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婚約者は、今日もわがままお姫さま

作者: 有梨束
掲載日:2026/08/24

「このお菓子、きらいっ!」

「お口に合いませんでしたか?」

「もっと大人な味がいい!」

「では、こちらはいかがですか?」


婚約者と定期的に行われるお茶会。

豪華な庭に、豪華な菓子に、豪華なドレス。

これ以上ないくらい、贅沢なお茶会だなと思う。


前回もお菓子が気に入らないと、機嫌を悪くされたから、今日もいくつか用意してみたが。

やはり、なんでも気に入らないんだろうなあ。


婚約者の口元が汚れているのを見つけて、そっとハンカチで拭う。


「なっ、なにするの!」

「お菓子がついていたので」

「許可もなくさわるなんて、無礼だわっ!」

「これは失礼いたしました」

ペコリとお辞儀をしてみせると、それはそれで気まずい表情をする。


「べ、べつに、そこまでしろとは言ってない…」

「そうでしたか」

僕はニコニコしながら、新しいお菓子を出してみせた。

一瞬、目を輝かせた婚約者は、ハッとしてから、すぐに唇をムッとさせた。

表情を繕えないなんて、まだまだだな。


「そのお菓子はおいしいんでしょうね!?」

「どうでしょう、召し上がってみてください」

「なによっ、あたしの好みくらいわかっているものでしょう!」


婚約者に文句を言われたり、怒られたりするのは、日常茶飯事だ。

だけど、僕はちっとも気にならない。

頭にきたりもしない。

そんな張り合うような歳でもないし。


「これも好きじゃない!」

「そうでしたか」

「もう、知らないっ!」

ぷりぷり怒っている婚約者のぷっくりほっぺが、余計にぷっくりしている。

ついでにもちもちの腕で、腕組みしているけど上手くできていない。

やっぱり、大人ぶりたいお年頃なんだろうなぁ。



僕は侯爵家の嫡男、15歳。

目の前の怒っている婚約者は、この国の第三王女であり、御年5歳。


姫様が成人する頃には、降嫁されてくる予定ではある。

あまり政治利用されないようにと、姫様が生まれた直後に、僕との婚約が決まった。

赤ん坊の殿下にお会いした時には、新しい妹ができたんだなくらいにしか思ってなかった。

だって、僕自身もまだ10歳だったし。


姫様にもっといい道があったら、すぐに僕との婚約は解消だろうけど、臣下としてはそれぐらいの犠牲にはなれるだろう。


そんなことよりも弟たちよりも小さいから、何をされても「あどけないなー」「がんばって、偉そうぶろうとされてるんだなー」という感想しか出ない。

あんなに小さかったのに、大きくなったなー、というか。

これだけ小さなお姫さまのわがままなど、可愛いものだし。


たぶんだけど、僕の気を引きたいだけなんだと思う。

第三王女殿下のご兄弟は皆、僕と歳が近いどころか成人されている方がほとんどで、公務でお忙しい。

それは両陛下も同じで、構ってくれる大人が少ない。


そんななか、呼び出せば学校にいない限りはすぐにやってくる僕のことは、ちょうどいい存在なのだろう。

それぐらいは、兄のような存在としては叶えてあげられる。

正直、本当のお年頃になってきた弟たちの方が手を焼いているため、姫様なんか可愛いものである。


今日も王城の庭でお茶会をしている。

僕たち以外は、使用人だけ。

城で働く人はとても優秀だけれど、姫様が心開くには遠い存在な気もする。


そう思いながら、新しいお菓子を仕舞った。

これだけ甘すぎるお菓子は、僕は食べられないし。


「……あなたは、食べないの?」

「僕は大丈夫ですよ」

ニコリと笑っても、気に入らないのか睨まれた。

今度は、何が嫌なのかなあ。

そっと見守っていると、不貞腐れたような小声が聞こえた。


「……あたしばっかりだわ」


その顔が妙に寂しそうで、胸がちくりとした。

この城で、何をするにもお一人なのだろうなぁ。

そう思うと、苦手な甘い菓子も食べてあげるのが、僕の役目かな。

これでも一応婚約者だしね。

さっき姫様がきらいだと言ったお菓子に手を伸ばして、そのまま口に入れる。

……うん、甘い。

姫様が言っていた「もっと大人な味がいい」は、そうかもしれない。


僕が食べたのを見て、姫様はじーっと僕のことを見てきた。

早く感想を言わなきゃな。


「殿下の言う通り、もう少し大人な味の方がいいかもしれませんね」

そう言うと、溢れそうなほど目を見開いてから、にひっと笑った。


「そうでしょ!もっと大人な味がいいわ!」

「ええ、また探してみますね。大人な味」

「うん、そうしてちょうだい!」

姫様は満足したのか、すっかり機嫌を直してニコニコし始めた。

その短い腕を伸ばしてきて、元気よく言った。


「抱っこ!」

「え?殿下はもうお姉さんになられたのではなかったでしたっけ?」

最近は「もうお姉さんだから!」とそんな甘え方はしなくなっていたのに。


「いいの!今日はちがうから、いいの!」

「そうですか」

僕に逆らう意思もなく、そのまま姫様を膝の上に乗せた。

周りの使用人から、ほんわりとした空気を感じる。


「今日はね、抱っこさせてあげる!」

「そうでしたか」

「そうなの!」

姫様は僕の膝の上で、最初に食べたお菓子を食べ始めた。

もう気に入らなくはなくなったらしい。

うん、また次もこのお菓子は用意してもらっても大丈夫みたいだ。


今日も僕の婚約者は、年相応にわがままだ。





お読みくださりありがとうございました!!

235日目。

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