第25話 ――草原は、距離を奪う
三十六階層。
階段を下りた瞬間、足裏の感触が変わった。
石ではない。
土でもない。
「……草」
「完全に切り替わったね」
天井は高く、空は疑似的な青。
視界は――
広い。
「嫌なフィールドだ」
「うん。遠距離が、生きる」
その予感は、正しかった。
最初に現れたのは、ゴブリン・アーチャー。
草原の起伏を使い、距離を取る。
「……射線、見えない」
「左右、二体ずつ!」
矢が、草を割って飛ぶ。
恒一は、前に出ない。
――出られない。
「……詰める前に、削られる」
「じゃあ、削らせない」
ひよりが、魔術を展開。
風を、“歪ませる”。
矢が、わずかに逸れる。
「今!」
恒一は、一直線。
草を踏み、距離を殺す。
アーチャーの目が、見開かれた瞬間――
斬。
三十七階層。
敵構成が、さらに厄介になる。
アーチャー(高所)
メイジ(詠唱補助)
牙持ち(足止め)
「……完全に、連携前提」
「管理課の想定通りだね」
足止め役が、前に出る。
爪が、地面を削る。
「……重い」
だが。
恒一は、無理に斬らない。
“捌く”。
時間を稼ぐ。
「……今」
ひよりの魔術が、アーチャーの足元を崩す。
一瞬の隙。
恒一が、走る。
刀が、役割を果たす。
三十八階層。
キングが、遠くから指示を飛ばす。
「……声、届いてる」
「広いからね」
群れが、統率されている。
「……長引く」
「だから――」
ひよりは、一歩前に出た。
「“遮断”する」
魔術陣。
音が、消える。
キングの指示が、届かなくなる。
その瞬間。
群れが、乱れた。
「今だ!」
一気に、刈る。
三十九階層。
風が、強い。
草が、波打つ。
「……射程、伸びてる」
「弓、嫌だな」
だが――
恒一は、気づいた。
「……この風」
「うん。利用できる」
斬撃に、風が乗る。
刀が、“伸びた”。
「……なるほど」
「拡張、見えた?」
「ああ」
四十階層。
草原の中央。
複合個体。
鱗
角
爪
さらに――
弓。
「……全部盛り」
「ラスボス感、あるね」
戦闘は、激しかった。
距離を取られ、削られる。
だが――
恒一は、諦めなかった。
一歩ずつ。
風を読み。
草を踏み。
「……ここだ」
踏み込み。
刀が、風を裂く。
断。
魔物が、崩れ落ちる。
帰還。
管理課。
《到達階層:40》
《フィールド適応:良好》
職員が、頷いた。
「……草原、問題なさそうですね」
「ええ」
夜。
自宅。
ひよりは、素材を並べていた。
鱗。
角。
風属性魔核。
「……次の改修、行けそう」
「刀、どうなる?」
ひよりは、笑った。
「“届く刀”」
「……なるほど」
地下の階段。
草の匂いが、濃くなっていた。
だが、もう恐れはない。
草原フィールド編、本格始動です。
ここでは、
・距離・射程・風
・群れの統率と遮断
・刀の「拡張」方向性
を描きました。




