第32話 ――創る者は、完成を許されない
自宅ダンジョン、五十一階層。
階段の前で、今度はひよりが立っていた。
「……行ってくるね」
「……ああ」
恒一は、止めなかった。
止められない。
それが、この段階だと知っている。
「無理はするな」
「無理は――しない」
少し笑って、ひよりは降りていった。
白。
だが、兄の時とは違う。
空間は――工房だった。
炉。
作業台。
素材棚。
そして――
空。
《単独試練開始》
《対象:錬金術・魔術適性》
「……分かりやすいね」
だが、ひよりは油断しない。
このダンジョンは、“優しい顔”ほど信用できない。
■ 第一試練:不足
素材棚を開く。
「……足りない」
あるのは、中途半端な素材。
鱗は欠け。
魔核は劣化。
爪は不揃い。
「……完成品を、作らせる気、ないね」
指示が、空中に浮かぶ。
《条件:機能達成》
《完成度不問》
「……なるほど」
完成度ではなく、目的。
ひよりは、即座に組み替える。
武器ではない。
防具でもない。
――補助具。
魔力効率を、底上げする装置。
完成。
起動。
《評価:可》
「……最低限、通過」
■ 第二試練:暴走
次の空間。
魔術陣が、不安定に揺れている。
「……制御、崩れてる」
放置すれば、暴発。
だが――
止める手段が、足りない。
「……力押しは、無理」
ひよりは、魔術を“削る”。
完全な停止ではない。
弱める。
暴走は、収まった。
代わりに――
魔力が、逆流。
「……っ」
吐血。
《評価:良》
《反動:魔力循環低下》
「……やっぱり、来るよね」
■ 第三試練:選ばせない選択
最後の空間。
二つの台。
片方には――
完成した刀。
もう片方には――
未完成の防具。
指示。
《一つを選択》
《破棄されなかった方は、永続強化》
「……意地悪」
ひよりは、目を伏せた。
完成した刀。
それは――
兄のため。
未完成の防具。
それは――
自分のため。
「……でも」
ひよりは、未完成を取った。
刀を、台に残す。
瞬間。
刀が、砕けた。
胸が、締め付けられる。
「……ごめんね」
だが――
防具が、光る。
《評価:最適》
■ 代償
《単独踏破:完了》
《代償付与》
「……来た」
《錬金成功率・一時低下》
《回復まで72時間》
「……創れない期間、か」
創る者にとって、最悪の代償。
地上。
恒一は、階段の前で動かなかった。
三十分。
一時間。
――帰ってこない。
「……」
拳を、握る。
だが――
階段が、光った。
ひよりが、出てきた。
顔色は、悪い。
「……おかえり」
「……ただいま」
恒一は、無言で支えた。
「……成功?」
「うん」
ひよりは、小さく笑った。
「でも…… しばらく、創れない」
「……三日か」
「うん」
沈黙。
だが――
恒一は、言った。
「それでいい」
「……え?」
「創れない時間も、必要だ」
ひよりは、少しだけ、泣きそうになった。
地下の階段。
静かに、新しい表示が浮かぶ。
《適合者二名》
《次段階解放条件:同時進行》
二人でなければ、進めない。
それが――
答えだった。
この話では、
・妹の単独Sランク試練
・創る者に課される“選択の残酷さ”
・代償の方向性の対比
・二人揃って初めて開く次段階
を描きました。




