第16話 ――学校/管理課からの接触
その違和感は、朝からあった。
校門をくぐった瞬間、恒一は、視線の質が違うことに気づいた。
教師でも、生徒でもない。
もっと、無機質な――観測する目。
「……来たな」
靴箱の前で、背広姿の男女が二人、立っていた。
胸元のバッジ。
見覚えがある。
ダンジョン管理課。
「日高恒一くんだね」
授業が始まる前、呼び止められた。
「少し、時間をもらえるかな」
「……学校外ですか」
「校内で構わない。任意だ」
任意。
だが、断れる雰囲気じゃない。
恒一は、一度だけ深呼吸し、頷いた。
応接室。
教師立ち会いのもと、管理課職員が口を開く。
「Dランク昇格、おめでとう」
「ありがとうございます」
形式的な祝辞。
本題は、別だ。
「最近、探索ログが安定している」
「無理はしていません」
「それが問題なんだ」
職員は、端末を操作した。
「君の討伐効率、装備更新速度、撤退判断。
E〜Dランク帯としては、完成度が高すぎる」
――来た。
「特殊な指導者でも?」
「いえ。独学です」
嘘ではない。
「ふむ……」
職員は、少しだけ言葉を選んだ。
「調査協力者として、登録する意思はあるかな?」
恒一の背中に、冷たい汗が流れる。
調査協力。
=深部探索。
=管理課の監視下。
自宅ダンジョンを抱えた状態で、最も避けたい立場だ。
「今は、考えさせてください」
「もちろん。任意だ」
だが、視線は逃がしてくれない。
昼休み。
噂は、あっという間に広がった。
「日高、管理課に呼ばれたって?」
「調査協力くるんじゃね?」
好奇と、羨望と、距離。
Dランクになった時よりも、さらに一段、線が引かれた。
「……静かにしたいんだけどな」
それは、もう許されない段階に来ている。
放課後。
恒一は、まっすぐ帰宅した。
「来た?」
リビングにいたひよりが、即座に聞く。
「ああ。管理課」
「……やっぱり」
恒一は、応接室でのやり取りを説明した。
「調査協力、ね」
「断った。今は」
ひよりは、腕を組んで考え込む。
「自宅ダンジョンの存在、まだ掴まれてない?」
「多分。でも――」
時間の問題。
「管理者が言ってた“外部流出”」
「管理課の動き、織り込み済みだね」
ダンジョンは、国の動きすら想定している。
夜。
二人は、地下への扉の前に立っていた。
「今日、潜る?」
「……行く」
理由は、明確だった。
管理課が動き出した以上、主導権を握らなければならない。
自宅ダンジョン内部。
空間が、はっきりと反応した。
《探索者、再来》
《行動履歴、更新》
「……向こうも、把握してる」
「管理課の接触も、だね」
戦闘は、明らかに“調整”されていた。
魔物の配置。
出現タイミング。
ドロップ率。
すべてが、以前より洗練されている。
そして――
「まただ」
スキルロールが落ちた。
《スキルロール:危機感知(中)》
「……これ」
「完全に、今の状況向け」
偶然じゃない。
中層手前。
例の分岐路に近づくと、空間が、わずかに震えた。
前回は閉じていた通路。
今回は――
半分だけ、開いている。
「……条件、更新された」
「管理課に接触したから?」
恒一は、唾を飲み込む。
「“公的に認識された冒険者”」
「それが、鍵」
ダンジョンは、管理課を“前提条件”に組み込んでいる。
通路の先には、新しい石碑があった。
《観測段階、次へ》
《選択肢、提示準備中》
「……選択」
「いよいよ、だね」
今日は、進まない。
二人は、迷わず撤退を選んだ。
地上。
扉を閉めると、ひよりが静かに言った。
「お兄」
「ん?」
「もう、逃げられないね」
恒一は、否定しなかった。
「でも、選べる」
「うん」
管理課か。
ダンジョンか。
それとも、第三の道か。
「……主導権は、渡さない」
「私も」
二人は、拳を軽く合わせた。
夜更け。
恒一の端末に、管理課からの通知が届く。
《調査協力者候補:再連絡予定》
ほぼ同時に、胸の奥に、あの感覚。
《選択猶予、短期》
管理課と、ダンジョン。
二つの“管理者”が、同時に動き始めた。
ついに管理課が物語の表舞台に登場してきました。
同時に、自宅ダンジョンが
「国家の動きすら想定した存在」であることを知ってしまいました。




