第3話 ――資格と、最初の一歩
ダンジョン管理課和歌山支部は、思っていたよりも地味な建物だった。
霞が関の本部の映像は何度もニュースで見ていたが、地方支部は三階建てのコンクリート造りで、外観は市役所の分館のようにも見える。
入り口の前には「ダンジョン冒険者資格講習会場」と書かれた看板が立てられていた。
「……思ったより普通だな」
日高 恒一は、小さくそう呟きながら建物の中へ入った。
受付で本人確認を済ませ、渡された名札を胸につける。
周囲には同年代の若者が多い。高校生から大学生、年齢層は幅広いが、全員が少し緊張した顔をしていた。
講義室に入ると、すでに半分ほど席が埋まっている。
前方にはスクリーンと演台。
壁際には、警察官と管理課職員が数名、静かに立っていた。
「――それでは、講習を開始します」
淡々とした声で始まったのは、ダンジョン管理課の職員による説明だった。
最初に語られたのは、法律だ。
ダンジョンは国家管理下にあること。
無資格侵入は重罪であること。
資格取得者は、一般人よりも重い刑事責任を負うこと。
「皆さんが得る技能、スキルは、ダンジョン外でも使用可能です」
その一言で、講義室の空気が引き締まる。
「つまり、皆さんは“力を持つ側”になります。
だからこそ、我々はモラルを重視します」
スクリーンに映し出されたのは、過去に起きた事件の概要だった。
スキルを使った強盗。
アイテムボックスを使った密輸。
魔術による暴行。
「力は便利です。
同時に、取り返しがつかない結果も生みます」
恒一は、無意識のうちに拳を握っていた。
力を持つということ。
それは、選ばれることではなく、責任を背負うことなのだ。
講義は半日かけて行われた。
ダンジョンの構造。
ランク分け。
魔物の種類と傾向。
ドロップ品の扱い。
魔核の取り扱いと売買規制。
特に印象に残ったのは、銃器の説明だった。
「銃はダンジョン内、特に一階層以上では効果が著しく低下します。
理由はすでに知られている通り、人の力から離れることで威力が減衰するためです」
一方で、弓やボーガンは例外。
使用者の力が継続的に関与するため、威力が保たれる。
「つまり――」
職員ははっきりと言った。
「ダンジョンでは、人自身が強くなることが最優先です」
その言葉は、恒一の胸に深く残った。
講義終了後、いよいよ実地研修に移る。
向かったのは、和歌山県内にあるEランクダンジョン。
階層は十。
管理課と警備が常駐し、初心者向けとして開放されている場所だ。
入り口は、地面に開いた円形の穴だった。
黒く、光を吸い込むような闇。
「……これが」
テレビで何度も見たはずなのに、
実物を前にすると、足がすくむ。
「では、順番に入ってもらいます」
恒一の番が来た。
一歩、踏み出す。
視界が歪み、足元の感覚が消える。
次の瞬間――
――白い光。
「――っ!?」
気がつくと、そこは石造りの空間だった。
湿った空気。
微かに光る苔。
遠くから、水滴の音が聞こえる。
同時に、頭の中に情報が流れ込んでくる。
《スキル取得判定中》
《技能付与中》
息を呑む。
《取得スキル:鑑定眼 Lv.MAX》
《取得技能:剣術 Lv.1》
その文字を見た瞬間、思考が止まった。
――鑑定眼、MAX?
聞いたことがある。
鑑定眼は、レベル1で名前。
2で性能。
3で隠し性能。
5でアイテム作成に必要な素材一覧。
7で武器作成に必要な素材一覧。
MAX――つまり、7以上。
「……なんだ、それ」
思わず声が漏れた。
剣術も、レベル1とはいえ戦闘系技能だ。
他の受講者たちも、それぞれスキルを得ていた。
弓術、魔術、アイテムボックス小。
だが、鑑定眼MAXという例は、職員も驚いた様子だった。
「……記録に残します」
そう言われたが、それ以上の説明はなかった。
一階層の実地戦闘は、スライムだった。
剣を握ると、体の動きが自然と理解できる。
踏み込み、振り下ろす。
剣は、確かにスライムを切り裂いた。
「……倒した」
レベルが上がる感覚。
ステータスポイントの存在。
現実が、完全にゲームへと近づいた瞬間だった。
恒一は思う。
――これが、俺の結果なのか。
家族を見てきた時間。
支えようとした日々。
それらが、この力につながったのだとしたら。
この力は、無駄にできない。
ダンジョンから出たとき、空は夕焼けに染まっていた。
冒険者資格証を手にした恒一は、静かに息を吐く。
「……帰ったら、話さないとな」
母に。
妹に。
そして――
あの地下室のことを、まだ誰も知らない。
資格講習と初ダンジョンで恒一のスキルが「鑑定眼MAX+剣術」という立ち位置が確定しました。
次話は家族への報告と、妹の意志が物語を動かします。
次は運命が大きく動く回です。




