 怖かったぁぁぁ・・・・・・!  

ひぃぃぃん・・・! 」


 泣きじゃくるジルに、どんどん怒りゲージが削がれていき、いつしか、

あやす口調に。


「・・・・・・いや、だから・・・・・・さ? これからの

俺の旅は、さ・・・・・・? スゲェ、危ねぇんだよね・・・・・・?

だもんで、さ・・・・・・女子供は・・・・・・」


「・・・・・・イヤです(キッパリ)」


豹変する、ジルの表情にあつし、絶句。


 「・・・・・・お世話する者は、必要です!・・・・・・

絶対、必要になります、ってゆーか、もぉ、今、必要ですっ!!!

・・・・・・大体、あつし様一人で、ご飯とか、お洗濯とか、

お掃除とか・・・・・・とかとかとか、こぉーんなに、広い、

この場所で、一体どーするつもりなんですかぁ!? 」

「ぅワンッ! ワンッ」


 「・・・・・・えっ? ・・・・・・いやっ、どーするって、

別に・・・・・・飯はエクリシル飲めば別にいらねぇし、

べ、別に洗濯なんか、しなくたって・・・・・・」

「ダ ・メ ・で ・ すッッッ!!!!!!! (怒怒怒)」


 般若の表情のジルに、あつし、タジタジ。すっかり、

ずっとジルのターンで口撃されまくり。


「不健康なのも、不潔なのも、ダメですっっ!!!

・・・・・・あつし様は、勇者か、騎士様なのでしょう・・・・・・? 

そんなコトでは、イ ・ ケ ・ マ ・ セ ・ ン!!! 」


「ぐぅぅ・・・・・・」


「あたし、これでも、お掃除と、お洗濯に料理位は、ふつうにできます!

あつし様のお手伝い位なら、ダイジョウブです! 

ゼッタイ、足手まといにはなりません!! ガンバリます!!!

だから・・・・・・お願いです、ご一緒させて下さいっ!!!! 」


「ワンっ、ワぉン!! 」


 「ワンワンうるせぇよ!ベス公。・・・・・・ぅむむ・・・

ぐぅ・・・・・・ま、まぁ・・・・・・

そ、そこ、まで言ってくれるのなら・・・・・・まぁ・・・

まぁ、イイ、かな・・・・・・? 」


あつし、陥落。


 「ホントですか? ホントにほんとの本当に、イイんですよねっ!! 

ヤッタ、やったぁ!!!! 

・・・・・・ガンバリます、あたし、頑張ります!!!! 」


 「ワォン!!ワォォぉ―――――ん!!! 」

満面の笑顔のジルに、遠吠えのベス公。


 「で、でもよぉ・・・・・・食料なんて、ココにゃぁ、全っ然、無ぇぞ?

・・・・・・まず、どっか街探して入手しねぇと、オマエらの分も」


 「大丈夫です! さっき、いっぱい村から持ってきたから・・・・・・

しばらくの間は、全然、心配いりません!! 」


 「ワンっ!! 」得意満面のジル&ベス公。

見ると艇内には、数日分はありそうな、水や食材などが

既に積み込みされている。


 「うおっ! ・・・・・・これ、ジルが一人で全部、持ってきたのか?

・・・・・・すげぇな、確かにこれだけありゃあ、しばらくは・・・・・・」


「あ、村長さんとです。」


 「何ぃぃぃ―――――ッ!? あんのっ、村長じじい

だから、さっき、戦空艇ここおったんかい・・・・・・! 」


「あつし様にくれぐれも、よろしくと・・・。あっ、あと、これも預かってます。ぜひ、使ってほしい、って。」

大きな、巻紙を手渡しするジル。


 巻紙の中を開いて見ると・・・・・・このファーラント大陸全体の

「地図」だった。


 ヴィクセン大公国内は勿論の事、他国の都市等も詳細に記載されており、

これからの旅に非常に役立つ、重要なアイテムだ。

地図は、この世界ではかなりの貴重品だろう。あの村では、

おそらく至宝といってもいいものかもしれない。

惜しげもなく譲ってくれたベルグの心意気に、

あつしは、胸が熱くなるのを感じる。


「オマエら・・・・・・ホントにありがとな。じゃあ、行くぞ・・・・・・!」


「はいっ! 」


「ワォン! 」


戦空艇は再び、ミリアに向けて、動き出すのであった・・・・・・


 ・・・・・・何もない大地を何日も進んでいく。孤独じゃない、

話し相手がいてくれる旅は、格別だ。なーんて言葉にすると、

本人が天狗になるので言わないが・・・・・・

やっぱ、連れてきて、良かった・・・と、

今ではジル&ベス公に心から感謝している。


 実際、小さい体で、ちょこまか動き回り、身の回りの世話は

良くやってくれている。料理も、不味くはないし。

地図にしても、ここの文字は読めなかったが、コイツのお陰で助かっている。

ベス公は、いつものまんまだ。たまに、操縦の邪魔になるのに、

イラっとさせられる事はあるが・・・・・・


 心配なのは、非戦闘員キャラなので、艇内の賊の襲撃時。

あつしの傍に常にいれば、特に問題ないのだが・・・・・・


 ジルには、旅への同行の最低条件として、

「あつしの許可が無ければ、戦空艇からは降りない。お留守番。」

「まだ、コドモだから安全な、鍵付きの寝室で夜9時には就寝。」

「就寝中は、鍵付き寝室から、あつしの許可が無ければ、絶対に出ない

(トイレも寝室内)。あつしが命令の際は、即、寝室内避難。」

を、約束させている。とはいえ・・・・・・もし・・・・・・


 ・・・・・・と、いう訳で、親バカ的に心配しすぎた挙句、

「・・・艇内に警備用の獣神、置きゃイイじゃん! 」という、

結論に行き着きました。はい。


 幸いにも、ハズレS獣神なら、それはもう、腐る程(涙)眠らせているので、

とりあえず今回は・・・・・・

LV30・ゴールドゴーレムと、LV30・プラチナゴーレムに、

LV45・ダイヤモンドゴーレムの「ゴーレム三兄弟」を結成し、

警備用に戦空艇内に配置。

特に、ジルの寝室前にはダイヤモンドゴーレムを常に配備させて置く事にした。忠実で頑丈で馬鹿力だけが取り得といえば、それまでだが、

素材的にまず、そんじょそこらの賊の襲撃に破壊などされることは、

まずありえないだろう。これで、一安心だ。


「・・・・・・あっ! あつし様っ、あっち・・・・・・あの向こうに、

煙が見えますよ・・・・・・! 」


 外を眺めていたジルが、驚いたように、あつしの傍に駆け寄って、報告する。

「おぉ! スゲェな、ジル。お前、目ぇ、いいなぁ。

・・・・・んん? どこ・・・・・・だ? 」


 「えへへ・・・・・・あそこです。あの、向こう側です。見えませんか? 」

褒められて、照れ照れのジル。


目を凝らすと・・・遥か前方に、確かに煙らしきものが上がっているのが確認できる。


「え・・・・・・っと、あそこ、は・・・・・・ゴルガ・・・・・・村って、

ところみたいですねぇ。」


 地図と睨めっこの、ジルが教えてくれる。

遥か、前方からも確認できる位の煙・・・・・・? 

大規模な火事か・・・・・・? イヤな予感がする。


「とりあえず、あの村に向かってみよう。・・・・・・着いたらジル、

念の為に・・・・・・寝室でお留守番な」


 村に近づくにつれ、イヤな予感が現実のものとなる。

黒煙を上げる建物の数々、路面には無数の馬の蹄や人の足跡に、

馬車の車輪跡・・・・・・

「略奪・・・・・・か?」胸がザワつくのを感じる。


ジル&ベスを寝室内に留守番させ、用心しながらゴルガ村の探索活動に入る。


 大きな火はほぼ、鎮火した様だが、破壊された村内。

どれも、黒コゲで倒壊した建物や瓦礫の数々・・・・・・

道端には多数の死体が無造作に転がっている。黒コゲの者、

手足や首が無い者・・・・・・

状況から、襲撃から1~2日程は、既に過ぎているのではないだろうか。

農民や商人ばかりでなく、騎士姿の死体も非常に多い。


「チッ・・・・・・防げなかったのかよ。」


 胸糞が悪くなり、思わず舌打ちしてしまう。パっ、と、見ただけでも

数十人以上は、死んでいるだろう。どうやら、ただの略奪者ではなさそうだ。


 襲撃者の気配も無ければ、生存者の気配も感じない・・・・・・

瓦礫と死体ばかりが散らばる惨状に、呆然とするあつし。

これ以上の探索を行う意力も喪失し、一旦、艇に戻ろうかと向きを変えた途端、一人の騎士の死体につまづき、思い切り、転んでしまった。


「・・・・・・あ痛ッ!!・・・・・・いっ、たぁ、って、おぉ!? 」


 躓いた騎士から、微かに、呻き声らしき声が聞こえる。

「おおぉ!!! ・・・・・・まだっ・・・・・・生きてるかっ!? 」

懸命に抱きかかえ、声をかけるが、

「・・・・・・ぅ・・・・・・ぅぅ・・・・・・」

返事も無く、虫の息だ。


 無理やりに口をこじ開けて、回復薬エクリシルを、喉に流し込む。

「これで・・・・・・どうだ・・・・・・!? 助かるか・・・・・・!? 」


 見た目の傷は、見る間に回復していく。

顔色も、ふっくらとしたピンクの肌つやを取り戻し、

穏やかな呼吸の音が聞こえてくるまでに回復した。


「・・・・・・うぅっ、貴方、は・・・・・・一体・・・・・・!? 」


意識を取り戻し、声を発する青年騎士に、


「オレの事とか、細けぇ事は後回しだっ!! 

・・・・・・一体いってぇ、何だ?・・・・・・

何が起きた・・・・・・? 」


 ・・・・・・青年騎士は、ハンニヴァル・アーサーと名乗った。

大公国騎士団・大隊「黄金の鷹団」の、若き騎士だという。

長い金髪の美男子。こんな印象だ。まぁ、男にゃ興味は無いが。


「黄金の鷹団」は「ファルナ」という、これも若き女騎士が騎士隊長として、

1000名程の軍を上手にまとめ上げ、立派にミリアの守護を

務めているらしい。


 去年までは、他の騎士団も合わせ、総勢5000を超える軍勢で、

隣国ヴィエンヌに睨みを効かせて、要衝ミリアの平和は保たれていたが・・・・・・


遥か西方にある「ザイード帝国」「ヴァッソ共和国」「アーノエル王国」たる国々が突如、大公国に対しての三カ国同盟を結成し、宣戦布告。

西方からの侵攻を開始した、との状況から、ミリア近辺もおかしくなっていったという。


 大軍勢が西方より進軍中との情報に右往左往する上層部。

駐留する騎士団も、場当たり的な配置転換指令が飛び交い、削減され、

日に日に弱体化する戦力。現在の一大隊のみでは、敵の本格的な侵攻には、

とてもではないが、太刀打ちできない状況。

その状況を察知したかのように、ヴィエンヌからも本格的な侵攻・進軍の情報を受けたハンニヴァル含む偵察の為の小隊、約80名はここゴルガ村にて、

敵本体と遭遇、殲滅され。・・・・・・と、説明してくれた。


 「見た所・・・・・・もぉ、アンタ以外に生き残っているのは、

いないみてぇだな・・・・・・」


「避難させた、村人達が・・・無事、脱出できていれば良いのですが・・・。」


ハンニヴァル達、最後の残存勢は、自らの命を投げ打って村人を避難場所へと誘導していったという。


「避難経路ってぇのは・・・・・・あの向こう側か? 」


 「はい。あの教会の祭壇下は、隠し階段になっておりまして、

通路を通り抜けると・・・・・・村外れのエメン川へとつながっております。」


生き残る村人の確認の為、破壊された教会へと向かう。教会で2人が目にした「モノ」とは・・・・・・


見るも無残な大量の死体と、「惨たらしく虐殺された形跡」だった。


 死体。死体。死体、死体、死体、死体、死体・・・・・・

数百以上の、その殆どが無抵抗の村の住民達。


 それも、串刺しにされたままのものや、縛られたまま

「斬首」された胴だけのもの、磔で晒されたもの・・・・・・

その死体の山を通り過ぎて教会内部を見た時に、


「!!!!!!!!!!!!!!!!! 」


必死に我慢し、抑えていた「理性」が、一気に崩壊していくのを感じた。


・・・・・・それは、大量の女子供達が、なぶり殺しにされた、

無残な形跡だった。


 生き残っているものなど、いない。女は皆、陵辱されたのだろう。

皆、裸で血塗れで死んでいる。メッタ刺しのもの、腹を引き裂かれ、

内臓が飛び出た状態のもの、両手足、首も無いもの・・・・・・

子供に至っては、まるで生ゴミのように、教会の隅に山積みで

大量に放置されていた。


 どれもこれも・・・・・・

「時間をかけて、遊びながら、楽しみながら殺していった」鬼畜の所業だった。


「な、何と・・・・・・! おっ、ぉぉぉ、おぉ・・・・・・!! 」


あまりの惨状に、涙を流し、嗚咽の声を漏らすハンニヴァル。


 「・・・・・・何だ、コリャあ。・・・・・・神に仕える連中なんじゃぁ、

ねぇのかよ。どぉして、こんな非道ひでぇ、マネが・・・・・・」


 「奴等にとって異教徒は・・・・・・けがれた蛮族なのです。

「穢れた魂の浄化」であれば、何を行っても

「神の御意志」で、許されるのです・・・・・・」


 涙声で、ハンニヴァルが呟く。

布教という名の侵略。魂の浄化という名の虐殺に略奪。


 心が引き裂かれる。激しい怒りが、マグマのように全身から

噴出していくのがわかる。


許さねえ。許さねえ。許さねえ。許さねえ。許さねえ。許さねえ。許さねえ。


「ぅおおおおおぉぉ!!!!!! 殺すッ!!!!! ブッ殺す!!!!

こ、こんなっ・・・・・・畜生ッ、畜生ッ畜生・・・・・・!!!!! 」


知らず知らずに、涙が溢れ出る。


 「オイっ、金髪ゥ!! この、外道共ぁ、次はドコに向かってんだぁ!? 」

あつしの怒声に、


「き、金髪とは・・・・・・私のことでございますか!? 私の名は、ハンニ」


 「どぉーでも、イイからよ!! ドコ行きそうか、さっさと言えやぁぁぁ!!

ゴラァ!!! 」


「こ、この先を・・・・・・北へ馬で二日ほどで

ミリアに到着します・・・・・・」


 「馬で2日か。戦空艇なら、一日で、追いついてやらァ・・・・・・! 

オゥ、金髪ぅ、付いて来いッ!! ・・・・・・仇ィ、取ったるッ!!! 」


踵を返し、急ぎ艇に向かうあつし。


 「く、黒騎士殿っ・・・・・・お待ち下さいっ、

私の名は金髪では・・・・・・!」


慌てて、後を追うハンニヴァル。


「・・・・・・どうしたんですか? あつし様・・・・・・

・・・・・・何が・・・・・・あったんですか・・・・・・? 」


 艇に戻ると、心配そうに、ジル&ベスが、近づいてくる。哀しくて、

愛おしくて、憎くて・・・・・・


 あらゆる感情が昂ぶって、無事を確かめるようにただ強く、

小さな身体を強く、抱きしめる。


 「イタイいたいですっ! ・・・・・・ど、どうしたんですか?

・・・・・・何故、泣いて・・・・・・? 」


 「・・・・・・ダーイジョーブだよ・・・・・・何でも、ねぇよ。

・・・・・・速攻で、ミリアに向かう。ちょっと、外道共をブッ潰しにな。」


少し心を落ち着かせた後、あつしは呟く。


あつしの意図はハッキリわからないが・・・・・・


「・・・・・・わかりました。すぐ、用意します。」ジルも頷く。


「お、お待ち下さい!! 」


ハンニヴァルが叫ぶ。


 「つ、潰すなどと、簡単に申されるが・・・・・・

奴等の戦力をご存知なのですか!? ・・・・・・どう、少なく見ても

今回は数千以上はおりました。おそらく、ミリアも、もう・・・・・・

あれだけの軍勢に、黒騎士様は、一体、どのように・・・・・・」


「・・・・・・? このまま、行くよ・・・・・・? オレらだけでな? 」


それが何か? 的に、サラッと、普通に答えるあつし。


ハンニヴァルは、この男が何を言っているのか、全く意味が理解できない。


 ただの、狂人なのだろうか? 見た目は多少は、強そうには見える

騎士姿ではあるが・・・・・・援軍無しで、単身、数千以上の敵軍に

乗り込んで、何が出来るというのか。


 この、少女と犬しかいないようにしか見えない巨大な陸の帆船も・・・

全てが理解不能だ。


 「金髪は・・・・・・このジルと一緒に、この地図見て、

道案内でもしてくれや。・・・・・・行くぞ。」


ハリケーン号は、ミリアに向けて発進を始めた。


 移動中の無言の艇内。あつしの不機嫌具合を察したジルもさすがに

冗談すら言わない。ベス公は寝室内でお留守番。ピリピリと張り詰めた、

緊張感が充満している。


 金髪ハンニヴァルから聞き出した敵軍の情報は、多ければ約7~8千程。

確かに1000程しかいないミリアの騎士団では、街を守り切るのは

不可能だろう。


 司教ビショップ司祭プリーストなどの魔法軍団にユニコーンの

騎馬軍団、十字軍クルセイダーズの歩兵軍団。大雑把だが、大体で充分だ。特にクルセイダーズは低LVの修道士モンクや庶民等の志願兵が中心で、

数では圧倒するが、個々の戦力は雑魚同然。

まず、注意するのは、魔法攻撃か・・・。イナゴの大群みてぇな、

雑魚軍団を蹴散らすには・・・・・・


戦空艇を操縦しながら、策を練り、


「・・・・・・スマホで検索。」


アビリティや奥義の変更を行う。


 ・・・・・・いつも思うけど・・・・・・充電できねぇのに、

よく電池切れねぇよな・・・・・・?


こんな些細な事からも、都合の良い、夢の中なんだと、思ってしまう。


「・・・・・・し、質問しても、よろしいでしょうか・・・・・・? 」


恐る恐る、ハンニヴァルが口を開く。


「・・・・・・何だ、金髪。言ってみろ。」


「わ、私の名は・・・・・・! い、いや、そうではなく・・・・・・

く、黒騎士様は、魔法も使われるのですか?

それは、何かの儀式なのでしょうか? 本当に、たった、お一人で、

あの軍勢に立ち向かうおつもりですか? 勝てる算段はございますか?

この国の方では無いようですが、何故に、そこまで・・・・・・」


「・・・・・・質問量、多すぎだァァ!! 金髪ゥゥゥ!!! 」

苛つくあつし。


「ひぃぃ!! ・・・・・・も、申し訳、御座いませんっ・・・・・・!! 」


 「・・・・・・魔法は使う。準備中だ。・・・・・・勝てると思ってっから、

向かってんだよ。・・・・・・流浪モンだから、

確かに縁もゆかりもないからよー、何でって言われても自分でも、なぁ?

ただ、腹の虫が収まらねぇ。・・・・・・そんだけ。」


ぶっきら棒に、答えるあつし。


 「あつし様は・・・・・・あんな方です。あたし達の村も・・・・・・

ああやって、助けてくれました。わからないけど・・・・・・

あたしは信じます。」



そっと、金髪の背後から、ジルが小声で囁く。


 ・・・どのみち、このままでは、ミリアは壊滅してしまうのだ・・・

僅かな可能性すら、感じないが・・・・・・それでも、騎士として

立派な最後を。・・・金髪も諦めに近い覚悟を決める。


あつしは、操縦しながら、全く別の事を考えていた。


・・・・・・何だろう、元々、こんなに熱いキャラだったか?・・・・・・俺。


 現実世界リアルでは、保守的で変わらぬ日常を好み、

リスクを伴う新しい冒険や変化は逆にストレスを感じるから、やらない。

基本、他人には無関心。・・・・・・なのに、何故?と、自分でも疑問に思う。


 ・・・・・・だから、夢なんだろう。自分の願望。

夢だから異常に強くて普通だし、その余裕があるからこそ、

無関係の事にも、普通に首、突っ込めるんじゃ、ないか?

・・・と、思う事にした。面倒だから。


 ・・・・・・あつしは忘れているが、グランディスには

「プレイヤーキャラ設定入力欄」と、ゆーのがあった。

各プレイヤーが、自キャラにもっと愛着を持ってもらおうと、

運営側が用意したサービスだ。

そこには、好き勝手に入力できる。入れた内容に対して、

特にメリットもデメリットも無い。ゲーム内容は、いたってシンプル

「SSS装備と武器・獣神」で強さが決まり、カルマがどーしたとか、

細かな設定は無いに等しいから、正直、ただ書くだけだ。ただの自己満足。


あつしも開始最初は喜んで、いろいろ書き込んでいた。


 「好きなキャラ・・・・・・V3。性格・・・・・・勧善懲悪!

暴れん坊○軍のように、弱き者を助け、卑劣な悪は徹底的に叩っ斬る!!

加え、スペースコ○ラのような、驚異的な生命力に身体能力。

ただし・・・・・・英雄、色を好む。呆れるほどの絶倫」


書いて一人でニヤニヤして、そして、書いた内容すら忘れた。


 ・・・・・・もしかして、この設定が、強く影響しているかもしれない。

しているかもしれないのだが・・・・・・

あつしはすっかり、忘れている。だって、ゲーム進行に何も関係なかったから。


ハリケーン号の前方に、広大な森林が迫る。


 「黒騎士殿・・・・・・あれはカリンの森と申しまして・・・・・・

ここは、右に迂回しての進路がございますので・・・・・・」

金髪が、地図を見ながら進言する。


 「迂回だぁ・・・・・・? それじゃぁ、遠回りになるんじゃねぇか。

オイ金髪ぅ、この森、真っ直ぐ突っ切ったら、

どれくれぇ、短縮できそうなんだよ・・・・・・? 」


 「・・・・・・!? 森を、ですか・・・・・・? 

いや、確かに馬で邪魔になるものさえなければ、

一日程の短縮にはなるかとは思いますが・・・・・・さすがに悪路で、

魔物なども多く、危険極まりなく・・・・・・司教国軍も、迂回路を通っての

進軍かと思い」


 「・・・・・・決ーめた。ココ・・・・・・ぶっちぎってくぞー。

みんな、どっか掴まれー(棒)」


 ハリケーン号は向きを変えず、逆に速度を上げながら、

カリンの森に向かって突進していく。


バキャッ! バリバリバリッ!! ベキベキベキッ!!!


生え並ぶ巨木を薙ぎ倒し、踏み潰しながら、

ハリケーン号は速度を落とさず、森の中央部分を勢い良く、突き進んでいく。


 艇内に伝わる激しい振動。ジルも金髪も、振り落とされない様に必死に

手摺りなどにしがみついている中、あつしは微動だにせず、

無言で操縦を続けている。


 ・・・・・・もぅ、無茶苦茶だッ・・・・・・! 

この黒騎士ひとッ・・・・・・!!


驚愕を通り越して、茫然自失の金髪。


 あつしの頭の中は、ずっと「V3のテーマ曲」が、オールリピートで、

脳内再生され続けている。


 そして・・・・・・カリンの森を突き抜けると、一面に広大な平野が

目の前に広がってくる。

その遥か前方に見える、大きな街に上がる火の手と黒煙。

外壁周辺に群がる大量の人らしき物達。


金髪は驚愕する。

・・・・・・嘘だろ・・・・・・たった、半日程でミリアに・・・・・・


「オイッッ!!! アレがっ、ミリアの街かぁ? 金髪ゥゥ!? 」


 「はっ、ハイッ・・・・・・! あれが、ミリアでございますッ!!

・・・・・・そして、あの軍がおそらく、ヴィエンヌの・・・・・・」


 「ヨシっ、ワカッた・・・・・・! このまま外壁まで、

突っ切るからなぁぁぁ・・・・・・!! 」


 「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!? あの、軍団の真っただ中をで、

ございますかァァァ!?」


「ジルぅ!! ・・・・・・寝室で、お留守番だぞぉ! ワカッたなぁ!? 」


「は、ハイっ!! 」急ぎ去るジル。


 前方に、無数に広がる多数の軍勢。そのド真ん中を、ヴィエンヌ兵を

ぶちぶちと、轢き潰しつつ、ハリケーン号は突き進む。


 ミリアを包囲中のヴィエンヌ兵は、突如、森の中から巨大な轟音と共に現れた

巨大な帆船に、何が起きているのかが全く理解できなかった。


「大公国の・・・・・・援軍か・・・・・・!? 」


 陸を猛スピードで失踪する帆船など、見た事も聞いた事もない。

しかも、速度も落とさずにこちらに突進してくる。全てが、想定外の出来事だ。


「な・・・・・・な、何をしておるゥゥゥ!! くっ、来るぞォォォ!!! 

かまェ、あの船を、止めェェェ」


 異変に気付いた中隊指揮の司祭クレリックが、絶叫と共に

真っ先に轢き潰され、周囲の兵どもも皆、巻き込まれていき、

ミリア包囲網内が、凄まじいパニック状態となる。隊列を崩し、逃げ出す者、

将棋倒しで倒れる者、間に合わず轢き潰される者・・・・・・

突き進む戦空艇の轟音に、肉が轢き潰されていくイヤな音に

阿鼻叫喚の悲鳴・・・・・・ありとあらゆる「音」を奏でながら、

ハリケーン号はミリアの外壁にぶち当たっていく・・・・・・





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