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終わりなんて気休め

「やあ、元気かい?」

「それ、昨日も言ってた」


そうだっけ、と笑う女はこの国一番の魔法使いだ。

全身黒い服で固めていて、その白髪だけが異様に美しい。


「はい。頼まれてた本が見つかってね。届けに来たんだ」

「…いっつもそうだよな」

「まあ、暇つぶし程度に思ってくれよ」


本当は、感謝しなければならないんだ。

この人が魔法をかけてくれなければ、俺は生きちゃいないんだから。

俺は呪われている。

本当は生まれてすぐ殺されるはずだった。

でも、助けてくれたんだから。


「元気じゃないな。ほら、これでも食べて」

「何、これ」

「北の国のお菓子だよ。知り合いがくれたんだ。

さて、今日は何のお話がいい?」

「……人魚姫」

「好きだねぇ。その話」


笑いながら、遠い西の国に伝わるお伽噺を語ってくれるルフラン。


嵐の夜、王子に恋をした人魚姫。

王子に伝わらないとわかっていても、

その声と引き換えに陸に上がった。

王子を殺せば助かった。

けれど、愛した人を殺せなかった。

泡になって、王子を見守ることを選んだ。

愚かで美しい、一人の少女の話。


こんな風に一途に誰かを愛したい。

愛されたい。

俺はそれを望む。

叶わないかもしれない、俺の願い。


「……なあ、ルフラン」

「ん。なに?」


途中で話を遮られても、嫌な顔一つしない。

俺の母よりも母らしい人。


「最近、夢を見る」

「……どんな?」

「俺はベットで寝てるんだ。いや、丸くなってた。もう、いろんな事が嫌で仕方なくて。外のことなんかどうでもいいやって思って。

そしたら、誰かが来るんだ。

「大丈夫。私はあんたを救いに来たんだ」って。

そう言って、俺を強引にこの城の中から連れ出してくれるんだ」

「ふぅん…」

「俺は、多分その人を待ってるんだ」


強引でいい。

無理やりでいい。

この闇から引き吊り出してくれる人を俺は待っている。


「……きっと、いるよ。私が魔法をかけたから。どれだけ掛かるかはわからないけど」

「だといいな…」



  ■  ■  ■



「アンジュ様、お誕生日おめでとうございます」

「ああ」


俺にそう言うのはティムという俺の執事だ。

ただ一人、十年以上も俺と一緒にいてくれた。


「今年ですね」

「ああ」

「きっと」


笑ってくれる。

その笑顔に何度も救われた。


「アンジュ様。きっと、大丈夫ですよ。あなたを愛する人はいます」

「いるかな…」

「ええ。僕も、アンジュ様の事が大好きですから」


手を引かれて、階段を上っていく。


「行く年月、僕はあなたを待っています。

いつか、あなたが心の底から笑える時まで」


部屋の真ん中に錘。

俺はそれに手を伸ばす。


「それまで、少しの間だけお休みください」

「ああ………おやすみ」


おやすみなさい。

その優しい声を最後に俺は眠りについた。



  ■  ■  ■



「君は、いいの?」

「何がです?」


アンジュの身体をベットに下ろしながら答える。


「皆と一緒に眠らなくて」

「…いいんです。僕は彼が起きた時、二番目に「おはよう」を言ってあげたいですから」

「そう」


ずっと一緒にいた。

それこそ、彼が生まれてからずっと。

十五年間一緒にいた、親友だった。

だから、僕は見てみたい。

彼が幸せそうに笑う時を。


「じゃあ、百年後」

「ええ。百年後」


僕は番人。

彼を護る番人。



「誰にも、傷付けさせはしない」



城を茨が覆っていく。

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