からだのいたみ(物理)
「うっ……」
「町長、もっと力抜いてください。これじゃあ力入れても押せません」
「そ、そんなこと言われても…」
「もー…いい加減に藤堂先生のところ行ってきたらどうですか? 今日はもう仕事切り上げても大丈夫ですから」
「でもそんなわけには、うごっ!」
「昨日、休日なのにかっこつけて仕事なんかするからバチが当たったんですよ。休める時に休んでおかないから、バチが当たったんです」
「ううっ……」
俺は今、肩の痛みと戦っている。
秋原さんに肩を揉んでもらっていたわけだけど、秋原さんの力が弱いのか俺の肩が懲りすぎていて硬いのかわからないけど、全然効果が伺えなかった。
肩もみを諦めた秋原さんが、俺の肩をペシンと叩いた。
「さささっ。じゃあ行ってくださいねー」
「いや、ちょっと、いててて」
肩の痛みと秋原さんの笑顔に送られて、町長室を追い出された。
藤堂先生というのは、この町の整体院の先生のことだ。
そして今追い出された俺は、その整体院へと足を運んでいた。
「こんにちわー」
「あっ、町長さん。お久しぶりです」
受付にいた星野さんがペコリと挨拶をしてくれた。
彼女とは一度ビストロ『流星』のほうであったことがある。
「今日はどうされました? 藤堂さんに御用ですか?」
「えっと、恥ずかしながら、肩こりが酷くて…」
「患者さんでしたか。じゃあちょっとそちらに座ってお待ちください」
そう言って星野さんは、奥の方へと消えていった。
その間にも肩はバキバキになっていて、ぐるぐると回すものの、あまり効果がないように感じられた。
「おー。肩こりだって? ろくに仕事もしてないのにいっちょ前に肩こりだけは一流か?」
「誰だって肩こりの一つや二つなりますって。それにちゃんと仕事してますよ」
そう軽口とともに現れたのが、ここの院長の藤堂先生。
前町長のころから俺のことを知っていて、こんな軽口は挨拶みたいなものだ。
「とは言っても、お前さん、ここで受診するの初めてだろ。姿勢とか見ないとダメだから、すぐには終わらんぞ?」
「秋原さんが行けって言って、無理やり追い出されたんですよ」
「仕事の邪魔だっただろうな」
「かもしれません。なので、せっかくなのでがっちり見てもらおうかと」
『じゃあ病院に行けよ』と小さく笑いながら言った藤堂さんは、星野さんになにやら指示を出して、また奥に消えていった。
その指示を受け取った星野さんが俺を奥へと案内する。
奥で姿勢を診るために、カメラでパシャパシャと撮られた。
そのままPCで印刷し、なにやらうむうむと星野さんが見ている。
「町長さんって、猫背気味ですね」
「あーそうかもしれないです」
机作業が多いから、どうしても背筋が曲がってきてしまうのだ。
「肩こりっていうか、首がこってるのが原因みたいですね」
「首ですか」
「首がこってくると、どうしても血液の流れが悪くなって、肩まわりがこっちゃうんですよ」
「ほー」
「だから今回は背中から首にかけてを重点的にやりますね」
「よろしくお願いします」
そして穴があいた枕が置かれたベッドへと案内され、うつ伏せになるように寝転がった。
「じゃあ押していくんで、強すぎたら言ってくださいね」
「えっ、星野さんがやるんですか!?」
ベッドの横についた星野さんが、起き上がろうとした俺の背中をグイグイと押してくる。
あ、気持ちいい。
「藤堂さんが『あいつなら大丈夫だから、練習台にしちゃってくれ』と言ってました」
「てっきり藤堂さんがやってくれるもんかと思ってました」
「私だってこう見えて整体師なんですから、任せてください」
そう言いながら腰の筋をぐいーっと押し、そのまま肩甲骨をグリグリと押す。骨の下をほぐすようにグリグリと押す。
気持ちよくて顔がニヤけてしまうが、うつ伏せなのでバレないだろう。
と、思っていたら、星野さんが話しかけてきた。
「町長さんって、やっぱりお仕事大変なんですか?」
「へへっ、大変って言えば、大変ですね」
「…なんで笑ってるんですか?」
気持ちよくてニヤけてたことを正直に言うと、星野さんは笑いながらも的確にコリの原因であろうところを入念にゴリゴリしてくれた。
そして首も引っ張ってくれた。もげるかと思った。
「今日はありがとうございました。だいぶ楽になりました」
「いい練習台だったろ?」
「何言ってるんですか。少し楽になったみたいでよかったです。もし揉み返しとかきつかったらまた来てください」
「はい。じゃあまた」
「おう」
「お大事にー」
手をあげて見送る藤堂さんと、ペコリとお辞儀をする星野さん。
俺は、あの二人は実は付き合ってるんじゃないかと推測している。
……でも藤堂さんに言ったら、また誤魔化されそうだから心のうちに留めておく。
綺羅さんの藤堂さんと星野さんをお借りしました。
終始胸に興味がいかなかった町長は、かなりの曲者でしょう。