お祭り後編
そのあとのカラオケ大会もすごい盛り上がりと共に終わり、ほぼ問題なく最後の手持ち花火大会までやってきた。
しかし問題があった。
俺が酒の席に巻き込まれて、酔いすぎてしまったのだ。
さっきもらった冷たいお茶のペットボトルを首に当てながら、本部の椅子を並べて横になり、頑張って酔いを覚ましているところだ。
幸い、今はまだ手持ち花火を配り終わったところだし、だいぶ酔いも覚めてきたから、締めの挨拶までにはなんとかなるだろう。
そう横になってうーうー言っていると、秋原さんが近づいてきたのが視界の隅に入った。
「大丈夫ですか?」
「んー。大丈夫だと思います。うろな町の人達はお酒に強いですね」
「なにかしらの集まりで飲んでる人が多いですからね。まぁそーでなくても飲んでる人が多いですけど」
「もうちょっとお酒に強くなりたいなぁ」
「短冊に書いておきましょうか?」
「もうちょっと町長らしいこと書かせてよ」
そう言って二人で笑った。
「秋原さんは短冊に何か書いたんですか?」
「まだ書いてませんよ。いい歳して書くのも変ですけどね」
「いくつになっても願い事には頼っちゃうのが人間ですよ。せっかくだし書いたらいいじゃないですか」
「え?」
「こんな機会でもない限り書く事なんてないだろうし、大人なりの願いを書いてみましょうよ」
「そ、そうですか? 私だけじゃなくて町長も書いてくださいよ? 大人で書いてるのが私だけとか恥ずかしいじゃないですか」
「書く書く」
「わかりました。はいこれ、町長の分」
「はいどーも」
近くにあった短冊のうち二枚を取って一枚を俺に渡した秋原さんは、楽しそうに『何書こうかなー』と言っていた。
しかしタイミングとは悪いもので、榊君が駆け寄ってきて言った。
「町長、花火大会始まりますよー」
「あら、もうそんな時間?」
「短冊書けなかったなぁ」
「私もです」
「こんな時間に短冊書いてたんですか?」
「うん。榊君も書く?」
「だから花火大会始まりますって」
「そっかそっか。じゃあ盛り上げちゃってよ、海賊王さん。相方の歌姫は?」
「歌姫は、もう一人の歌姫に扮したアッキーさんと写真撮影会始めてました」
「じゃあもうあの二人に盛り上げさせちゃえば?」
「それはいい提案です。ちょっとお願いしてきます」
「短冊に書いとく?」
「直接行きますよ!」
アハハハハ。
「花火大会ですって」
「ですね」
『それでは花火大会を始めたいと思いまーす』
『みんな、花火はもらったかなー?』
「「「もらったー!」」」
『よーし! じゃあ大人の方は、火をつけてあげたり怪我しないように気を付けてあげてくださいねー』
『良い子のみんなは、友達に向けて花火をしたらダメだからねー!』
「「「はーい」」」
『じゃあ最後に榊君、一言どうぞ!』
『ええっ、僕ですか? えっと…花火王に、俺はなるっ!』
『はい。では花火大会、スタート!』
そんな声が聞こえたかと思うと、花火がドーンドーンと上がって、地上では子ども達が手持ち花火を持ってきゃっきゃをはしゃいでいた。
「こーゆーのがいいよね」
「はい」
「町長になってどうなるかと思ってたけど、こーゆーのが見れただけでも、町長やってて良かったって思うよ」
「ふふ。私も町長の秘書で良かったと思います」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って二人で頭を下げ合ったあと、空と地上に見える綺麗な花火を本部から静かに見ていた。
夏祭り おしまい
おまけ
「秋原さん、なんて書いたんですか?」
「えっ、先に町長の見せてくださいよ」
「俺のは普通だよ」
『うろな町がいつでも笑顔で溢れますように』
「ね?」
「ず、ずるい!」
「ずるい!? なんて書いたんですか?」
「ダメです! 絶対に見せません!」
「そんなに駄々こねるんなら、クビにするよ?」
「ちょ…わかりましたよ。でも書き換えますからね?」
『結婚できますように』
「あー…」
「…その顔やめてください」
「だ、大丈夫ですよ。まだ35じゃないですか。俺だって同い年でまだ結婚してないんだから、なんとかなりますって」
「町長は仕事に生きる男でもいいじゃないですか。いいから返してください! ぐちゃぐちゃー!」
「せっかく書いたのにもったいない」
「あんなの世間に見せられるわけないじゃないですか! まったくもう…」
そう言って違う短冊に『うろな町が平和でありますように』と書く秋原さんだった。
はい。
夏祭りへのご協力ありがとうございました!
そしてさりげなく町長さんの年齢公開です。