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エピローグ:調律された世界
数ヶ月後。アップデートされた『アステリズム』の広場の片隅に、一人、地味な鉄の鎧に身を包んだ騎士がいた。彼はかつての輝きを失っていたが、初心者の無料ユーザーに丁寧に道を教え、不具合を見つけては匿名で詳細なレポートを送っていた。
(……私はただ、この場所を愛していただけだったんだ)
歪んだ愛を捨て、彼は今、一人のプレイヤーとしてこの世界に溶け込んでいた。
現実のオフィスで、岳は届いたばかりの匿名レポートを眺めていた。
「……ふん。相変わらず、嫌味なほど完璧なロジックだな」
「どないしはりました? ガクチー」
コーヒーを淹れていた一ノ瀬が覗き込む。
「……以前よりもずっと、いい音を書くようになった奴からだ」
岳は微笑み、キーボードを叩いた。都会の雑踏は相変わらず騒がしいが、今の岳には、それが世界を動かす愛おしい旋律の一部に聞こえていた。
(完)




