It was love at first sight
(それは一目ぼれだった)
■ ■ ■
「眠り姫?」
「正確には王子らしいけど」
「ふーん。で?その王子様は“この城”にいるの?」
「そうみたいだよ」
二人組だった。
紅い髪に銀の瞳の少女、黒い髪に青い瞳の青年。
どちらも同じくらいの年頃で、剣を持っている。
約百年前、ある魔法使いによって眠らされたという『化物王子』がいると言われている城。
通称、『茨城』の傍だった。
「あーあ、めんどくさいなぁ…」
「でも、これ終わらないと国に帰れないよ」
「おう。頑張るしかないかぁ!」
そう言って拳を振り上げる少女。
「で、どうやって城へ這入ろうか」
「茨を斬り進むとか?」
「そんなんじゃ無理だよ」
不意に後ろから声がかかる。
全身真っ黒な、鴉のような女だった。
「君達は何のためにこの城へ這入る?」
「…………」
女の問いかけに少女は答えない。
数瞬、二人の視線が絡まり合う。
「……いいよ。行きなさい」
そう言いながら一本の剣を少女へ放る。
「これは…?」
「私の魔力を込めた剣だ。これで茨を斬り裂けるよ」
「あんた、一体――!?」
女は黒い無数の羽根になって消えていた。
「黒い…魔法使い……」
「お話の通り、か」
「て、ことは王子様はこの中にちゃんといるみたいだな」
(見てみたいな)
化物と呼ばれた王子様。
未だにこの城で眠っている。
(どんな人なのかな)
■ ■ ■
「あたしこっち行くよ。あんたはあっちね」
「分かった。じゃ、死ぬなよ」
「おうとも!」
少女は左から、青年は右から茨の城に突っ込んだ。
「っう、こりゃ難しいな…!」
(……め………な………)
「!?」
突然、茨が意思を持ったように少女に襲いかかる。
(…な……るな……来るな来るな来るな来る)
「っ、何だよ!」
(通さない来るな通さない通さない来るな来るな!)
「何でだ!」
(傷付いて…る)
「え……?」
声が泣いている。
(傷付いてる…アンジュ…泣いてる傷付いてるもうこれ以上苦しませない来るな通さない来るなもうアンジュ傷付けるな…)
「アンジュ…王子様の名前か……?知るかよ、そんな事!」
ここの茨は、王子様達を閉じ込めてるんじゃなくて。
王子様を護ってるんだ。
だから、こんなに自分を攻撃してくるんだろう。
こんなに、必死に。
「でも……あたしだって引き下がれない!」
目的を果たすまで!
■ ■ ■
「ここは…大広間…?」
「よく、ここまで来たな」
広間真ん中にいたのは黒い執事服の男だった。
大きな剣を構えている。
「何をしに来た」
「…色々と。あと、王子様の顔を見て行こうかと」
「そうか」
男が斬りかかってくる。
それを剣で受け止める少女。
「…!その剣は」
「城の前で魔法使いにもらったよ!」
「………僕はティム」
一旦下がり、剣を下ろした。
「そこの扉を開け、階段を登れば王子がいる」
「……?」
「待っていた。
彼を愛する人の存在を」
ティムは道を開けた。
少女は、少し警戒しながらもそこを通って行く。
■ ■ ■
「この人が、王子様」
綺麗なベットに横たえられた金髪の美しい青年。
額には雄牛のような角。
腕には鱗のような模様が浮かんでいる。
「綺麗…」
思わず、そう呟いた。
「あー…なるほど」
少女はガシガシと髪を掻き回す。
そして、ベットの傍に跪き。
アンジュの唇にキスを落とした。
うっすらと目を開けるアンジュ。
紅い瞳がぼんやりと少女を見た。
「やあ。おはよう」
「……ひっ」
アンジュは次の瞬間、小さな悲鳴を上げ飛び退いた。
「驚かないでよ。ま、キスしたのは悪かったけど」
「お前…誰だ」
「あたしはアストル。あんたがアンジュ様?」
「ああ」
にいっ、と少女――アストルは笑う。
「怖がんなくていいよ。
大丈夫。あたしはあんたを救いに来たんだ」
アンジュの瞳が見開かれた。
「お前が……」
「アンジュ様!」
「ティム…?」
大きな音を立てて扉が開かれた。
そこには泣きそうな顔をしたティムだった。
「っ、おはよう、ございます。アンジュ様」
「おはよう。…どうかしたのか?」
「呪いが解けた!早く城を出ないと!」
アストルが一旦、目を伏せ、また上げる。
「アンジュ様。ちょっとここにいてね?すぐ戻るから」
踵を返し部屋を出て行ってしまう。
「あ…」
「アンジュ様。彼女があなたの運命の人でしょう?」
「うん……っ、追わないと!」
アンジュが叫ぶ。
「あいつを、追わないと!」
「どうしたんです…?アンジュ様」
「分かんねぇ…けど!行かないと、きっと後悔する!!」
ティムは無言で頷いて、アンジュの手を引いて階段を下りていく。
■ ■ ■
階段を下りた二人が見たのは。
「あー…見られちゃったかぁ」
返り血を浴びて、困ったように笑うアストルと。
殺されかけている、この城の主である夫婦だった。
「あー…ごめんごめん。あたしさぁ、実は
あんたの両親殺すためにここに来たんだよね」