4,猫に牛丼・・・・?
「鬼平、ちょっといいか」
(えッ!また俺、何かやりました)
「何ですか山さん」
「あの時お前が敷鑑を優先した根拠は何だったんだ」
「お棺を開ける可能の高いのは身内だと」
「だったら順番をお前は間違えたな」
(ヤバ!)
「えッ順番を間違えた?」
「親族の犯行だとしたら嫌がらせ目的の犯行の確率が高い」
「ええ」
「赤の他人の犯行どとしたら目的はなんだ」
「ケータイを手に入れて売り飛ばす」
「だったらだ」
「嫌がらせ目的の犯人は急いで携帯電話を処分する必要は低い」
「はい」
「しばらく手元に置いて置く確率が高いと判断できる」
「はい」
「犯人が売り飛ばす事が目的だとすると時間が勝負になる」
(なるほど)
「はい」
「盗んだヤバイ物は早くさばきたいと思うのが犯人の心理だ」
(確かに)
「・・・」
「それも闇に売り飛ばされたら証拠の携帯電話は二度と表に出てこない」
(マジヤバッかった)
「売り飛ばされた後だと犯人を逮捕できてもゲロ(自白)させる物証がなくなる」
「・・・」
「身内と葬儀屋のどっちを優先するのが正解だ」
「葬儀屋の方です」
「判断を間違えて、聞き込みに手間取ってたらどうなったか」
「その間に本ボシにケータイを売り飛ばされた」
「そうだ、一つの事だけで判断するのではなく総体的に判断する事を忘れるな」
「すいません判断ミスでした」
「まあ今回は危なく助かったて事だ。ついていたな鬼平さん」
「はい」
「だがあの時点ではだがな」
「あの時点?」
「茶パツにーちゃんの登場は想定外だった」
「茶パツ」
「妹が抜き取って茶パツに渡してたら結果は全く逆だった」
「ええ」
「携帯電話はすでに半グレ仲間に渡って振り込め詐欺グループに流れた後だったかも知れん」
「はい」
「まあこれから勉強だ。鬼平さん」
「はい勉強します」
『豪徳寺二丁目豪徳寺境内で傷害事件発生』
(事件の第一報だ!)
「豪徳寺さんには何だかご縁がありそうだな鬼平、行くぞ!」
「はい」
(ま、待ってくだしいよー山さん)
「前向いてちゃんと運転しろよ」
「はい」
(上町駅の踏切を渡れば豪徳寺はすぐだ)
「もうすぐです」
「ああ」
(あっ!救急車が来る)
(やけにスピード出してるな)
「マル害(被害者)は重傷だな」
「救急車でわかるんですか」
「まあな、スピード出してりゃ危ないて事さ」
(パトカーだ)
「早いですね、PCもう来てますよ」
「山本刑事!こっちでーす!」
「おお!・・・規制線は君らか」
「近くを巡回中でしたので一番乗りでした」
「野次馬を整理してくれて助かったよ」
「いえ」
「マル害は」
「男性で六十代位と思われます」
「状況は」
「後頭部を凶器で殴られた様です」
「容体は」
「意識不明の重体です」
「名前は」
「関孝三。名刺入れがポケットにありました」
「所持品は」
「むき出しの小銭と名称入れが」
「財布は無かったのか」
「ありません」
「他には」
「現場にも他の物はありませんでした」
「マル害の住所は・・・桜四丁目か」
「この近くですね、山さん」
「ああ、歩いてすぐの距離だ」
「他の住所もありますね」
「会社か・・・三軒茶屋・・・関質店」
「ぐにや(質屋)」
「ぐにや・・・あの関のおっさんか」
「山さん、マル害ご存知なのですか」
「ああ、本庁が何か調べているらしい」
「本庁?」
「ちょっと問題のあるおっさんだ」
「よ、山さん。そっちはれーの新しい相棒さんかい」
(鑑識の真田主任だ)
「鬼塚です、よろしくお願いします」
「鬼平さんよろしく。山さん良かったな」
(何ですか、何が良かったんですか?)
(ああ、ケータイ事件が解決したから・・・かな?)
「ご苦労さん、凶器はその丼らしい・・・所持品はこれだけだよろしく」
「丼が凶器なんて珍しいな。それも牛丼屋の」
「鬼平、俺達も遺留品を捜すぞ」
「はい」
「あーあッ、お堂の壁こんなに汚しちまって罰当たりが」
「派手に血痕飛び散ってますね」
「鑑識さーん、こいつの写真も頼むわ」
「よし、ここは任せて病院に行くか」
「マル害が運ばれたのは大橋の東邦医大医療センター大橋病院です」
(目黒川を超えた)
(病院、見えた)
「あの信号を左折すればすぐです」
「ああー分かってる」
「緊急手術を終えて、マル害はICUです」
「それじゃ事情聴取は無理だな」
「意識が戻ってないから無理ですね」
「マル害の家族は」
「ナースに聞いてきます」
「奥さんが来てましたが直ぐに帰ったそうです」
「帰った」
「五分位いて帰ったそうです」
「五分で帰った・・・旦那が生死をさ迷ってるのにか」
「自宅に行って奥さんに話を聞きますか」
「そうだな当人から話を聞けない事だし」
「はい」
「取りあえず奥さんから聞くか」
「妻の良子です」
(ウソー若ッ!・・・二十代だよ)
(歳の差婚)
(山さんヨダレヨダレ・・・何ちゃって)
「ICUに入ってて会えないし、帰って待つことにしたんです」
「招き猫の置物、旦那さんのご趣味ですか」
(招き猫、事件と関係あるんですか)
「ああ、主人がね。ガラクタよ」
「かなり古そうですけど、お高そう」
「オークションなんかで買ってるの」
「お高いでしょうね」
「私が買い物するとうるさいのにさ」
「ところで旦那さんは名刺入れと小銭しか持ってなかったのですが」
「そんな事ないわ。散歩の帰りに猫のエサをいつも買い物してるし」
「財布は」
「持ってたはず。高いお肉やお刺身買ってくるわ」
(おっ!猫だ)
(君が噂のグルメ猫か)
「しッしッ!あっちいって!」
(あらら、奥さん足で蹴飛ばして追い払ったよ)
(猫ちゃん歯を剥いて怒ってる)
「そうですか、犯人について何か心当たりは」
「ないわ」
「何か思い出したら署の方にお電話ください」
(もう終わり)
(山さん、何かあっさりだな)
「奥さん何かありそうじゃないですか」
「鬼平もそう思うか」
(やっぱり山さんも)
「旦那が可愛がっている猫なのに、奥さんになついていない」
(そうですよね)
「可愛がってればエサなんて言うか、ゴハンだろ」
「ええ、それに蹴飛ばしましたよ」
「旦那が可愛がって猫なのに・・・何かあるな」
「そうですよね」
「ちょっと調べてみるか」
「はい」
「その前に、旦那が散歩途中で買い物しただろう商店街で聞き込みだ」
「旦那はいつも財布持ってたと言ってた裏取りですね」
「買い物してる肉屋だな」
「近くの商店街は豪徳寺商店街です」
「ええ、関さんにはいつもご贔屓いただいてます」
「今日は」
「今日も上等な鴨肉を買われました」
「支払いの時に財布は」
「お持ちでしたよ」
「持ってた・・・その財布は」
「お肉と一緒にうちの名前入ったビニール袋に入れて帰られました」
「その時、誰か一緒でしたか」
「いいえ、いつもの様にお一人でした」
「どっちの方に行きました」
「これから豪徳寺さんにいらっしゃると」
「豪徳寺に」
「財布を持っていたのは確かですね」
「強盗傷害の線もあるな」
「管内で起きてる強盗傷害に関係あるかも知れませんね」
「あれも後から殴ってから金を奪ってる」
「手口が似てます」
「連続強盗か」
「それじゃ奥さんの方はどうします」
「勿論、調べるさ。財布が無くなっているからって強盗とは限らない」
「犯人が偽装工作したって可能性も」
(ですよね)
「ピンポン!正解」
「一%でも可能性があれば見逃すな」
(でしたね)
「そうそう、鬼平さん勉強したな」
「はい」
「それじゃ戻って近所の聞き込みだ」
(あの若い奥さん)
(叩けば埃出そう)
「関さんの所の奥さんね・・・これ、内緒よ」
(他人の噂話は好きだよな)
(聞きやすいすね)
「奥さん、何かあるんですか」
「男がいるのよ」
「愛人ですかね」
「奥さんね、時々男と一緒に車で帰って来るの」
「男と一緒」
「奥さんわざわざ離れてるうちの前で降りるのよ」
「お宅の前で」
「このあいだなんかキスしてたわ」
(大胆だな)
「車のナンバー憶えていらっしゃいますか」
「うちの前に違法駐車した事があって、メモってあるわよ」
「すいませんね、奥さん」
「ちょっと待ってて」
「車の持ち主は金子正次、二十五歳」
「そいつの前(前科)は帰ってからにして、その前にだ」
「マル害の仕事関係ですね」
「捜査の段取りが分かってきたな鬼平さん」
「先輩、お久し振りです・・・このハコで立番(交番の入口に立っての監視勤務)してました」
「所で先輩」
「関質店か」
「最近トラブルがあったかどうかなんですけど」
「あった。牛丼の店長と、三日前にもトラブってた」
「牛丼屋、どこのですか」
「吉名家だ」
「吉丼」
「クレーマーだ」
「クレーマー」
「態度が悪い、いつもと味が違うとかの苦情を再三な」
「店長からが営業妨害だと電話が入って出動した」
「嫌がらせか」
「店で済めばいいのですがチェーン本部に直接電話を入れるらしいです」
「本部が動くと店長の成績に響くからか」
「店長はだいぶ頭にきてた」
「店長の名前は」
「山田新吾です」
「牛丼屋の店長と凶器の丼・・・何か出来すぎですね」
「そうだな」
「それにしても何で吉名家の丼なんですかね」
「鬼平は他の牛丼食べた事ないのか」
「吉丼オンリーです」
「他の牛丼の丼に比べて作りが頑丈で凶器にうってつけだって事さ」
「でも凶器ならもっと有効な物ありませんか」
「犯人にも何か事情があったんだろ」
「メッセージすか」
「所で奥さんの男の事、何かわかったか」
「フリーターです」
「フリーターね・・・こっちの方が可能性は高いな」
「奥さんとの共謀」
「色と金の一石二鳥狙い」