2,捜査だ行くぞ鬼平
「係長、捜査の許可をお願いします」
「他の事件で手一杯だって・・・山さん」
「我々だけで捜査しますから」
「・・・何とか三日間だな。期限付き捜査なら」
「焼き場に行くぞ」
「はい、でもどうして焼き場ですか」
「まずは焼き場まで棺桶に携帯電話が残っていたかどうか確かめる」
「焼却し終えて骨を拾っていただく場所にお出しする前に、一緒に異物が焼かれていた時には事前に排除してます」
「この仏さんには金属の様な物は残ってましたか」
「何も無かったですね」
「旦那が携帯電話を入れたのなら抜き取られたのは確かだ」
「盗難事件成立ですね」
「いやまだだ、行くぞ!」
「今度は何処ですか」
「時間がない。黙ってついてこい」
「憶えていますよ。ええー、この方店に来られました」
「独りで」
「ええ、お一人でした。このタイプの携帯電話でしたね」
「携帯電話を持って来た」
「プリペード式の携帯電話を使っている人は少ないですから憶えています」
「プリペードにチャージした」
「ええ、奥さんの為だって言ってました」
「訳は言ってました」
「奥さんが遠くに旅に出るのでと。慌ててましたね急いで帰えられましたよ」
「旦那はどうしてそんなに急いでたんだ、ちょっと怪しいな」
「店に来た時間からすると奥さんが亡くなった直ぐ後ですね」
「よし次は敷鑑(被害者の家族友人への聞き込み)だ!」
「はい」
「すいません。ちょっとお聞きしたいのですが・・・」
「いつも二人で仲良く旅行してた」
「夫婦仲は良かった様ですね」
「どうも旦那の虚偽の線はないな」
「そうですね、わざわざ嘘の為にプリペードチャージなんかしませんよね」
「ああ、時間も無い事だし次だ」
「はい」
「犯行は旦那が携帯電話を棺桶に入れた時間から翌日葬儀場に出棺するまでの時間帯」
「出入りしていた人物の洗い出しですね」
「鬼平も捜査が分かって来たね」
(そうですか)
「当日通夜の手伝いに来ていた近所の主婦の聞き込みだ」
「はい」
「もうこんな時間か、今からじゃ無理だな」
「捜査が午後からでしたからね」
「仕方ない、今日の捜査はここまでだ」
「単なる通夜客を除き犯行可能な時間帯にお棺に近付いたり触れたりする事が可能な人間のチョイスだ」
「また来たの」
「すいませんね」
「ご苦労さまでした。大変でしたでしょお手伝い」
「ええッ」
(ヤバイ、おばさんひいちゃったよ)
(俺、替わります)
「僕たち何も知らない連中には、どうしていいか分からないですから本当に助かりますよ」
「そうなのよ今の若い人は何にも知らないからね、大変よ」
「ところで、納棺の後なんですが」
「納棺の後ね・・・」
「どうでした旦那さんの様子」
「自宅で納棺を済ませてから、お通夜と次の日お葬式をする北沢の葬祭場に移動してからも旦那さんはずーっと奥さんのお棺に付き添っていたわね」
「でもトイレとか、夜中は寝たんじゃないですか」
「それが朝まで一睡もせず、ずーっとよ」
「ずーっとですか」
「次の朝行ったら、まだ旦那さんお棺の前に座ってたわ」
「ずーっとですか」
「奥さん一人にするの嫌だったのね」
(だからチャージ済ませて急いで帰ったんだ)
「座ってた」
「私達もいるから奥さん寂しくないゎよって言って。身体に悪いから無理矢理少し寝かせたんだよ」
「それじゃ朝から後だな」
「それから後はお棺の側には旦那さんは居なかったんですね」
「誰も座って居なかったよ」
「誰も居なかったんですね」
(よし!)
「でもさ、手伝いの人達や訪問客が来てお棺の周りに、いつも数人いたよ」
「おいおい、それじゃ誰にも見られずにお棺から抜き取るのは難しいって事か」
「でも、山さん・・・他人に見られても怪しまれない人物なら」
「おおッ、そうだよ。堂々とお棺を開けても怪しまれない奴なら携帯電話を抜き取るのは可能だ」
「それが可能な奴は・・・」
「まず葬儀屋の社員三人。それに親族の旦那の両親に奥さん側の両親と妹の五人」
「怪しまれずに犯行が可能な容疑者はこの八人ですね」
「葬儀屋の社員なら棺を開けても仕事だと誰も怪しまないな」
「ええ、それに親族もお別れでお棺を開けて遺体に触れても自然ですよね」
「どっちも犯行の可能性はあるな」
「そうですね」
「この二つの線で聞き込みだ」
「はい」
(山本はんは担当している事件で動きがあり緊急会議に出掛けたので二日目の捜査はここで終了に)