表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6.やっぱり・・・丼が鍵

(大井次郎)


(百八十以上はあるな)


「ざまーみろだ。あいつ、まだくたばってないのか」

「随分恨んでらっしゃいますね」

「当たり前だ!」

「それじゃ、貴方が関さんを」

「そうだ」



(ええッ!)


(早くも認めた)



「とッ言いたい所だがそんな一銭にもならない事するか」

「でも大金ですよね」

「三千万なんて大した問題じゃない」



(三千万円だよ)



「面子だ」

「そんなもんですか」

「次はこっちが高く買わしてやるから(笑)・・・」

「そうですか(笑)」



(三千万、笑い事じゃないすよ)



「豪徳寺には」

「招き猫の聖地ですからね、何度も行ってますよ」

「牛丼はお食べになりますか」

「あんなもの食うか」

「そうですか」

「あのおっさんは喜んで食べてるらしいけどな」

「よくご存じで」

「牛丼でも差し入れしてやるか」

「大井さん、関さんの事件当日はどちらにいらっしゃいました」

「家内と二人で夕方まで自宅にいた」

「奥さん以外に誰か」

「いないね」

「そうですか」

「車庫に車がありませんが故障ですか」

「車は乗らん、嫌いだ」

「タクシー位乗られるでしう」

「タクシーも乗らん。いつも電車だ」

「そうですか」




「近所じゃ瞬間湯沸し器と言ってたな」

「何か気にくわない事があると直ぐに怒りだす」

「しかし、一時間も経つと忘れて笑ってる」

「典型的な瞬間湯沸し器だな」

「奴じゃないかもな」

「どうしてですか」

「カッとなって我を忘れての犯行だとするとだ」



(瞬間湯沸し器型犯行)



「沸騰した怒りを何日も持続した犯行と言うことになる」

「ええ」

「瞬間湯沸し器が怒りをそんなに維持してるかだ」

「そうですね」

「ちょっと疑問だ」

「そう考えるとわざわざ凶器の丼を用意して犯行に及ぶか?」

「鬼平さんも分かってきたな、今度のヤマは凶器が一つの鍵だ」



(やっぱ丼)



「そうですね」

「それに何をするか金が絡んだら分からん。余計厄介だ」

「それにアリバイも完全じゃないし、疑問が一%でもあればですね」

「そうそう」

「次は彦根藩の末裔の今井信一ですね」




「すいませんねお勤め先までお邪魔してしまって」

「いえ、いいんですよそんな事」



(やけに優等生の答え)


(職場まで押し掛けて)


(後ろめたい事無くても嫌だよな・・・普通は)



「昔の事で、大人気なかったと反省しています」

「そう言っても、お祖父様の事でしょうから」

「いえ、四代も前の話ですから」

「主君を守って殺されたのですから怨むのも当然ですよ」

「でも事実はちょっと違うのです」

「ええっ」

「襲われて重傷をおっただけで」



(ああ、それじゃ)



「その時は生き残ったんです」

「もしかしてその後に」

「ご存じですか」

「事件の後に生き残った家臣達は・・・」

「主君を守れなかった事で切腹させられたんですよね」

「そうです」

「どうして喧嘩になったのですか」

「どうしてですかね・・・あの男にお殿様を馬鹿にされた」

「それだけですか」

「私のご先祖様も否定されてカーッとなって・・・」



(人を襲ってまでして晴らしたい恨みかー)



「牛丼は」

「サラリーマンですから牛丼は助かってます」

「そうですね(笑)」




「犯行時間帯は得意先に行くので電車で移動中だと言ってましたね」

「明日、今井信一が乗った交通機関を調べてみろ」

「はい」




「山さん、丼!丼!丼ですよ」

「丼がどうした」

「分かったんですよ」

「鬼平、何が分かったんだ」

「引っ掛かかってたんです。山さんの、丼が鍵だって・・・調べてみたんです」

「そんな事言ったな」

「丼の語源はけんどん屋という事だと分かったんです」

「けんどん屋?」

「けんどん屋と言うのは、ケチな店と言う意味です」

「マル害は金に汚いと評判のケチだ」

「つまり犯人は、このドケチ野郎と、わざわざ丼で襲い掛かった」

「だからマル害と金銭トラブルを起こしていた男だと考えたのか」

「ええ、金田広司と大井次郎のどっちかが・・・」

「語源か、さすがに文系だな、目の付け所が違う」



(ええ、係長が褒めてくれるなんて)



「まあな、丼が犯人のメッセージだとしたらだがな」

「間違いないです。丼は犯人のメッセージです」

「所で今井信一のアリバイはあったのか」

「駅の防犯カメラのデータ分析がまだ出ていません」

「言っただろ百%にならなきゃ白じゃないと」

「はい、すいません」


(またやちゃった)



「母屋(警視庁)で調べてきたんだが、今井信一の勤め先は企業舎弟だった」

「表向きは普通の会社だが、暴力団に繋がってる会社だ」

「と言う事はヤミ金融のマル害と接点が」

「裏で金銭が絡んでいるかもな」

「今井信一の犯行も可能性があると言う事ですか」

「暴力団関係なら自分が手を出さなくても誰かにやらせたかも」

「すいません。丼の意味が分かって、つい嬉しくなって」

「まあいい、ホシを絞り込む手立てを考えろ」

「はい」




「今井信一のアリバイですが」

「あったか」

「いえ、防犯カメラのデータからは出てきませんでした」

「そうか」

「山さん、FBIの事件資料を見つけたんですが」

「FBIの資料」

「残された血痕で犯人が特定できると言う事ですが」

「気が付いたか、それなら鑑識の真田主任に聞いてみろ」

「何、俺がどうしたって」



(真田主任グットタイミング)



「あれあれ、豪徳寺の現場の血痕」

「だから持ってきた」


(タイミング良すぎ)


(やっぱ山さんの仕込み)



「こいつに教えてやってくれ」

「えっ何で?・・・あぁ・・・はいはい鬼平さんにね」

「すいません、お願いします」

「現場横の壁についていた血痕の意味だろ」

「ええ」

「この血痕は犯人がマル害を殴打した時の衝撃で飛び散った血痕だ」

「はい」

「その血痕の形状が問題なんだ」

「血痕の形状?」

「下向きに尾っぽを引いた楕円形ならば」

「下向き」

「凶器を降り下ろした時に飛び散った血痕」

「逆に凶器を振り上げて殴れば尾っぽが上にある」

「この写真の様に尾っぽの無い真ん丸の血痕は?」

「凶器を水平に振って強打した時の血痕さ」

「血痕の付き方で何が断定出来るのですか」

「犯人の背丈が割り出せるのさ」

「頭を狙った場合、マル害よりマル被の背が高い場合は」

「振りかぶって降り下ろすのが自然な殴り方だ」

「マル被よりも背が低い場合に下から突き上げる様に殴るのが無理の無い殴り方だ」

「はい」

「と言う事は、鬼平さん」

「尾っぽの無い丸い血痕がついた時は」

「そうだ。凶器で水平に殴った時だ」

「マル害とマル被の背丈が同じ位の場合に無理なく殴れる自然な殴り方」

「そうだ、そう考えるのが自然だな」



(マル被は背丈が同じ位)



「この右方向に尾っぽのある血痕は」

「そうさ、鬼平さんの思った通りだ」

「左から右に払って殴った。犯人は左利きの可能性が高い」

「今井信一は背が百七十センチだ」

「でも」

「そうだ、ヒットマンの犯行の可能性は残る」


「山さん、すまんがあかねこ(連続放火魔)の方に手を貸してやってくれ」



(ええ!係長ー。こんな時に)



「これで七件目ですか」

「手が足らなくなって、頼むよ」

「鬼平、大井次郎の電車と」

「金田広司の車での行動ですね」

「そうだ、調べておいてくれ」

「はいわかりました」



「金田広司、近所で確かめたのですが事件当日は車を使っていませ」

「鬼平はおばちゃん得意だからな」

「それに署の交通課で聞いたのですが」

「交番課」

「金田広司は以前豪徳寺近くで路駐で職質されてました」


「あの坊主豪徳寺には行った事ないて言ってたよな」

「あと豪徳寺ではその日葬儀も法事もなく駐車場は閉めていたそうです」

「利用出来ない状態だった」

「はい」

「それで路駐か、怪しいな。何でそれまでして」

「事件当日も駐車場は使えない状態だったんです。開いていたのは山門だけ」

「下見した、だから事件当日は車を使わなかったのか」

「それに犯行時間に鐘楼の鐘を鳴らす悪戯があったそうです」

「悪戯か」

「いつもの高校生グループが山門の方に逃げて行ったと」

「悪ガキか」

「豪徳寺では朝夕六時に鐘をついてます」

「あの大晦日に鳴らす鐘か」

「大井次郎ですが」

「おお、収集敵」

「小田急豪徳寺駅の防犯カメラのVTRを見せてもらいました」

「それで、いたのか」

「大井次郎は映ってましんでした」

「無かったか」

「ええ、でももしかして世田谷線を利用しているかもと思って」

「下高井戸で乗り換えるのもあるからな」

「しかし、大井次郎に結びつく物はありませんでした」

「ご苦労さん」

「でも、ちょっと気になる話が聞けました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ