第15話 ――自宅ダンジョン探索(7)/声なき管理者
地下への扉を開けると、
空気が、静かすぎた。
「……音、吸われてる」
「うん。反響しない」
恒一は、一歩踏み出した瞬間に確信する。
――ここは、前回までとは違う。
敵意がない。
だが、完全に見られている。
今回の探索は、目的を一つに絞った。
・深度の再確認
・報酬変動の継続性
・“管理者”の痕跡探索
「無理はしない」
「異変があったら即撤退」
二人は、確認し合って進む。
三体目のスライムを倒した直後、
恒一は立ち止まった。
「……まただ」
床に落ちているのは、
魔物武器。
「討伐数、まだ二十いってないよ?」
「完全に固定だな。1/100」
スキルロールも、
ほぼ同じペースで出ている。
「偶然じゃない」
「うん。制御されてる」
自宅ダンジョンは、
“成長効率”そのものを設計している。
中層を越えた地点。
壁の質感が変わった。
石ではない。
金属でもない。
「……これ」
「人工物だね」
柱の表面には、
極めて細かい刻印が走っている。
鑑定眼が反応するが――
《解析中断》
《権限不足》
「また、権限」
「ランクじゃなくて、何か別の条件だ」
レベル。
スキル。
それとも――選別。
戦闘中、
初めての異変が起きた。
ゴブリンを斬り伏せた瞬間、
恒一の頭に、言葉にならない感覚が流れ込む。
音ではない。
映像でもない。
だが、意味だけが分かる。
《適応、確認》
《行動傾向、安定》
「……っ!」
思わず、剣を落としそうになる。
「お兄!?」
「今……何か、来た」
ひよりも、
わずかに顔を歪めていた。
「私も。声じゃないけど……」
「……評価、されたな」
管理者。
それは、
姿を持たない“判定機構”のようだった。
奥へ進むと、
広間に出た。
中央には、
前回と同じ石碑。
だが、刻まれた文字が増えている。
《挑戦者、確認》
《破壊行動なし》
《外部流出、兆候なし》
「……監視ログ」
「完全に、私たち限定だね」
恒一は、
背中に冷たい汗を感じた。
ここは、
誰でも入れる場所じゃない。
さらに奥。
通路が、二つに分かれている。
だが――
片方は、明らかに“閉じている”。
「……あっちは、行かせない気だ」
「条件未達成」
ひよりは、
冷静に分析する。
「多分、Dランク相当じゃ足りない」
「もしくは……」
恒一は、続けた。
「管理課に登録された探索履歴」
「……つまり?」
「公的に、深く潜った実績」
自宅ダンジョンは、
“隠れて強くなる”ことを許していない。
撤退を決めた、その時。
再び、感覚が流れ込む。
《報酬、継続》
《次段階、準備中》
ひよりが、息を呑んだ。
「……喋った」
「いや。通知、だ」
声ではない。
だが、確実に意思だった。
地上へ戻る。
扉を閉めた瞬間、
二人は、同時に深く息を吐いた。
「……完全に、作られたダンジョンだね」
「ああ」
それも、
“悪意のない兵器”。
「私たちを、どうしたいんだろう」
「多分……」
恒一は、静かに言った。
「来るべき何かに、備えさせたい」
その夜。
恒一は、管理課の公開資料を洗った。
・霞が関ダンジョン発生
・同時期に消えた研究プロジェクト
・魔核エネルギーの初期理論
点が、
少しずつ繋がり始めている。
「……国が、関わってる」
だが、
今は確証がない。
ひよりが、ぽつりと言った。
「ねえ、お兄」
「ん?」
「私たち、もう“選ばれた側”だよね」
否定できない。
「……でも」
恒一は、はっきり言った。
「選ばれたからって、
従うとは限らない」
ひよりは、
少し笑った。
「うん。それでいい」
地下への扉は、
静かにそこにある。
まだ、開かれてはいない。
だが――
向こうは、確実に待っている。
「管理者=人格」ではなく
評価・制御・育成を行うシステムの雰囲気がします。
まだ対話はなく、
“ログと通知”の段階です。




