第12話 ――Dランク解放/喜びと、その先
端末に表示された文字を、恒一は何度も見返した。
《冒険者ランク更新》
《E → D》
《Dランクダンジョンへの入場資格を付与》
「……上がったな」
「うん。Dランクだね、お兄」
ひよりの声には、隠しきれない喜びが混じっていた。
Eランク十階層を複数回、
無事故で踏破。
魔物討伐数、行動ログ、
すべてが基準を満たした結果だった。
「正直、嬉しい」
「私も」
それは慢心ではない。
積み上げた結果への素直な達成感だった。
だが同時に、
胸の奥が静かに引き締まる。
Dランク。
二十階層。
「Eとは、別物だ」
「うん。魔物の知能も、連携も違う」
管理課の説明は、
嫌というほど聞いてきた。
――それでも。
「行こう」
「うん。無理はしない」
二人は、顔を見合わせて頷いた。
最初のDランクダンジョンは、
大阪湾岸部に発生したものだった。
入場前の空気が、すでに違う。
「静かだね」
「人が少ない」
Eランクでは見かけなかった、
中堅冒険者たちの姿。
装備も、目つきも、
明らかに“慣れている”。
一階層目。
「……重い」
恒一は、床を踏みしめた瞬間に分かった。
空気が、圧を持っている。
出現したのは、
ゴブリン――だが、装備付き。
盾を構え、
互いの死角をカバーしている。
「連携、取ってる」
「左右に展開するよ!」
戦闘は、明らかにEランクとは違った。
だが――
恒一の剣は、確実に急所を捉える。
鑑定眼で弱点を見抜き、
AGIを活かして位置を取る。
「……倒せる」
「うん。ちゃんと“戦えてる”」
二階層、三階層。
消耗はある。
だが致命的ではない。
「今日は五階層まで」
「賛成」
撤退判断も、
自然にできるようになっていた。
帰還後。
二人は、素直に喜んだ。
「Dランク、行けるね」
「ああ。でも――」
恒一は、言葉を選んだ。
「これでも、家のダンジョンより楽だ」
「……やっぱり」
Eランクで確信し、
Dランクで確定した。
自宅ダンジョンは、
明確にランク外だ。
その夜。
地下への扉の前に立つ。
「行く?」
「……行こう」
今日は、慎重に。
Dランクを経験した“今の自分たち”で。
自宅ダンジョン内部。
空気が、張りつめている。
「変わってない」
「でも、見え方が違う」
以前は“怖い”だけだった空間が、
今は“読めない”に変わっている。
六階層相当と思われる地点。
「……壁、歪んでる」
「擬態じゃない」
恒一が触れると、
壁が波打ち、奥行きが現れた。
「隠し通路」
「しかも、自然じゃない」
進んだ先は、
明らかに階層構造を無視した空間だった。
天井が高く、
柱が規則正しく並ぶ。
「……部屋?」
「試験場、かな」
中央に、石碑が立っていた。
鑑定眼が、強制的に反応する。
《解析不能》
《警告:権限不足》
「権限?」
「……ランク?」
Dでも、足りない。
その事実が、
静かに突きつけられた。
「今日は、ここまで」
「うん」
二人は、即座に撤退を選んだ。
喜びが、
慢心に変わる前に。
地上。
扉を閉めた後、
しばらく無言が続いた。
「Dランク、嬉しかった」
「うん」
「でも」
「うん」
言葉は、不要だった。
世界は、
自分たちが思っているより深い。
だが――
「進める」
「うん。一歩ずつ」
喜びを糧に、
恐怖を戒めに。
兄妹は、
静かに前を向いた。
Dランク解放の達成感と、
それでも届かない“自宅ダンジョンの異質さ”を目立ちました。
喜びと警戒が同時に存在する段階に、
物語は入りつつあります。




