3,聞き込みだ!・・・ワッパだ鬼平!
「今日までですね捜査」
「ああ、急ぐぞ・・・葬儀屋と敷鑑と、どっちを先にやる」
「山さんは」
「お前のヤマだ、お前が決めろ」
「はい、それじゃー・・・敷鑑にします」
「敷鑑か、それなら旦那の両親からだ」
(スゲーぇ!)
「岡本二丁目、高級住宅地だからでっかい家ばっかりだな」
「金銭面では問題なさそうですね」
「・・・」
「ケータイを抜き取る必要無いですよ」
「見た目に騙されるな、豪邸でも中は火の車って事があるぞ。捜査の基本だ」
「はい、すいません気を付けます」
「近所の商店街で聞き込みだ」
「はい」
「嫁さんとのトラブル話はないですね」
「金のトラブルも無し」
「旦那の両親は白ですね」
「そうだな・・・次は奥さんの親族の方へ行くぞ」
「場所は区内の太子堂です」
「三軒茶屋か」
「やっぱりこっちの方が落ち着くな。高級住宅地はどうもな・・・」
(世田谷の下町ですから)
「あの肉屋で聞き込みだ」
「警察?魚金さんちに何かあったの」
「いえ・・・」
「お嫁に行った順子ちゃんが病気で亡って、少し休業してたのよ。それでね・・・あッ」
「どうしました、何かあるんですか」
「ご近所の余計な事言いっちって、父ちゃんに怒られちゃうよ」
(山さん、俺やりますよ)
「美味しそうだな、僕コロッケ大好きなんですよ」
「何だ鬼平・・・聞き込み中だぞ」
(すいません、山さんこれ作戦)
「あんた分かってるね。ひとつどう、うちのコロッケはお客さんに評判いいのよ。うちの一番の売れ筋」
「いただきまーす!」
「どうぞ」
「美味しーです。ころもがサクサク中はホクホク!学校帰りによく食べたなー」
「あんた食べっぷりがいいね」
「有難うございます」
「うちのコロッケも部活帰りの学生さんがよく買っててくれるんだよ」
「美味しかったです。おいくらですか」
「いいわよ、サービスサービスよ」
「それで、さっきの話ですが、どんな事なんですか」
「大きな声じゃ言えないけどね」
「何ですか」
「順子ちゃん玉の輿なのよ」
「何かトラブルでもあったのですか」
「その反対。トラブルなんて無いわよ」
「それじゃー」
「人当たりはいいし、いつもニコニコで、親孝行でいい子だったんだから順子ちゃんは」
「うまくいってたんですね」
「旦那さんの親御さんも気さくでいい人で、トラブルなんてあるわけないわよ」
「商売の方は」
「それは大繁盛とはね・・・どこも一緒」
「このご時世ですから」
「どこの店もおんなじ」
「大変ですね」
「でも魚金さんはお客さんに美味しいて評判いいんだから」
「もう一軒あたるか」
「はい」
「あの豆腐屋に行ってみるか」
「魚金さんちの下の妹さんがねー。うちの娘と同級生でさ・・・」
「何か問題でもあるのですか」
「あっ、だめだめ。商売の邪魔しないで」
「ご迷惑は掛けませんから」
(ああ、女将さん行っちゃますよ)
(俺やります。おばさん扱うの慣れてますから)
「大変ですよね朝は早いし、お豆腐さんは水を使うし冬場は特に」
「ええー」
「私の実家も八百屋なんで商売の大変な事わかります」
(女将さん振り向いてくれた)
「刑事さんち八百屋さんかい」
(ほらね)
「そうなのよ、どんなに冷たくたって素手だからね、ゴム手なんか使えないから、ほら・・・あかぎれ」
(わーすげー!痛そうー)
「松陰神社前の太田皮膚科がいいって評判ですよ」
「そうなの、いい事教えてもらたわ」
「交番勤務の時に近所のおばあちゃんに聞いたんです」
「へー有難う・・・あんた交番のお巡りさんだったの」
「行ってみてください・・・ところでさっきおっしゃていた事ですけど」
「妹さんの付き合ってる彼氏なんだけどね」
「ええ」
「元暴走族で今も悪い連中と付き合いがあるとか、うちの娘から聞いた事があったのよ」
「元暴走族ですか」
「魚金さんちの妹さんも一時期バイクに乗ってた事があったわ」
「妹さんも」
「バイクの後ろでしがみついてただけだけどね」
「それが元暴走族」
「その男の名前は分かりますか」
「今、娘が配達に出てるから帰ったら聞いてみて、近所だから直ぐに帰るから」
「天野雄治。豆腐屋の女将さんの言った通り元マル走(暴走族)です」
「前(前科)は無いですが補導歴がありました」
「マル走か」
「今はマル走を抜けて実家の商売の手伝いをしている様です」
「更生してるのか」
「生活安全課でもマークする程の男ではないと言ってました」
「小物か」
「ですが、今でも昔のマル走上がりの半グレ連中と付き合いがある様です」
「それはちょっと問題がありそうだな」
「ええ、その半グレ連中が振り込め詐欺に関係している疑いがあるらしいです」
「お通夜に奥さん側の家族と一緒に現れた茶パツの男がいたと言っていたな」
「確かにお手伝いのおばさんが言ってました」
「その茶パツが妹のボーイフレンドの大野雄治と言う事か」
(ピンポン♪)
「そうですね」
「大野雄治は犯行可能時間帯には帰っていたので網に引っ掛からず容疑者リストから漏れていた」
(やっぱ当たりーですね)
「大野雄治、怪しいですね」
「途中で帰っても、自分は手を出さず妹にやらせたかも知れないない」
「どーします」
「考えたくないが・・・茶パツを引っ張ってる時間がない」
(ですよね)
「はい」
「仕方がない妹に直接聞いて確かめるか」
「そうですね」
「言われたわ、ねーちゃんのケータイを抜き取れって」
「それで」
「あいつ、ダチにケータイを用意しろって言われたって言ってたわいの」
「それで言われたとおり抜き取った」
「馬鹿言わないでよ。出来る訳ないでしょ、ねーちゃんの取れる訳ないわよ」
「それじゃ」
「ぶん殴ってやったわ、そしたらあいつ帰っちゃった。次の日の葬儀には来なかったわ」
「それで天野雄治は途中から居なくなったのか」
「天野とは」
「お葬式にも来なかったし、それっきりであの馬鹿とはバイバイしたわ」
(ああー)
「捜査はまた振り出しですね。残るは葬儀社の線」
「時間がないぞ」
「はい」
「次は葬儀社の事務所のある下北沢だ」
「三軒茶屋からだと茶沢通りですぐですね」
(ラッキー!)
「お二人ともいらっしゃる」
「今日が友引ですから葬儀屋はね」
「そうですね」
「二人とも長くいてくれる信頼の置ける社員ですよ」
「お二人にお話聞けますか」
「大丈夫ですよ」
「ご協力有難うございます」
「ところでお二人とおっしゃってますが」
「ええ社員は二人だけですが」
「当日現場には社員の方が確か三人いらっしゃいましたよね」
「三人・・・ああ、バイトの」
「バイト」
「そうでした、当日はもう一人アルバイトが行ってました」
「バイトがいた」
「ちょっと待ってください書類持ってきますので」
「すいませんお手数かけます」
「バイトの川合清一」「川合清一」
「あの日はもう一件葬儀が入ってまして途中で二時間ほど一人そっちの現場に行かせましたが三人ですね」
「三人いたんですね」
「補助のバイトを加えて三人で対応させてました・・・そうだったよな」
「ええ、社長」
「バイトですか」
「バイトは補助ですから荷物を運んだりする作業だけやらせてます。そうだろ」
「はい」
「それじゃバイトがお棺の蓋を開けるなんて事はないですかね」
「えッ、えぇ・・・」
「どうかしましたか」「一度だけ・・・火葬場への出棺時間が迫って時間がおしていたので」
「それじゃ」
「川合くんに棺に釘を打つ前に棺の中に余計な物が入ってないか確かめる様に指示しました」
「バイトにやらせたのか」
「申し訳ありません社長」
「その時、何か入ってたとか」
「入っていたら取り出して報告する様に言いましたが」
「どうだったんですか」
「確かめたら何も入ってなかったと言いました」
(川合清一当たりかも)
「川合清一の住まいは分かりますか」
(やっぱですよね、山さん)
「川合清一の住所は」
「アパートは宮の坂です」
「行くぞ鬼平!」
「はい」
「部屋にいるな」
「ええ川合清一は部屋にいますね」
「灯りがついてるし、テレビの音も聞こえる」
(い、居ます居ます)
「よし、お前はアパートの裏に回れ。五分後に踏み込むから待機していろ」
「はいわかりました」
(五分だ)
「川合さんピザの宅配でーす、川合さんー」
「何だよ頼んでねーぞ」
「配達です」
「ピザなんか知らねーぞ」
「川合清一さんですね警察ですが、ちょっとお話をうかがいたいのですが」
「警察・・・俺は何も知らねー」
「ドアを開けろ!」
(手間取ってるな)
「裏から逃げるぞ!」
(山さんだ)
(窓が開いた)
(誰か飛び降りてきた!)
「川合清一だな警察だ!」
「捕まってたまるか!」
「おとなしく観念しろ!」
「馬鹿野郎!」
(殴りかかってきやがった)
(逃してたまるかこの野郎!)
「あ、足を離しやがれ!」
(蹴られたって離してたまるか)
「抵抗を止めろ!」
(ああ、もっと柔道強かったらな)
(山さん来るまでしがみついてたやる)
「鬼平、離せ!」
「・・・」
「鬼平、聞こえないのか」
(絶対に離すかー)
「離せ鬼平!」
「離せないでーす」
「仕方ねなー」
「仕方ない・・・よいしょ!」
「ああーッ!」
(ああー身体が・・・浮いたーぁー)
(山さんに投げられたー・・・山さんの一本背負いだー!)
(痛てー!)
(山さんに川合ごと投げられたーぁ!)
「鬼平、ワッパ(手錠)だ!」
「・・・」
「踊り(暴れて抵抗)やがって公務執行妨害と傷害で現行犯逮捕だ。鬼平!緊逮(緊急逮捕)だ、ワッパだ!」
「は、はい」
「棺から抜き取られたケータイ、川合清一が歌った(自供)通りに豪徳寺の境内で見つかりました」
「出たか」
「境内の招福観音堂脇の奉納台の裏側に」
「奴の絵の通りだな」
「ビニール袋に入れて張り付けてありました」
「川合清一は、携帯電話を闇で売りとばす目的で盗んだ」
「自分のケータイが料金不払いで停められていた」
「そこで、り飛ばす前に使ってみた」
「使い方を間違えて旦那に電話してしまった」
「それで身近に置いて置くとまずいと思って売り飛ばすまで近所の豪徳寺に隠した」
「完落(全面自供)です」
「有難うございましたわざわざ来ていただいて」
「いえ無事に犯人を逮捕できました」
「話を信じてくれた刑事さんがのお陰です」
「納骨も無事に済ませすました」
「どちらの方に」
「菩提寺の豪徳寺です」
「えっ・・・豪徳寺さんですか!」
「私も驚きました」
「本当ですね」
「招き猫ですかね。招き猫が呼んだのですかね」