第44話 ――提出命令
朝。
玄関の前に、黒塗りの車が停まっていた。
制服ではない。
だが隙のない男が二人。
「恒一さんですね」
礼儀正しい。
だが圧は強い。
「核片の提出を求めます。国家管理対象に該当しました」
ひよりが、兄の隣に立つ。
「理由は?」
「構造干渉能力を持つ未知の資源。民間保持は危険です」
恒一は短く息を吐く。
「危険なのは理解してます。でも、暴走はしてない」
男は淡々と答える。
「今は、です」
沈黙。
恒一は、静かに言う。
「管理下に置くなら、俺たちも入れてください」
「……どういう意味です?」
「研究対象じゃなく、研究協力者として」
男の目が細くなる。
「交渉、ですか」
「排除も没収も、たぶん失敗しますよ」
嘘ではない。
三十五階層の干渉ログは、国家側も見ている。
「……上に伝えます」
即時強制はなかった。
だが猶予は短い。
三十六階層
――完全生成個体
転移。
空気が違う。
草原地帯は続いている。
だが中央に、巨大な岩柱。
その前に――
立っていた。
うろこを持つ、人型。
角。
長い爪。
背に棘。
だが目は、
はっきりと焦点を結んでいる。
《完全生成個体》
表示。
「……来る」
一瞬で距離が詰まる。
速い。
恒一が受ける。
衝撃。
地面が抉れる。
「重い!」
完全個体。
干渉では止まらない。
ひよりが魔術を展開。
氷槍。
だが、うろこが弾く。
「物理寄り!」
魔物が腕を振るう。
衝撃波。
恒一が踏み込む。
斬撃。
うろこに火花。
浅い。
「硬すぎる」
そのとき。
刀の紋様が強く光る。
核片が、自宅ダンジョン側で反応。
ひよりが叫ぶ。
「お兄、干渉じゃない――“同期”!」
「同期?」
「向こうの構造を読む!」
恒一は目を閉じる一瞬。
感じる。
魔物の“生成密度”。
一点だけ、揺らいでいる。
喉元。
踏み込み。
魔物の爪が迫る。
間一髪で逸らす。
一閃。
刃が、喉元の揺らぎを断つ。
静止。
魔物の目が、わずかに揺れる。
崩壊。
霧のように消えた。
ドロップ
地面に残ったのは――
《竜鱗核》
《高密度魔核》
質が違う。
重い。
「……ボス級」
表示。
《三十六階層:制圧》
《適合率:58%》
一気に上がる。
自宅ダンジョンの変化
帰還。
核片が、強く脈打つ。
壁が、石から半結晶状へ変わる。
中央に、小さな草原空間が形成される。
「……領域生成?」
《自宅ダンジョン:進化段階Ⅲ》
新表示。
《低確率で完全個体出現》
「え?」
「ちょっと待って」
その瞬間。
中央に、小型のうろこ魔物が生成。
だが――
敵意がない。
恒一を見る。
ひよりを見る。
「……敵対フラグ、立ってない」
魔物は、草を食べるような仕草をして、座った。
「……共存?」
国家の決断
管理局。
三十六階層制圧ログが届く。
「完全生成個体、撃破確認」
沈黙。
管理官が言う。
「……没収は不可能だな」
研究主任。
「協力体制に移行すべきです」
「正式プロジェクトに組み込む」
夜
自宅ダンジョン。
小型うろこ魔物が、恒一の足元にいる。
攻撃しない。
「……俺たち、飼ってる?」
「違うよ」
ひよりは静かに言う。
「共にいる」
核片が、さらに明るくなる。
《適合率:60%》
地下は、もはや侵略でも攻略でもない。
“接続”が進んでいる。
今回は、
・国家との交渉開始
・三十六階層ボス=完全生成個体
・干渉から“同期”への進化
・自宅ダンジョン進化段階Ⅲ
・共存型魔物出現
を描きました。




