夏祭りと企画課
『夏祭り開催決定!
7月6日開催!
いろんなお店も出るよ!』
そんなことが書かれた張り紙をペタペタと企画課の佐々木くんと一緒に貼っていく。
「なんでボクが町長なんかと…」
さっきからブツブツと言っている。
どうやら佐々木くんは俺のことが嫌いらしい。
まぁ立場上嫌われるのは慣れてるけど、ここまで露骨にしなくてもいいではないか、と思う。
ちなみにもう一人の企画課の香我見くんは、秋原さんと回ってもらっている。
「なんでボクが町長となんですか! ボクのほうが秋原さんへの愛は強いやないですか!」
「いや、俺は何も言ってないって。香我見くんに『佐々木君と秋原さんを組ますんはなんか危ない。せやから町長と組んどき』って言われて、ジャンケンで負けたんでしょ」
「あそこで『グーや。グー出すで』って言う精神攻撃が無ければ勝ててたんや! そして無駄に上手い関西弁、やめてください! なんやそのドヤ顔! ちょっと腹立つわ!」
やいのやいのとはしゃぐ佐々木くん。
いつも真面目な秋原さんと一緒にいるせいか、こー騒がしいのはちょっと楽しい。
香我見くんが佐々木くんに構ってあげてる気持ちがよくわかった気がする。
しかもこう話してる間も、全然貼る作業が止まらないのは素晴らしい。さすが『仕事』はできる企画課なだけある。
「ええなぁ。秋原さんと二人っきりな香我見くんが羨ましいわー。企画課の暖房でもつけといたろかな」
「暖房って、省エネに協力してよ。そんなに秋原さん好きなの?」
「もう町長を引きずり下ろして、秋原さんを嫁にしたいと思うとるくらいは好きですね」
「君、容赦ないな」
「町長には秋原さんの魅力は伝わらへんのですか? あんなに美人さんなのにもったいない」
「俺には秋原さんはもったいないよ」
「そう思います」
断固とした表情でキッパリと言う佐々木くん。
そして本日30枚目の貼り紙を電柱にペタペタと貼っていく佐々木くんが、貼り紙に描いてある絵を見て言う。
「そういえばこのヘンテコな絵はなんなんですか?」
「屋台の絵らしいよ。左から、たこ焼き、焼きそば、りんご飴、わたあめ、端っこのはくじの景品だってさ」
こちらを見て深々とため息をつく佐々木くん。
「はー。それにしてもへったクソな絵ですねぇ。ここまで絵心が無いのなんて香我見くんぐらいかと思てましたわ」
「それ描いたの…あっ、噂をすればなんとやら」
「佐々木さん?」
「はい?」
自分の名前を呼ばれて振り向いた佐々木くんは、般若を背負った秋原さんと向き合った。
「へったクソな絵で悪かったですね…」
「いやいや、へったクソっていうのは、言葉のあやで…」
それから秋原さんと佐々木くんは二人っきりで延々と話すことになった。主に秋原さんのペースで。
その間、俺は笑いっぱなしの香我見くんと一緒に残りの貼り紙を貼ることになった。
「佐々木君も喜んでると思いますよ。ププッ。だって大好きな秋原さんと一緒なんですから。プププッ」
「香我見くん、楽しそうだね」
どこまでも両極端な二人だと思った。
弥塚泉さんの佐々木さんと香我見くんをお借りしました。