第17話 ――選択/管理課とダンジョンの狭間で
翌朝。
恒一は、学校を休んだ。
理由は「体調不良」。
だが実際は、判断に時間が必要だった。
管理課からの再連絡は、今日か、遅くとも明日。
一方で――
胸の奥に残る、あの感覚。
《選択猶予、短期》
急かしている。
「整理しよう」
ダイニングテーブルに、ノートと端末を広げる。
「管理課に協力した場合」
ひよりが言う。
「メリット:公的保護、装備補助、情報」
「デメリット:行動制限、監視、自宅ダンジョンの秘匿不可」
ほぼ、詰みだ。
「じゃあ、完全拒否は?」
「目をつけられ続ける。最悪、強制調査」
どちらも、楽な道じゃない。
「……第三の道」
「あるとしたら、ダンジョン側」
恒一は、ノートに線を引いた。
昼。
二人は、再び地下へ向かった。
「今日は、奥まで行く」
「うん」
躊躇はなかった。
自宅ダンジョン内部は、静まり返っていた。
敵の気配が、意図的に抑えられている。
「……歓迎ムード?」
「たぶん」
中層を越え、例の半開きの通路へ。
今回は――
完全に、開いていた。
通路の先は、今までとは明らかに違った。
戦闘エリアではない。
円形の広間。
中央に、台座。
そして、その上に浮かぶ光。
《管理権限:限定提示》
《対象:探索者 日高恒一》
「……名前、完全把握」
「隠す気なくなったね」
光が、言葉を紡ぐ。
《外部管理組織、接触確認》
《当ダンジョンは、探索者の生存と成長を優先》
恒一は、唾を飲んだ。
「……俺たちを、使ってる?」
《結果的に、相互利益》
否定しない。
《選択肢を提示する》
光が、二つに分かれた。
一つ目。
《提案A:外部管理組織への合流》
《当ダンジョンは、観測のみへ移行》
「……要するに、手を引く」
「安全だけど、成長は止まる」
二つ目。
《提案B:非公開協力関係》
《探索者を、当ダンジョンの“内部代理”として登録》
ひよりが息をのむ。
「内部代理……?」
《外部への直接干渉は行わない》
《探索者が、外部世界で行動する》
――尖兵。
だが、自由度は高い。
「管理課には?」
《秘匿を支援》
「代償は?」
《探索継続》
《選択権は、保持》
完全な従属ではない。
沈黙。
恒一は、ひよりを見た。
「どう思う?」
「……怖い」
「うん」
正直だ。
「でも」
ひよりは、続けた。
「管理課の“管理”より、このダンジョンの方が、ちゃんと私たちを見てる」
恒一は、目を閉じた。
考える。
自分は、守られるだけでいいのか。
それとも――
選ぶ側に立つのか。
「提案Bを選ぶ」
声に出した瞬間、空間が、静かに応えた。
《選択、受理》
《内部代理:仮登録》
光が、恒一の胸へ沈む。
痛みはない。
だが――
何かが繋がった感覚。
《段階:観測から育成へ移行》
「……育成」
「言われると、ちょっと重いね」
だが、拒否感はなかった。
帰還。
地上は、いつもと変わらない。
だが――
世界の見え方が、少し違う。
「これで、管理課は?」
「しばらくは、様子見だろう」
恒一の端末が、震えた。
管理課からの通知。
《再面談:延期》
「……効いてる」
「ダンジョン、仕事早い」
完全な安全ではない。
だが、主導権は、まだ手の中だ。
夜。
恒一は、ノートの最後に書き込んだ。
・自宅ダンジョン
・内部代理(仮)
・管理課:延期中
・次の目標:Dランク安定化
「……忙しくなるな」
「うん。でも」
ひよりは、少し笑った。
「やっと、自分で選んだ感じがする」
恒一も、同意した。
この選択が、正しいかは分からない。
だが――
逃げなかった。
それだけは、確かだった。
物語の大きな分岐点です。
管理課=国家的管理
自宅ダンジョン=非公開・育成型存在
兄妹たちは「守られる側」から
「選び、関与する側」へ移行しました。




