9,今度はなに・・・ストーカー?
「山さん、やっぱりおかしいですよ」
「あかねこか」
「そうですよ」
「まあ、ただのあかうまの事故死なら、密室は余計だからな」
「確かに」
「でしょ」
「火元の上部の換気窓が偶然開いていたのも都合が良すぎる」
「それに」
「お前が見付けたあの窓ガラスの破片か」
「ええ」
「山さん、お待たせ」
(本当にグットタイミング)
(鑑識の真田主任登場)
「本当に真田主任はタイミングがいいな」
「れーの現場に落ちていた三角形の」
「ガラス破片の分析結果が出たか」
(待ってましたよ)
「割られた破片じゃない」
「と言う事は」
「ガラス切りか何かでカットした時の切り口だった」
「消防隊が窓ガラスを壊して部屋に突入する前に出来た破片」
「誰かが部屋の中で窓ガラスの一部をガラス切りでカットした」
「そのカットされた破片が外に落ちた」
「偶然に落ちたと言うのではなく外に故意に落とされた」
「そう言う事になるな」
「窓ガラスをカットした後に、窓の外に破片が落ちた」
「そして落ちたガラス破片の上に側にあった板が倒れのか」
「結果的に板が蓋の役目をしたんですね」
「消防隊は室内に人がいるのを確認した」
「早く室内に突入したくて焦っていた」
「しかも夜間で暗く、窓の小さな割れ目など気が付かなかった」
「窓を壊して突入する事も犯人は計算にいれていたのかも知れん」
「その為に密室は造られた」
「かも知れないと言う事だ」
「密室を装った殺人犯があかねこ犯の他にいると言う事だ」
「鍵の部分をカットしてから犯人は窓から外に出た」
(窓の鍵は閉まってた)
「そしてカットした窓の穴から鍵を掛けた」
「その可能性は大だ」
「ガラス破片が他の割れた破片と混ざっていたら」
「犯人の計画通りになっていた」
「偶然にも側にあった板がガラス破片の上に倒れた」
「鬼平が見つけなかったらアウトだったな」
「あかうま偽装殺人!」
「こいつはかなりの知能犯だぞ」
「そうですね」
(犯人は事故死で死んでもらいたかった)
「事故死で死んでもらわなくてはいけなかった理由があった」
「だから犯人はあかねこを装った」
「しかしあかねこが起きている一週間の間隔を待てず決行した」
「どうして急いで犯行に及んだのか」
「ここら辺も犯人探しのキーポイントだ」
「はい」
「真田主任、マル害の死因は」
「ショック死だよ」
「死因ももう一度調べるか」
(そうだ、あれ聞いてみよ)
「所で山さん、あかねこ犯の言ってた白い龍て何ですか」
「鬼平さんでも知らない事があったのか」
(そりゃーあります)
「お札やごま木を焼く、その時の炎を龍に見立てたりするのさ」
「炎が龍」
「龍神様さ」
「そうなんだ」
「鬼平、婚約者の聞き込みだ!」
「長島さん持病はありましたか」
「ええ、心臓に」
「そうでしたか」
(それでショック死)
「あの日誰かと会う約束をしていたとか聞いていませんでしたか」
「飲み会をする予定だと言ってました」
(飲み会)
「それは何処で」
「家飲みです」
「その約束の相手は、名前は分かりますか」
「親友の佐藤さん、佐藤祐司さんです」
(親友と家飲み)
「その時間は」
「佐藤さんの都合で夜の十時からと約束したと言ってました」
「親友の佐藤祐司」
「彼が居なくなった後も、何かと私の事を心配してくれて」
「ほーッ!彼の親友が」
「電話とかで気を使ってくれてます。いい人です」
「そうですか」
「他に何か気になる事はありませんか」
「別に・・・ありませんけど・・・」
「そうですか何でもよいので何かありましたらお電話ください」
「鬼平」
「佐藤祐司の聞き込みですね」
「びっくりしました」
「火事のあった当日、飲み会の約束をなさってたそうですね」
「彼が結婚するので独身最後を楽しもうと、それにしても残念です」
「それで飲み会はなさったんですか」
「いえ、私の仕事の都合で約束の十時より遅くなってしまって」
「時間変更した」
「ええ、そのかわり一晩中飲みあかす予定でしてた」
「一晩中、徹夜ですか」
「はい、だから先に始めててくれと、あいつ飲んでたんですね」
「それで家には行かれたんですか」
「行きましたが、私が駅に着いた時は、もう火事になってました」
「火事になってた」
「間に合いませんでした。残念です」
「そうですか。有難うございました」
「鬼平、署に帰るぞ」
「山さんお客さんがお待ちだ」
(お客さん?)
「誰ですか」
「婚約者の安藤圭子さんだ」
「誰かに見られてる様な気がして」
「いつからですか」
「火事の一ヶ月前位からです」
「一ヶ月前から」
「気がするだけだったので、この前はお話ししなかったのです」
「今もですか」
「ええ」
「接触して来る様になったとかは」
「ないです」
「他に何か変化はありませんか」
「ただ、あとをつけられている様な感じが」
「後をつけられる」
「あの火事の後から増えた様な気がします」
「ストーカーかも知れませんね」
「あの火事の後、他に変わった事は」
「新しい友達が出来たとか、どんな事でも」
「関係ないかも知れませんが電話が」
「電話?」
「火事後から頻繁に私の事を心配してくださって電話が」
「頻繁に」
「関係ないと思うのですが」
「どなたから」
「前も言ったと思うのですが、彼の親友の佐藤祐司さんです」
「佐藤祐司」
「いくら親友の婚約者でも、心配だからと頻繁に電話をするか」
(何か匂いますね)
「親友でもちょっとやり過ぎだな」
「ええ」
「佐藤祐司・・・調べるか」
「はい」
(張り込みも三日目か)
(マル被、動かないな)
(彼女の思い過ごしかもな)
(おおッ!)
「純平です」
「おお鬼平、何かあったか」
「佐藤祐司が動きました」
「やっぱり動いたか」
「ええ、自宅と反対方向の電車に乗りました」
「よし俺も途中で合流する」
「やつに気づかれない様に注意しろ」
(約束の新宿だけど、山さん遅いな)
「どうだ」
「山さん・・・途中でケータイを掛けてました」
「安藤圭子かも知れない、確かめてみろ」
「はい」
「佐藤祐司から電話があったそうです。居場所を聞かれたと」
「それで彼女は」
「勤め先から自宅に帰る途中だと」
「確か彼女は」
「阿佐ヶ谷です」
「佐藤祐司は丸の内線に乗るつもりか」
「彼女の自宅駅は地下鉄の南阿佐ヶ谷駅です」
(丸の内線に乗り換えるのか)
「やっぱり丸の内線に乗りますね」
(下りの電車だ)
「荻窪方面です」
(乗車の列に並んだ)
「お前は奴さんの右隣の列に並べ。俺は後ろにつく」
「はい」
(荻窪行きの電車だ)
(よし、乗るぞ)
(ラッシュの時間だから混んでるよ)
(けど尾行には都合がいい)
(あと二駅で南阿佐ヶ谷だ)
「止めてください!痴漢でーす!」
(何だ!・・・痴漢?)
(マル被の近くだ)
(マル被が痴漢か)
「何だよ、俺は何もしてねーぞ」
「この人、痴漢です」
(男の手を掴んで上げてる)
「どうした」
「痴漢なんですこの人」
(電車が駅に着いた)
「痴漢を降ろせ!降ろせ!」
(痴漢は・・・マル被じゃない)
(痴漢が降ろされた)
(乗客も降りてる)
(マル被も降りた・・・山さんどうするすかー)
(山さん動かない)
「車掌さーん!」
「どうしました」
「この人、痴漢です」
「取りあえず事務室に来てください」
(マル被も一緒に駅事務所に行くのか)
『お待たせしました発車します』
(電車が動いた)
「山さん」
「奴は痴漢の証人だ。時間が掛かるだろう」
「そうですね、我々の面も割れてますからね」
「ああ、今日は止めておこう、深追いすると気付かれる」
『南阿佐ヶ谷』
「鬼平、降りるぞ」
「はい」
(不味いすよー)
「この駅の改札口の造りじゃ張り込むのは無理ですね」
「丸見えだな」
「面が割れてるから気づかれますよ」
「ああ、今日は帰るか」
「地下鉄だとマル被と接触するかもしれませんね」
「JRで帰るぞ」
「そうですね」
(今日も佐藤祐司にはり付いてるが・・・)
(あッ!出てきた)
(マル被だ!会社から出て来た)
(終業時間より三十分も早いぞ)
(動くのか)
(取りあえず尾行だ)
「山さん、純平です」
「どうした」
「マル被が動きました」
「よし、新宿で合流する」
「前と同じだな」
「このまま地下鉄に乗り換えか」
「南阿佐ヶ谷ですね」
「早退して彼女を南阿佐ヶ谷駅で待ち伏せする気だな」
「どうします」
「南阿佐ヶ谷駅で彼女を待ち伏せする気だろう」
「らしいですね」
「このままなら俺達は構内で奴の前を通り抜ける事になる」
「マル被に面が割れてます」
「俺達が先回りするしかないな」
「ええ」
「ならJRで荻窪に行き、タクシーで南阿佐ヶ谷駅に移動だ」
(間に合ったか)
「マル被、外にはいませんね」
「駅構内にいるのか、すでに動いた後か」
「どうします」
「どっちにしろ俺達は外で待つしかない。もう少し待とう」
「はい」
(三十分過ぎた)
(置いてけぼりか・・・)
「彼女が出て来ました・・・マル被も一緒です」
(駅の出口でに立ち話か)
(おっ、直ぐに別れた)
(彼女、独りで歩きだした)
「自宅の方角です」
(マル被は駅の階段を降りてくよ)
「帰りますね」
「まだ分からんぞ」
(マル被が戻って来た!)
「ほら、やっぱり出て来たぞ」
(マル被が歩きだした)
(彼女が歩いて行った方向だ)
「奴は彼女の後をつける気ですね」
「やっぱり彼女が誰かに見られてると感じたのは正解だったな」
「ええ、奴はストーカーだったんですね」
(彼女が自宅に入ってく)
(マル被、電柱に隠れて彼女の家を観てるよ)
「どうしますか、職質しますか」
「奴が動くまで待て」
(マル被が動いた)
(駅の方角だ)
「帰る様ですね」
「駅まで尾行して確かめろ」
「はい」
「俺は彼女にマル被の事を報告して被害届を出してもらう」
「じゃあ明日ですね」
「ストーカーで取り調べだ」
「了解」
「まあ落ち着いてください」
「やってませんよ」
「まあまあ、水ですが飲まれますか」
「いただきます」
(飲んだ飲んだ)
(はいはいちょっと失礼)
(コップ回収)
「ストーカーなんてしてません」
「これはどういう事ですかね、この写真を見てください」
「・・・」
「この写真の人、佐藤さんですよね」
「・・・彼女が心配なだけです」
「心配して後をつけたりしますか」
「親友の婚約者だった人ですから」
「親友の婚約者ですよね」
「あいつの大切な人ですから」