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第8話 ――日常という名の、別世界

久しぶりに、何も背負わずに登校した気がした。


自宅ダンジョンの存在を知ってから、

恒一にとって学校は「戻ってくる場所」ではなく、

一時的に立ち寄る現実になっていた。


「おはよー、日高」


教室に入ると、いつものように声がかかる。

だが、その声の向こう側にあるものが、以前と違って見えた。


「お前さ、最近雰囲気変わったよな」

「そうか?」


そう返しながら、恒一は席に着く。


自分では分からない。

だが、確かに変わっているのだろう。


ダンジョンに潜り、

剣を振り、

命のやり取りをしてきた身体は、

もう「何も知らない高校生」のままではいられない。


昼休み。


自然と、話題はダンジョンになる。


「この前、Eランク十階層クリアしたんだ」

「マジ? ステどれくらい?」

「STRとVITに振ってる。ゴリ押し最強」


周囲が盛り上がる中、

恒一は静かに弁当を食べていた。


「日高は?」


不意に、例の同級生――最初に資格を取った男子が聞いてきた。


「最近、潜ってる?」

「……まあ、少し」


曖昧な答えに、彼は笑う。


「慎重派だもんな。でもさ」


声を落として、こう続けた。


「Eランクなら、もう稼げるぞ。

 魔核も売れるし、ダンジョン産武器、マジで高い」


魔核。

確かに、売ればそれなりの金になる。


だが、恒一は思う。


――これは、売るための力じゃない。


「今は、様子見」

「もったいねぇ」


彼はそう言って、話題を戻した。


だが、その背中を見ながら、恒一は気づいてしまった。


差が、開き始めている。


クラスメイトたちは、

Eランクダンジョンの延長線上にいる。


だが、自分は――

すでに、その線路から外れている。


午後の授業中。


ふとした拍子に、鑑定眼が反応した。


意識して使ったわけじゃない。

ただ、視線を向けただけだった。


《名称:教科書》

《状態:使用感あり》

《素材:紙(再生率低)》


「……っ」


慌てて意識を切る。


無意識で発動するようになっている。

これは、かなりまずい。


鑑定眼MAXは便利だが、

制御できなければ危険だ。


授業の内容が頭に入らない。

代わりに、ダンジョンのことばかりが浮かぶ。


擬態床。

測定不能の縦穴。

階層偽装。


――あれは、絶対にEランクじゃない。


放課後。


校門の前で、管理課の広報車を見かけた。


「新規ダンジョン発生に伴い――」

「冒険者講習の追加日程――」


スピーカーから流れる声に、

足を止める生徒も多い。


「またダンジョン増えたらしい」

「ほんと、普通になったよな」


普通。


その言葉が、妙に引っかかった。


恒一は、胸の奥で静かに否定する。


――普通じゃない。


少なくとも、

自分たちの家の地下は。


帰宅すると、ひよりがリビングでノートを広げていた。


「おかえり、お兄」

「勉強?」

「うん。ついでに、錬金のメモ」


ノートには、

素材の特性、反応、成功率が細かく書かれている。


「……学校、どうだった?」

「ダンジョンの話ばっかり」


ひよりは、少し笑った。


「みんな、浅いところで満足してるんだね」

「悪いことじゃない」


だが、続けて言う。


「ただ……知らないだけだ」


ひよりは頷いた。


「ねえ、お兄」

「ん?」

「私たち、もう戻れない?」


その問いは、重かった。


「……戻る必要はない」

「そっか」


ひよりは、どこか安心したように息を吐いた。


夜。


恒一はベッドに横になり、天井を見つめていた。


学校。

友人。

日常。


それらは、確かに大切だ。


だが、

ダンジョンの底で感じたものは、

それらよりも、ずっと生々しい。


生きること。

守ること。

選ぶこと。


「……俺は、何を選ぶ」


答えは、まだ出ない。


だが一つだけ、はっきりしている。


世界は、

ダンジョンを中心に回り始めている。


そして、

その“深部”を知っている者は、

まだ、ほんの一握りだ。


恒一は、静かに拳を握った。

学校という日常を通して、

二人の兄妹が「もう同じ場所にいない」ことを知りました。

ここから先、外の世界と自宅ダンジョンの落差が

より強く物語に影響していきます。

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