8,あかねこ犯を追い詰めろ
「山さん、ちょっとこれ見てください」
「何だよこれ?」
「あかねこの現場なんですが地図にマークしてみたんです」
「最初の等々力三丁目ここでボヤ、二件目は半焼の深沢二丁目」
「だから何だ」
「そして三件目の尾山台二丁目は全焼、四件目等々力八丁目ボヤ」
「ああ」
「五件目が等々力八丁目でボヤ、六件目の奥沢一丁目半焼」
「何だ何だ」
(山さん、食い付いてきたぁー)
「七件目が野毛二丁目の全焼、八件目の玉川田園調布二丁目半焼がここ」
「おいおい」
(何だか分かります)
「そして九件目の奥沢六丁目半焼」
「うーん、何だ?」
(山さん、唸ったー!)
「そうなんですよ、何かを囲んでいる様に」
「円状にあかうまが起きているのか」
「円の中はあかうまありません」
「本当だな」
「これって何か意味があるんですかね」
「円の中にあるのは、九品仏駅に、九品仏淨真寺と満願寺」
「あとは学校くらいです」
(おや、署長と・・・誰だ?)
(あッ!)
「みんな聞いてくれ。管内のあかねこの強化対策のため母屋」
(母屋)
「いや、本庁からこられた管理官殿をご紹介します」
(ヤッパ、キャリアか)
「御手洗管理官殿でぇーす」
(署長の声が裏返ってる。緊張してら)
(仏さんが出たので母屋でも問題になったのか)
「警視庁の御手洗です」
「管理官殿はアメリカFBIに派遣されて」
(FBI、スゲー!)
「プロファイリング技術を取得された優秀なお方だ」
(FBIのプロファイリングかー。ヤッパスゲー!)
「お父上は本庁の刑事部長殿でいらっしゃる」
「署長、それくらいに・・・」
「管理官殿の出された犯人像を基に、捜査にあたる様に」
(プロファイリングでどこまで分かるんだ)
「管理官殿、ではお願いします」
「えー、東北出身で四十代の男性。アパートで一人住まい」
(東北出身、四十代か)
「リストラにあい失業中。白い壁の家にコンプレックスあり」
(やっぱりキーワードは白い壁か)
「他人の幸せを妬ましく思い、都会での孤独感を感じている」
(都会の孤独か)
「このプロファイリングの確率は七十%です」
(七十%・・・)
「妬み以外の動機犯行の場合は別の犯人による可能性もあります」
「その場合の犯人は」
「あかうま自体に強く執着していて、低年齢の犯行も考えられる」
「九件目なのですが」
「九件目は類似しない点があり別の犯人の可能性もあります」
(別に可能性ありか)
「えーでは管理官どの犯人像を参考にして捜査をする様に」
「ではみなさん捜査をお願いします」
「管理官殿こちらへ」
(管理官殿か)
「ッて事だ。捜査をよろしく、山さん」
(係長、気―使って)
(三十%の確率か・・・0じゃない)
(よし!山さんに頼んでみょ)
「山さん、調べてみたい事があるんですが」
「ああ、いいぞ鬼平。ね係長」
「・・・ッ」
(係長、苦笑いしてる)
「行って来ます」
(まずは第一現場の等々力三丁目でやるか)
「警察ですが、このあいだの火事を見てませんでしたか」
「火事なら見てたけど」
「その時火事の写真をケータイで撮ったりしませんでしたか」
「写真なんか撮ってないよ」
「どなたかお知り合いで撮った方をご存知じゃないですか」
「知らないね」
(いないなァー)
「お巡りさんでしょ、弦巻通り交番の」
「はい」
「そうだ、やっぱり交番のお巡りさんだ」
(この女子高生?・・・誰だっけ)
「お巡りさん刑事さんになったんだ」
「ええ」
「忘れちゃった。落とし物一緒に捜してくれたじゃん」
(ああ弦巻のハコにいた時の女子高生)
「こんな所で何してるの」
「火事の時の写真を撮った人を探しているんだけどね」
「なーんだ、そんな事なら私が友達に聞いてあげる」
(スマホで何するんだ)
「すぐに、来ると思うよ」
(ツイッターでつぶやきか)
「ほらほら来たよ」
「お待たせ・・・何なの写真ってー」
「あんた火事の写真撮ったよね」
「ああー」
(そうそう、これこれ)
「この写真貰えるかな」
「いいよ、でもこんなんでいいの
「これでいいんです」
「映ってるの野次馬ばっかりだよ、いいの」
「はい」
「じゃあ、私のもあげる」
「刑事さん、赤外線受信用意して」
「私はメールで送るー」
「他の火事の写真は?・・・尾山台の」
(尾山台二丁目の写真だ!)
「最高です」
「私もあるよ、ほら」
「みなさんご協力有難うございます」
(よしよし、他の現場も・・・)
「ただ今戻りました」
「今度は何してたんだ」
「この写真です」
「写真?」
「これ見てください」
「これが第一現場の等々力三丁目と第三現場の尾山台二丁目」
「何だよー」
「これは等々力八丁目と奥沢一丁目、そして玉川田園調布二丁目」
「おいおい」
「みんなさんに協力して頂いたお陰です」
「お前の人徳だ・・・それで」
「全部の現場ではないのですが、見てください。この野次馬の男」
「同じ男だな」
「ええっ」
「鬼平、この男を探すぞ、いいですよね係長」
「あぁー、なるべく管理官殿と面倒事には・・・」
「大丈夫ですよ、そんな奴じゃありません」
「よし!聞き込みだ」
「見かけた事ありませんか」
「こんな男は見た事ないね」
「知らないね」
「ここら辺に住んでる奴じゃないみたいですね」
「きっと手掛かりはある諦めるな」
「はい」
「次は玉川田園調布二丁目の現場に行くぞ」
「ちょっと自由が丘に寄って行くか」
「駅前のハコですね」
「何か出るかも知れんからな」
「この男なら知ってます」
(ぴったしカンコン!)
「知ってる!」
「ええ、九品仏の淨真寺さんで毎週見掛けてます」
「あの九品仏淨真寺か」
「三年に一度あるお祭りの準備で私も毎週お邪魔していますので」
「祭って、『お面かぶり』か」
「そうです三年に一度の行われている」
「三年に一度か」
「九人の僧侶が阿弥陀如来の面を被りお堂の間の橋を歩いて渡る」
「参加は僧侶だけ」
「それが今年から一般にも開放されたのです」
「誰でも参加出来るのか」
「しかし、参加するには寺の講話会に九回続けて参加する事」
「九回・・・休まずか」
「彼もその講話会に参加してます」
「先週も出てたか」
「えぇ、彼も参加してました」
「先週で何回目ですか」
「八回です」
「講話会があるのは何曜日」
「毎週水曜日の夜です」
「あかうまは木曜日か金曜日に起こってる」
「あかねこと講話会が始まった時期が一致してます」
「男の名前は」
「大平健司です」
「今週も講話会は」
「あります、水曜日にあります」
「三日後か、あかうまやるとするとその後だな」
「昨日一昨日と何にもありませんでしたね」
「ああ、予想通り動かなかったな」
「講習会の後だな」
「明日か明後日ですね、やるとすると」
「取りあえず講話会に鬼平も参加しろ」
「はい」
「どうだ何かあったか」
(山さん)
「いえ、マル害に変化はありません」
「そうか」
「昨日も講習会が終わるとマル害は真っ直ぐ家に帰りました」
「昨日から張り付いたままだ疲れたろ」
「大丈夫です」
「俺が見てるから少し休んでろ」
「有難うございます」
「鬼平、起きろ!」
「・・・」
「奴さんが会社から出てきた」
「帰りますね、六時で勤め終了です」
「駅に向かってるな」
「昨日と一緒です」
「おや?」
「パチンコ屋に入りましたね。昨日はそのまま駅に」
「時間潰しか」
「そうですね」
「俺達も入るぞ」
「はい」
(ああ、時間がたつのが遅いなー)
(ヤバイよ、三千円も使っちゃった)
「ああーぁッ」
「マジでやるやつがいるか」
「すいません」
「経費でおちないからな」
「えェー」
「奴さん出るぞ
「はい」
(外は真っ暗だ)
「奴さん駅に行くぞ」
「やっとですね」
(コインロッカーによった)
「今朝、ロッカーに紙袋入れてました」
「あかいぬの道具か」
「入れてた紙袋を出してます」
(駅構内に入ったぞ)
(おや、いつものホームじゃない)
「家とは反対の方向です、山さん」
「今夜、やるな」
「みたいですね」
「鬼平は奴さんの右隣のドアから乗れ」
「はい」
(山さん、そんなにそばで大丈夫すか)
『次は自由が丘、大井町線は乗り換えです』
(動いた、降りるぞ)
(山さん、動いた)
(山さんが先に降りた)
(マル疑も・・・降りた)
「気づかれてないな」
(マル被、歩きだした)
「乗り換えますね」
「二子玉川方面だ」
「ゆっくりだ、付かず離れず気づかれない様にな」
「次の九品仏で降りますね」
「やっぱり今夜やるな」
「淨真寺に行くのでしょうか」
「まだ分からんな」
「通り過ぎてました。淨真寺じゃなかったですね」
「この先は深沢五丁目の住宅街」
(やっぱり狙いは住宅)
「この道さっき通りました」
「奴さん狙いを定めて物色してるのさ」
(提げてた紙袋、胸の前に抱え直した)
(周りをキョロキョロしだした)
(白い壁の一軒家の前で止まった)
「山さん」
(近寄ってしゃがみ込んだ)
「やるぞ」
「はい」
「鬼平、現逮(現行犯逮捕)だ!」
「マル疑、確保しました」
「鬼平、お前がやってみろ。経験だ」
「はい」
(マル被の取り調べだ)
「名前は」
「大平健司です」
「メールで指示されて」
「誰に・・・何を言われて」
「神の御使いから御告げのメールが」
「メールで御告げ」
「阿弥陀様がお怒りで、それを鎮めるために御供えをしろと」
「神様がメールで」
(本当かよ)
「そうです」
「阿弥陀様」
「乱れた世を憂えられて、このままだと天罰を下すと」
「天罰」
「その怒りを鎮めるため、九つの白龍を阿弥陀様にお供えろと」
(九つの白龍)
「どうして、あんたを選んだと、神様は何か言ってた」
「奥沢城の城主の生まれ変わりのお前がやれと」
「奥沢城」
「ええ」
「安土桃山時代にあった出城の事」
「おい、ちょっと鬼平、休憩だ」
「はい」
「話がややっこしくなってきた。俺にも分かる様に説明しろ」
「世田谷城主の吉良氏の出城で秀吉の小田原攻の際に落城」
「無くなった」
「その奥沢城を治めていたのが『大平』氏だったんです」
「それが阿弥陀様とどう繋がるんだ」
「淨真寺の九体の阿弥陀像は元々奥沢城の城内にあったんです」
「ほーッ」
「落城で今の九品仏淨真寺が建立されたその時お堂に祀られた」
「そうか」
「刑事さんの言う通りさ」
「それならばなんで十件目放火したんだ」
「十件」
「九件でよかったんじゃないのか」
「御告げ通り九件しかやっていない」
「それならば誰がやったんだ」
「そんな事俺は知らない」
「どうやら九件目は別物の様だな」
「そうなると九件目は殺人事件と言う事もありますね」
「大平健司は精神鑑定と言うに決まった。その結果待ちだ」