第31話 ――一人で立つということ
自宅ダンジョン、五十一階層。
階段の前で、恒一は立ち止まった。
「……行ってくる」
「うん」
ひよりは、止めなかった。
止められないと、分かっていたから。
「帰ってきて」
「当然だ」
それだけ言って、恒一は一人、階段を降りた。
白。
だが前回とは、違う。
空間が、“狭い”。
体育館ほどだった広さが、廊下のように絞られている。
《単独試練開始》
《同行不可》
「……随分、露骨だな」
刀を抜く。
新調した刃は、静かだった。
■ 第一層:判断の遅れ
出現したのは、小型・高速個体。
群れではない。
一体。
だが――
速い。
「……速さ特化か」
恒一は、斬りにいかない。
待つ。
――判断が、半拍遅れた。
爪が、脇腹を裂く。
「……っ」
痛み。
初被弾。
だが――
致命傷ではない。
「……なるほど」
この試練は、殺しに来ていない。
だが、“間違い”は確実に刻む。
次は、待たない。
一歩前。
斬。
魔物は、消えた。
《評価:可》
■ 第二層:選択の重さ
空間が、歪む。
分岐。
三方向。
正面:魔力反応・強
左:弱・複数
右:反応なし
「……普通なら、右だな」
だが――
恒一は、立ち止まる。
「……ここは、“普通”じゃない」
左へ。
弱いが、数が多い。
削られる。
体力。
集中力。
だが――
突破。
《評価:良》
右を選んでいれば、“別の罠”があった。
そんな確信が、残った。
■ 第三層:自分の限界
空間が、一気に広がる。
草原でも、石畳でもない。
――何もない。
出現したのは、模倣体。
恒一自身。
「……俺?」
「……そうか」
模倣体は、同じ刀。
同じ動き。
「……力比べ、じゃないな」
正面から、斬り合えば負ける。
恒一は、
呼吸を変えた。
“いつもの自分”を、捨てる。
一歩、遅らせる。
模倣体が、“正解の動き”を取る。
――そこに。
不正解の、刃を差し込む。
断。
模倣体が、消えた。
《評価:優》
■ 代償
空間が、静止する。
《単独踏破:完了》
《代償付与》
「……代償?」
胸が、重くなる。
《反応速度・一時低下》
《回復まで72時間》
「……なるほど」
死なないが、無傷では帰さない。
これが――
Sランク。
地上。
階段を上がると、ひよりがいた。
「……おかえり」
「ただいま」
恒一は、少しだけ、膝をついた。
「……成功?」
「ああ」
ひよりは、すぐに分かった。
「……代償、来たね」
「三日、鈍る」
ひよりは、何も言わず、兄の肩を貸した。
「……怖かった?」
「正直――」
恒一は、笑った。
「楽しかった」
「……変な人」
だが――
その笑顔は、本物だった。
地下の階段は、何も語らない。
だが、確実に――
“認めた”。
この話では、
・兄の単独Sランク試練
・試練の本質=殺さないが甘くない
・判断ミスは必ず代償になる
・Sランクは「力」ではなく「選択」
を描きました。




