絡め取って強引
(そしたら君はこっちを見てくれますか?)
■ ■ ■
あたしは魔王の娘だ。
魔物と魔族を納める魔王の娘。
それを嫌だと思ったことも、逃げたいと思ったことも無かったけど。
なんだか、妙な気持になった事はある。
あたしは何のためにここに生まれて来たんだろう?
あたし達の先祖は昔滅んだ国に大虐殺された歴史がある。
父の何代か前の王が、その国の王に呪いをかけた。
その子供に呪いをかけた。
…もし、その先祖に会えたらあたしはブン殴ろうと思ってる。
可哀想だと思ったから。
悪いのは親で、子供に罪はないのに。
いつもそうだ。
子供は、親の都合を押しつけられてばっかりだ。
不公平だよ。
そんなの嫌だ。
だから、あたしは決めたんだ。
その子供に会ったら、助けたいと思ったんだ。
■ ■ ■
「スィエルー」
「アストル」
こいつはスィエル。
あたしの親友兼守役。
勿論、悪魔。ま、いい奴だよ。
「あたしさ、行くことにしたから」
「茨城か」
「うん。行くしかないでしょ」
茨城。そこに呪いをかけられた子供がいる。
あたしたち一族の悲願。そして贖罪。
茨城で、その王を殺し、子供の呪いを解いてあげること。
今まで、それが出来た奴はいない。
でも、出来る気がする。
「言ったでしょ。あたしが夢を見るって。
布団にくるまった男の子、あたしはその子を助けるために命をかける」
そんな夢を何度も見た。
だから、これはあたしの運命なんじゃないかと思う。
「まあ、心配だからフォンテーヌにお呪いをかけてもらうけど」
フォンテーヌ。この城で暮らしてる兄さんのお嫁さん。まあ、男だけど。赤ちゃん見たい。生まれないかな…。
人魚だ。彼は。
北の国のお伽噺のように。
兄と恋して、たくさんの物を引き換えに今陸に上がっている。
人魚の魔力は守りの魔法だ。祈りだ。
気休め程度にはなるだろう。
「着いて来てくれる?」
「ああ。行くよ」
■ ■ ■
綺麗だった。
ベットに埋もれて、花に囲まれて、ただ美しかった。
「あー…なるほど」
こいつが、あたしの。
いや、違うのか。
あたしがこいつの為にいるのか。
あの女の言ってることがあってんだよね。
「あたしはあんたを救いに来たんだ」
それだけじゃなかったけど。
■ ■ ■
「あたしだって、やりたくてやるんじゃないけどさぁ…
やんないとさ、イケないんだよね」
「お前だって、知ってたんじゃないのか?」
追いついてきたスィエルがアンジュに向かって聞いた。
「お前の両親が、俺達の仲間を大量に殺していたこと」
「し、知らない!そんな事、知らない…!」
アンジュが縋るようにティムを見た。
ティムは悲しそうに、無表情のまま言った。
「知らせていませんでした。あなたには、全く関係のないことでしたから…」
「そんな……」
「親が何をしようと、子供がそのつけを払わなければならない道理はない」
泣きそうなアンジュ。
「あのさ、ごめん。泣いてるとこ悪いんだけど、ティムさん?アンジュ様連れて行ってくれる?
断末魔は聞かせたくないからさ」
ブンッ、と剣を振る。
血風が舞う。
「ま、待て!命だけはッ!」
「喚くな、人間が。その言葉、一体何人の者たちに言わせてきた?」
とても残酷にアストルは剣をつきたてた。
瞬間。
城に大きな振動が走る。
茨が消えていく。
城の人間が目覚め始める。
アンジュの、呪いが解けていく。
角が消える。肌の紋様が消えていく。髪と瞳はそのままだった。
「え…あ…」
「これで、あんたは自由になるはずだ。好きなとこに行けばいいんじゃない?」
呪いが解けるのは王子が目覚めたときじゃない。
王が死んだ時だ。
「俺は…」
「あたしの役目は、あんたを目覚めさせて呪いを解くこと。無理にあたしを愛す必要も愛される必要もないんだ」
からりと笑うアストル。
「俺は…どうしたらいいのか、分からないけど…お前のことを、知りたい。
もっと知りたい。なんで、こんな事になったのかとか…知って、お前を愛していきたい」
自分が目覚めた時、「おはよう」と言ってくれた笑顔に。
確かに自分は恋をしたのだろうと思う。
ルフランに魔法をかけてもらったからじゃない。
自分で思って、自分で感じた結果だから。
信じてみるんだ。
「なあ、そんな悲しいこと言うな。俺を選べ、俺と共に生きろ。アストル」
「ねえ…いいかな…?」
カラン。剣を取り落とした。
「いいかな…あのさ、あたしを選んでくれて、ありがとう。って言っていいかなぁ?」
「いいよ」
アンジュはアストルを抱きしめ、囁く。
「なあ、お前の国に行ってもいいか?どうせ、この国は終わってる。俺はお前と生きたい。一緒にいたい」
「うん…いいよ」
彼らには幸せが訪れるだろう。
だって、今まで沢山辛いことがあったんだから。
報われてもいいはずだもの。