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「高速道路?」

「はい。ほら、おととい位の書類の中にあったじゃないですか」


仕事が一段落して、秋原さんが煎れてくれたコーヒーを飲んでた。


「あー…あったような気がしますけど、それが?」

「なんか噂ではなにやら黒い影が蠢いてたらしいですよ」

「夏だから虫もわきますよね」

「…私の話聞いてます?」

「あれ? 聞いてますよ。今のは『虫がわく』って言うことを秋原さんの言う『黒い影』とかけてみたんですけど、わかりませんでした?」

「わかりにくいし意味が分かりません。ちょっとは真面目に聞いてくださいよ」


ちょっと高尚なギャグだったらしく、秋原さんには全然伝わらなかった。


「だから聞いてますって。高速道路でしょ? その話は断ったじゃないですか。隣町の町長さんともお話して決めましたし」

「まぁ町長が断ってくれてよかったですー」

「なんなんですか、もー、回りくどいじゃないですかー」

「いい歳して『もー』とか言わないでください。その噂だと、けっこう大規模だったみたいで、なんでもあのショッピングモールも絡んでたらしいですよ」

「噂でしょ? そこまで深く聞いたらダメですよ」

「わかってはいるんですけど、やっぱりそこは気になるじゃないですか」

「だから噂に耳を傾けたらダメだって言ってるんです。自分の目で見て、聞いて、感じて、そして思ったことを参考にしていきなさい。だからこの話はおしまいー」

「わかりました。この話はおしまいですね」

「わかればいいんです」


その件に関しては色々とあったし、噂に振り回されないようにするのは大切なことだし、間違ったことは言ってないだろう。


「では今年も夏祭りを行うんですけど、去年のを参考に作りました。どーぞ」

「ん」


受け取った企画書に目を通して、去年の夏祭りとの違いを確認する。

毎年夏祭りの運営は町役場がやることになっていて、今年もそうなっていた。

町を巻き込んでの企画は、初めてなのでキチンと進めていくのが大事だ。


「あっ、今年もたこ焼きは企画部の二人が作るんですね」

「たこ焼きだけじゃなくて、お好み焼きと焼きそばも作ってくれるそうです。お願いしたらお快く引き受けてくれました」

「あの二人のたこ焼き美味しいんですよね。本場の味っていうか」

「しゃべりも面白いですからね。二人で漫才コンビみたいですもん」


そして目を通していくうちに、ふと気になる点を見つけた。


「あれ? このわたあめ屋って何も書いてないですけど…」

「問題はそこなんですよ。ちょっとどうしても人手が足りなくて…町長にやってもらうわけにもいかないですし、誰かお手伝いしてくれる人はいませんかね?」


そんな時だった。


「ワンワン!」

「こらっ! うるせぇっての!」

「ん?」

「犬、ですかね?」


窓の外からいろんな種類の犬の鳴き声が聞こえてきた。

何事かと思って秋原さんと並んで窓から顔を覗かせる。

窓の真下辺りに、リードに繋がれた犬たちにてんやわんやしている男の子がいるのを確認した。


「ワンワンワンワンワンワン!!!」

「なんで大人しくしないんだよ…こんな時に限って真帆いないし…」

「君、大丈夫?」


とりあえず声をかけてみた。


「あっ、すみません。うるさくしてすみません」

「いやいや。そんなことより、大丈夫?」

「あー…」

「ワンワンワンワンワン▽・w・▽ワンワンワンワンワン」

「アハハ。大丈夫じゃないみたいだね」

「…はい」

「ちょっと待っててねー」

「秋原さん」

「どうぞ行ってらっしゃいませ」


町長室をでた俺は、階段を降りてさっきの男の子がいた場所まで駆け足でやってきた。


「ワンワンワン!」

「わんわん!」

「わんわんお!」

「キャンキャン!」


何やらカオスだった。

なんとかして落ち着かせようとしている少年だったが、1匹をおとなしくさせている間にほかの犬がはしゃぐというイタチごっこになっていた。

とりあえず俺も犬を大人しくさせようと試みたが、結局は二人でてんやわんやしてしまい、事態の沈静化は困難だった。

その時救世主は現れた。


「静まれぇええい!!」


その大声と共に犬たちは吠えるのをピタリと止め、その現れた青年の前に大人しく座っていた。

俺と少年に背中を向けている青年は、犬たちに向かって指導を始めた。


「お前たちも立派な犬ならば他人に迷惑をかけずに散歩をしてみせよ。それが飼い主にとっても嬉しいことであるし、他の犬の見本にもなるというものだ」

『ワンッ!』


犬たちの返事に対して、『良く出来た』と褒めながらワシワシと犬を撫でる青年。

俺と少年は顔を見合わせると、自分たちのやってきたことはなんだったのかと思うと同時に、この青年の凄さに呆気にとられた。


「あ、あの、ありがとうございます。助かりました」

「む? 町長であったか」


そう言って振り返った青年の顔には天狗の仮面が付けられていた。

彼はこの町の治安を守っている天狗仮面さんだった。

その仮面の下の素顔は誰も知らないとかなんとか。あっ、でも同棲してる彼女さんがいるはずだから、その人は知ってるのか。


「うおっ! 天狗!?」


隣にいた少年が驚いていた。

初めて見たのだろうか?


「天狗さん。ありがとうございました。おかげで助かりました」

「うむ。困っている人がいたら見過ごせないタチなのでな。気にしなくても良い」

「感謝感謝」


そうお礼を言ってから思いついたことがあった。


「そうだ。天狗さん、今度夏祭りやるんですけど、そこのわたあめ屋さんとかやってもらえませんか? ちょっと人手不足で」

「夏祭りか。日にちは去年と同じですかな?」

「7月6日ですね」

「ふむ…引き受けたいところなのだが、ちょっと先約があってな。申し訳ないが…」

「そうですか…」

「じゃあ俺やりましょうか?」


と、声を発したのは、隣にいた少年だった。


「えっ?」

「あっ、でも夏祭りの手伝いなんて子どもがやるのは変ですよね。すんません」

「こちらとしても手伝ってくれるなら助かるけど…いいの?」

「ホントですか? まだこの町に来て日が浅くて、いろんなことやってみたかったんですよ!」

「引越しか何か?」

「えっと…自分探しの旅を…」

「へ?」

「町長っ」


上から秋原さんの声が聞こえてきた。


「その子、前に話してた椋原さんのところの子ですよ」

「椋原さん? あー、あの娘さんに拾われたっていうのが君かー」

「そ、そんなに有名になってるんスか?」

「えっと、じゃあ今は無職?」

「午前中はこうやって犬の散歩のアルバイトしてるんですけど、ほとんど暇してます。半ニートみたいなもんです」


これは良い。


「じゃあさ、バイトってことでわたあめ屋手伝ってくれるかな?」

「いいともっ!」


元気よく返事をする少年と、満足そうに頷く天狗さん。

なにはともあれ、結果オーライとなった。

ディライトさんのニートくんと、三衣さんの天狗さんをお借りしました。

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