婚約者は、今日もわがままお姫さま
「このお菓子、きらいっ!」
「お口に合いませんでしたか?」
「もっと大人な味がいい!」
「では、こちらはいかがですか?」
婚約者と定期的に行われるお茶会。
豪華な庭に、豪華な菓子に、豪華なドレス。
これ以上ないくらい、贅沢なお茶会だなと思う。
前回もお菓子が気に入らないと、機嫌を悪くされたから、今日もいくつか用意してみたが。
やはり、なんでも気に入らないんだろうなあ。
婚約者の口元が汚れているのを見つけて、そっとハンカチで拭う。
「なっ、なにするの!」
「お菓子がついていたので」
「許可もなくさわるなんて、無礼だわっ!」
「これは失礼いたしました」
ペコリとお辞儀をしてみせると、それはそれで気まずい表情をする。
「べ、べつに、そこまでしろとは言ってない…」
「そうでしたか」
僕はニコニコしながら、新しいお菓子を出してみせた。
一瞬、目を輝かせた婚約者は、ハッとしてから、すぐに唇をムッとさせた。
表情を繕えないなんて、まだまだだな。
「そのお菓子はおいしいんでしょうね!?」
「どうでしょう、召し上がってみてください」
「なによっ、あたしの好みくらいわかっているものでしょう!」
婚約者に文句を言われたり、怒られたりするのは、日常茶飯事だ。
だけど、僕はちっとも気にならない。
頭にきたりもしない。
そんな張り合うような歳でもないし。
「これも好きじゃない!」
「そうでしたか」
「もう、知らないっ!」
ぷりぷり怒っている婚約者のぷっくりほっぺが、余計にぷっくりしている。
ついでにもちもちの腕で、腕組みしているけど上手くできていない。
やっぱり、大人ぶりたいお年頃なんだろうなぁ。
僕は侯爵家の嫡男、15歳。
目の前の怒っている婚約者は、この国の第三王女であり、御年5歳。
姫様が成人する頃には、降嫁されてくる予定ではある。
あまり政治利用されないようにと、姫様が生まれた直後に、僕との婚約が決まった。
赤ん坊の殿下にお会いした時には、新しい妹ができたんだなくらいにしか思ってなかった。
だって、僕自身もまだ10歳だったし。
姫様にもっといい道があったら、すぐに僕との婚約は解消だろうけど、臣下としてはそれぐらいの犠牲にはなれるだろう。
そんなことよりも弟たちよりも小さいから、何をされても「あどけないなー」「がんばって、偉そうぶろうとされてるんだなー」という感想しか出ない。
あんなに小さかったのに、大きくなったなー、というか。
これだけ小さなお姫さまのわがままなど、可愛いものだし。
たぶんだけど、僕の気を引きたいだけなんだと思う。
第三王女殿下のご兄弟は皆、僕と歳が近いどころか成人されている方がほとんどで、公務でお忙しい。
それは両陛下も同じで、構ってくれる大人が少ない。
そんななか、呼び出せば学校にいない限りはすぐにやってくる僕のことは、ちょうどいい存在なのだろう。
それぐらいは、兄のような存在としては叶えてあげられる。
正直、本当のお年頃になってきた弟たちの方が手を焼いているため、姫様なんか可愛いものである。
今日も王城の庭でお茶会をしている。
僕たち以外は、使用人だけ。
城で働く人はとても優秀だけれど、姫様が心開くには遠い存在な気もする。
そう思いながら、新しいお菓子を仕舞った。
これだけ甘すぎるお菓子は、僕は食べられないし。
「……あなたは、食べないの?」
「僕は大丈夫ですよ」
ニコリと笑っても、気に入らないのか睨まれた。
今度は、何が嫌なのかなあ。
そっと見守っていると、不貞腐れたような小声が聞こえた。
「……あたしばっかりだわ」
その顔が妙に寂しそうで、胸がちくりとした。
この城で、何をするにもお一人なのだろうなぁ。
そう思うと、苦手な甘い菓子も食べてあげるのが、僕の役目かな。
これでも一応婚約者だしね。
さっき姫様がきらいだと言ったお菓子に手を伸ばして、そのまま口に入れる。
……うん、甘い。
姫様が言っていた「もっと大人な味がいい」は、そうかもしれない。
僕が食べたのを見て、姫様はじーっと僕のことを見てきた。
早く感想を言わなきゃな。
「殿下の言う通り、もう少し大人な味の方がいいかもしれませんね」
そう言うと、溢れそうなほど目を見開いてから、にひっと笑った。
「そうでしょ!もっと大人な味がいいわ!」
「ええ、また探してみますね。大人な味」
「うん、そうしてちょうだい!」
姫様は満足したのか、すっかり機嫌を直してニコニコし始めた。
その短い腕を伸ばしてきて、元気よく言った。
「抱っこ!」
「え?殿下はもうお姉さんになられたのではなかったでしたっけ?」
最近は「もうお姉さんだから!」とそんな甘え方はしなくなっていたのに。
「いいの!今日はちがうから、いいの!」
「そうですか」
僕に逆らう意思もなく、そのまま姫様を膝の上に乗せた。
周りの使用人から、ほんわりとした空気を感じる。
「今日はね、抱っこさせてあげる!」
「そうでしたか」
「そうなの!」
姫様は僕の膝の上で、最初に食べたお菓子を食べ始めた。
もう気に入らなくはなくなったらしい。
うん、また次もこのお菓子は用意してもらっても大丈夫みたいだ。
今日も僕の婚約者は、年相応にわがままだ。
了
お読みくださりありがとうございました!!
235日目。




