町長、へこむ
秋原さん目線でお送りします
「秋原さん。俺って、やっぱり頼りない町長ですかねぇ?」
町長室にいる町長に仕事の書類を持ってきた帰り、部屋を出ようと踵を返したところで言われた。
振り向くと、机に積まれた書類の山と山の間から、『俺、マジで悩んでます』というような雰囲気を漂わせながら町長はこちらを見ていた。
私がお使えしているうろな町の町長は、基本はのんびり屋である。
やるときはやるという姿勢をとっているのだが、その『やる時』というのが訪れたためしがない。
それでも仕事やなんかが上手く回っているのは、町長が町長としてキチンと働いている成果なのだろうと思う。
そんな我が町の町長なんだけど、欠点がある。
『自信がなさすぎる』ということである。
時々こうやって思い出したかのように凹む時がある。
町長という立場上、責任の割合が大きくのしかかっては来るため、町長自らが表に出て何か大事なことをする、という場面は多くはない。
だからなのかもしれないけど、周りから褒められたり感謝されたりというのを直接味わえないのが、本人はちょっと不安になるらしい。
だからといって自分から聞きにいくということもせず、あーして散歩とかをして町民のみんなの声を聞いたりしているみたいなのだが、その声のほとんどが要望だったり改善してほしいことだったりと、新しい問題になりそうなことばかりなのである。
私がこの町長のセリフを聞くたびに思うのが、『きっと感謝されてることを身をもって味わってみたいんだろう』ということだ。
立場上、お世辞とか社交辞令みたいな言葉ばかりだから他人の本音は聞けないということもあって、私みたいに本音を言ってくれる人間に聞いてくるんだろう。
いろいろ考えてしまい、私は小さく笑ってしまう。
「……やっぱり、ダメなんですね」
「あ、いえ。そういう意味で笑ったんじゃないですよ?」
不安そうな町長の顔が、さらに不安そうになる。
なんて子どもっぽい人なんだ。
小さい子が拗ねてるようにしか見えない。
「町長はよくやってくれてますよ」
「……ホント?」
「ホントですよ。感謝してもしきれないほどのことはしていると思います。ただそれを言われる機会が少ないだけですよ」
そう言うと、ちょっと照れくさそうに頬を緩める町長。
やっぱり子どもだ。
こんなことで機嫌を直してくれるなんて、子どもに機嫌取りのお菓子をあげたみたいだ。
そしてなにか思い出したかのようにフフッと笑うと、書類の山を片付ける仕事に戻っていった。
私もまた小さく笑って、部屋を出ていこうとしたとき、また町長が声をかけてきた。
「秋原さんは優しいですよね」
「今更ですか」
「なんで結婚できないんですかね?」
「……なんででしょうね?」
「……すみませんでした」
……そんなの婚期を逃したからに決まってるじゃないですか。
私は町長室を出ると、秘書課へと戻った。
秋原さんから見た町長でした。