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第4話 ――家族という、帰る場所

玄関の扉を開けた瞬間、家の中は静まり返っていた。


母は夜勤。

妹のひよりは、まだ塾から帰っていない時間帯だ。


「……ただいま」


誰もいないと分かっていても、恒一はそう呟いた。

靴を脱ぎ、リビングへ向かう。

テーブルの上には、母が置いていったメモと夕食用に用意された簡単な料理。


《おかえり。温めて食べてね。

 今日は遅くなるから、ひよりのことお願い》


短い文面に、胸の奥が少し痛んだ。


――言わなきゃな。


冒険者資格を取ったこと。

ダンジョンに入ったこと。

スキルのこと。


黙っているという選択肢は、最初からなかった。


恒一は電子レンジで食事を温めながら、頭の中で言葉を整理していた。

母は心配するだろう。

ひよりは、きっと目を輝かせる。


それでも、家族に隠し事をしたまま前に進むつもりはなかった。


玄関が開いたのは、それから二十分ほど後だった。


「ただいまー……あ、お兄」


制服姿のひよりが顔を出す。

肩までの黒髪を揺らしながら、少し疲れた様子で靴を脱いだ。


「おかえり。飯、もうすぐできる」

「ありがと。今日、模試しんどくてさー」


いつも通りの会話。

だが、恒一はその“いつも通り”が、少しだけ違って見えた。


食卓につき、二人で夕食を取る。

テレビでは、地方ダンジョンの新規発生ニュースが流れていた。


「また増えたね」

「……ああ」


その流れで、切り出すのが自然だと思った。


「ひより」

「ん?」


箸を止め、恒一は一度だけ深呼吸する。


「俺、今日――冒険者資格、取ってきた」


一瞬、時間が止まった。


「……え?」


ひよりの目が、大きく見開かれる。


「ちょ、ちょっと待って。資格って、ダンジョンの?」

「ああ」


次の瞬間、予想外の反応が返ってきた。


「……ずるい」


ぽつりと、そう言った。


「は?」

「だって、私も入りたかったんだもん」


怒っているというより、拗ねているような声だった。


「危ないんだぞ」

「知ってる。でも――」


ひよりは真っ直ぐに恒一を見る。


「お兄が入るなら、私も入る」


その言葉に、胸が詰まった。


「……まだ中三だろ」

「もうすぐ16歳。法律上はOKだよ」


確かに、条件は満たしている。


「それにね」


ひよりは、少しだけ声を落とした。


「お母さん、一人で大変でしょ。

 お兄も、ずっと無理してる」


何も言えなかった。


妹は、ちゃんと見ていたのだ。


「私、役に立ちたい」


その言葉は、恒一がダンジョンに入った理由と、何一つ違わなかった。


その夜、母が帰宅したのは深夜だった。


疲れた様子でリビングに入ってきた母に、恒一は改めて話をした。

資格を取ったこと。

Eランクダンジョンに入ったこと。

スキルのことは、簡単にだけ。


母は黙って聞いていた。


「……そう」


長い沈黙の後、母はそう言った。


「止めたい気持ちはあるわ」

「……」


「でも、止めても行くでしょ。あんた」


図星だった。


「だから、条件をつける」


母ははっきりと言った。


「無理はしない。

 独断で深い階層に行かない。

 何かあったら、必ず報告する」


「分かった」


即答だった。


すると、母はひよりを見る。


「あなたは――まだよ」

「えー!」


「高校に上がってから。

 それまでは、準備だけ」


ひよりは不満そうだったが、最終的には頷いた。


「……約束ね」


数日後。


地下室で、異変が起きた。


倉庫代わりに使っていた地下の一角。

コンクリート床の中央に、見覚えのない黒い円が浮かび上がっていた。


「……なに、これ」


ひよりが息を呑む。


鑑定眼を発動した瞬間、恒一の視界に情報が流れた。


《ダンジョン:未分類》

《管理者:なし》

《階層数:不明》


「……は?」


Eでも、Dでもない。

階層数、不明。


背中を冷たい汗が伝った。


「お兄……?」

「……家の中に、ダンジョンができた」


冗談では済まされない。


しかも、ここは――

私有地だ。


管理課にも、誰にも、まだ知られていない。


「……入る?」

「ダメだ。今日は――」


だが、黒い円は静かに脈動していた。


まるで、

ずっと前から、ここにあったかのように。


恒一は悟る。


これが、

自分たちの物語の“入口”なのだと。

家族にダンジョン資格を取ったことを伝えた。

妹・ひよりの価値観と決意を知り頑張ることを決意する。

ラストで自宅ダンジョンが発生し、次話から一気に物語が加速します。

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