第29話 ――五十一階層は、世界の外側
五十階層の階段を降りた瞬間、感覚が狂った。
「……音、しない」
「うん。風も、草も」
そこには――
草原はなかった。
地面は、淡く光る黒。
空は、星が“止まっている”。
「……フィールド、未分類」
「管理課の資料、ここから無いね」
五十一階層。
Aでも、Sでもない。
未定義。
最初に現れた魔物は、小型。
だが――
速い。
「……AGI、桁違い」
「来る!」
恒一は、反射で刀を振る。
――当たった。
だが。
「……硬い?」
「鱗、違う」
削れる。
だが、斬れない。
「……素材、未知系」
「無理しないで」
ひよりは、即座に判断。
「撤退」
二人は、階段へ戻った。
帰還。
管理課。
空気が、一変した。
「……五十一、ですか」
「はい」
職員ではなく、課長代理が出てくる。
「正式な扱いは――“Sランク準備層”です」
恒一は、眉を上げた。
「準備?」
「Sランクは、“人を選ぶ”」
沈黙。
「……つまり?」
「適性のない探索者は、一階で死にます」
さらに――
話は、続いた。
「……もう一件」
「?」
「和歌山の私有地ダンジョン」
恒一とひよりは、視線を合わせた。
「……反応、変わりました」
「どういう?」
「階層深度が、同期しています」
五十一。
普通のダンジョンと――同じ深さ。
「……やっぱり」
「自宅ダンジョン、“別物”だね」
夜。
自宅。
地下室。
階段の前で、二人は立ち止まった。
「……入る?」
「うん」
降りる。
自宅ダンジョン、五十一階層。
だが――
景色が違う。
草原ではない。
石でもない。
――白。
「……何も、ない」
「でも――」
“いる”。
鑑定眼を、使わずとも分かる。
「……ここ、訓練用じゃない」
「うん」
床に、何かが刻まれている。
円。
文字。
「……読める?」
「……少し」
ひよりは、息をのんだ。
「“適合者を育てるための、試練領域”」
「……誰が?」
答えは、無い。
だが――
一つだけ、確信があった。
「……俺たち、最初から」
「選ばれてた」
戻る。
地上。
兄は、静かに言った。
「……これ、外に話す?」
「ううん」
ひよりは、首を振る。
「まだ、早い」
「だな」
管理課。
自衛隊。
企業。
――狙われる。
「……準備、要るな」
「うん」
武器。
防具。
スキル。
そして――
覚悟。
地下の階段は、何も言わず、待っていた。
ここで物語は、
・51階層=Sランク準備層の提示
・通常ダンジョンと自宅ダンジョンの同期
・自宅ダンジョンの“目的”の示唆
・外部勢力に知られる直前の段階
まで進みました。




