第19話 ――深層の理屈/報酬が歪む理由
地下へ降りる階段は、
以前よりも静かだった。
音がない、というより――
音を吸われている。
「……空間、また変わってる」
「広さ、同じなのに圧が違う」
恒一とひよりは、
慎重に足を進めた。
自宅ダンジョンに潜る回数は増えた。
だが、慣れることはなかった。
出現した魔物は、
スライムとゴブリン。
見た目は、
Eランク相当。
だが。
「……ドロップ、来るよ」
「うん」
倒した直後、
床に光が残った。
魔物素材。
魔核。
――そして。
「……武器」
「また?」
短剣。
明らかにダンジョン産。
さらに次。
ゴブリンを倒す。
光。
「……ロール」
「スキルロールだね」
恒一は、眉をひそめた。
「さすがに……おかしい」
「うん。確率が“壊れてる”」
通常ダンジョンなら、
魔物武器は1/500。
スキルロールは1/1000。
だが、自宅ダンジョンでは――
どちらも1/100。
明らかに、意図的だ。
さらに進む。
階層表示が、
途中から消えた。
「……階層、認識させない?」
「数えさせない、かも」
魔物は弱い。
だが、無限に湧く。
経験値は入る。
レベルも上がる。
「……成長速度、異常」
「“効率”を、最大化してる」
ひよりの言葉に、
恒一は頷いた。
これは自然発生ではない。
設計されている。
奥。
再び、円形の広間。
以前の台座より、
一回り大きい。
《内部代理:進行確認》
光が浮かぶ。
《質問を受理可能》
「……聞ける、ってことか」
「じゃあ、聞こう」
恒一は、一歩前へ出た。
「取得率が異常なのは、なぜだ」
間を置かず、
答えが返る。
《外部ダンジョンは、資源分配型》
《当ダンジョンは、育成特化型》
「……育成」
《探索者の成長を、
最短経路で促進》
「だから、報酬を歪めてる?」
《肯定》
はっきりしすぎていて、
逆に言葉が出なかった。
「……でも、それは」
ひよりが続ける。
「私たちを、
“普通”から引き離す」
光は、少し揺れた。
《認識済み》
《だが、探索者は既に
外部基準を逸脱》
「Dランク解放」
「短期間での適性上昇」
《戻る余地は、限定的》
つまり――
もう選別は終わっている。
「……選ばれた?」
《表現は不適切》
《“適合した”》
恒一は、
歯を食いしばった。
「俺たちを、
どこへ行かせたい」
沈黙。
そして。
《外部世界における、
均衡維持》
「……は?」
「均衡?」
《ダンジョンは、増え続ける》
《管理組織のみでは、
対応が遅延》
《探索者が、
探索者を導く必要がある》
ひよりが、
静かに呟いた。
「……次の世代の、基準」
《近似》
光が、少し弱まる。
《内部代理への干渉は、
これ以上行わない》
《選択は、探索者に委ねる》
台座の光が消えた。
帰路。
二人は、
無言で歩いた。
やがて、
恒一が口を開く。
「……俺は」
「うん」
「普通で、いたかった」
「私も」
だが。
「もう、無理だね」
「うん」
Dランクに行けるようになったことは、
間違いなく、うれしい。
だがそれは同時に、
普通の枠から外れた証明でもあった。
地上へ戻る。
夕暮れ。
「これから、どうする?」
「……決めた」
恒一は、
地下を振り返った。
「力を得る」
「隠さず、暴走せず」
「自分で、線を引く」
ひよりは、
小さく笑った。
「それ、私も賛成」
二人は、
同じ方向を見た。
この家の地下にあるのは、
試練か、祝福か。
それは、
使い方次第だ。
自宅ダンジョンの本質が
「育成特化・選別型」のようです。
外部ダンジョン=資源と管理
自宅ダンジョン=成長と選択
兄妹たちは
「力を与えられた側」から
「どう使うかを決める側」へ移ります。




