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第2話:不純物の混入
翌朝。社内はいつも通り、五月蝿かった。
岳がモニターへと沈潜していると、テストチームから応援の女性がやってきた。
「初めまして。今日から寄らせてもらうことになりました、一ノ瀬凛どす。よろしゅうお頼み申します」
京都弁。都会の騒音をすり抜けて、鼓膜に直接滑り込んでくるような、不思議な規則性を持った響き。一ノ瀬は岳の刺々しい態度を受け流し、微笑んだ。
「岡山さんの書かはったコード、あまりに『静か』やったさかい。……まるで、誰にも見つからへん場所で、一人で糸を編んでる蜘蛛さんみたいに」
彼女は岳が職場で一度も漏らしたことのない、ゲーム内での象徴を口にした。
「……耳の奥で、まだ『黄金の騒音』が鳴ってはるみたいやし。あ、そのストラップ、素敵どすな」
彼女が指差したのは、岳が昨夜ヌルチーの糸を再現しようとした、未完成のワイヤー細工だった。一ノ瀬が歩くたび、周囲の騒音が波紋を描くように凪いでいく。岳は、得体の知れない「旋律」が日常に紛れ込み始めたことを予感した。




