第13話 ――学校/Dランク資格者という立場
月曜の朝。
校門をくぐった瞬間、
恒一は、いくつもの視線を感じた。
露骨ではない。
だが、確実に――向けられている。
「……やっぱり、分かる人には分かるか」
Dランクに上がったことは、
公表していない。
だが、管理課の資格更新は
冒険者同士のネットワークではすぐに広まる。
そして今の時代、
“冒険者である”ことは、
一種のステータスでもあった。
教室。
「おはよ、日高」
「おはよう」
返事を返しながら、
恒一は席に着く。
すると、前の席の男子が
小声で話しかけてきた。
「なあ……D、行けるようになったって本当?」
「……どこで聞いた」
「管理課の更新ログ。知り合いがさ」
やはり、隠し通せない。
「まあ、条件は満たした」
「すげぇ……」
その声には、
尊敬と、わずかな距離が混じっていた。
Eランクまでは、
「挑戦者」だった。
Dランクからは、
**「先に行った人間」**になる。
休み時間。
いつの間にか、
恒一の机の周りに人が集まっていた。
「Dって、やっぱ違う?」
「魔物、強い?」
「危なくない?」
質問は多いが、
核心には触れてこない。
恒一は、少し考えてから答えた。
「違うのは、強さより“考える量”かな」
「考える量?」
「連携、地形、撤退判断。
力押しじゃ通らない」
何人かが、息を呑んだ。
「……俺、まだEの五階で詰まってる」
「無理しない方がいい」
それは、上から目線ではない。
実感から出た言葉だった。
だが――
その言葉が、相手を傷つけることもある。
「そっか……」
男子は、少し視線を落とした。
昼休み。
資格者グループの空気が、
微妙に変わっていた。
Eランク中心の輪と、
その外側。
恒一は、その境界に立っている。
「Dってさ、管理課から目つけられるって本当?」
「調査協力、来るらしいぞ」
ひそひそとした声。
――来るだろうな。
だが、
来てほしくない理由がある。
自宅ダンジョン。
あれを知られれば、
“調査”で済まない。
午後の授業。
教師が、進路の話を始めた。
「冒険者を本業にする者も増えている」
「だが、全員が成功するわけじゃない」
恒一は、ペンを止めた。
冒険者。
本業。
自分は――
まだ、そこまで考えていない。
ただ、
「放っておけないもの」が
足元にあるだけだ。
放課後。
昇降口で、
一人の女子生徒に呼び止められた。
「日高くん」
同じクラスだが、
あまり話したことはない。
「Dランクなんだって?」
「……そうらしい」
「私、来月資格取る予定なの」
「そうか」
彼女は、少し迷ってから言った。
「Eランクって……怖い?」
その質問は、
驚くほど真っ直ぐだった。
恒一は、少し考えて答える。
「怖いよ」
「……」
「でも、怖いって思えるなら大丈夫だ」
彼女は、ほっとしたように笑った。
「ありがとう」
去っていく背中を見ながら、
恒一は思う。
――これは、責任だ。
力を持った者が、
どう振る舞うか。
それもまた、
ダンジョンが課す“試験”なのかもしれない。
帰宅。
ひよりが、ノートを閉じて顔を上げた。
「学校、どうだった?」
「Dランク扱いされた」
「ふふ」
「笑いごとじゃない」
恒一は、真剣な顔で言う。
「目立つのは、まずい」
「うん。でも、隠し続けるのも限界だね」
二人の視線が、
自然と地下への扉に向かう。
「管理課、近いうち動くと思う」
「……その前に」
ひよりは、静かに言った。
「もう一段、強くなろう」
「ああ」
Dランクに上がれたことは、
確かに嬉しい。
だがそれは、
スタートラインが一段上がっただけだ。
本当の問題は、
まだ何も解決していない。
夜。
恒一は、ステータス画面を開いた。
STR、AGI、VIT。
バランスは悪くない。
だが――
足りない。
「判断力と、経験」
数値に出ないものが、
これからの鍵になる。
「……明日、潜ろう」
「うん。自宅の方」
二人は、短く言葉を交わした。
学校という日常は、
少しずつ遠ざかっていく。
だが、
完全には切り離せない。
その狭間で、
恒一は歩き続ける。
Dランク冒険者として。
そして、
異常なダンジョンの当事者として。
Dランク資格者になったことで生じる
「周囲との距離」と「無言の責任」を感じていました。
力を持つことは、
同時に“見られる立場になる”ことでもあります。




