第11話 ――週末のEランクダンジョン/安全と現実
週末。
恒一とひよりは、久しぶりに自宅以外のダンジョンへ向かっていた。
場所は大阪寄りに発生した、管理課登録済みのEランクダンジョン。
「今日は“普通”を確認する日だ」
「うん。比較、大事」
ひよりも同行しているが、
今回はあくまで低階層の検証が目的だった。
自宅ダンジョンが異常なのか。
それとも、自分たちの感覚がズレているのか。
それを確かめるための探索。
受付で資格証を提示し、
簡易ブリーフィングを受ける。
「当ダンジョンはEランク、十階層構造」
「魔物はスライム、ゴブリンが中心です」
「危険行動は禁止、撤退判断は自己責任で」
あまりにも、整っている。
恒一とひよりは、少しだけ肩の力が抜いた。
ダンジョン内部。
「……明るい」
「床、普通に床だね」
自宅ダンジョンと違い、
罠の気配がほぼない。
一階層目で遭遇したスライムも、
動きが遅く、単調だった。
「いくよ」
恒一の剣が閃く。
一撃。
「……弱い」
「うん。これがEランク」
拍子抜けするほど、
戦闘は安全だった。
ゴブリンも、
集団行動すら取らない。
索敵も不要。
鑑定眼も、ほぼ使わない。
「これなら、初心者が行けるのも分かる」
「自宅のとは、別物だね」
十階層まで、危なげなく踏破。
ボス部屋のゴブリンリーダーも、
連携すら取れずに沈んだ。
《Eランクダンジョン・クリア》
表示を見て、恒一は小さく息を吐いた。
帰還後。
戦利品は、管理課併設の換金所へ。
素材、魔核、
そして数本のダンジョン産武器。
鑑定を終えた職員が、端末を操作する。
「合計で……こちらになります」
提示された金額に、
ひよりが目を丸くした。
「思ったより、出るね」
「これで“普通”か」
Eランクでも、
一日で数万円相当。
確かに、
学生が惹かれる理由はある。
「次回以降はDランクダンジョンに入ることができます」
「ただし――」
職員が続ける。
「深く潜るほど、事故も増えます」
「焦らず、段階的に進んでください」
恒一は、素直に頷いた。
この人は、
ちゃんと“現実”を見ている。
帰り道。
「どうだった?」
「……確認できた」
恒一は、はっきり言った。
「自宅ダンジョンは、異常」
「やっぱり」
Eランクの安全性。
構造の単純さ。
成長曲線。
すべてが、
自宅ダンジョンと噛み合わない。
「ここは“狩り場”」
「うん」
ひよりも同意する。
「でも、家のは――」
「“試験場”か、“隔離施設”」
言葉にして、寒気がした。
帰宅後。
換金したお金は、
家計と装備更新用に分けた。
「ポーション補充できるね」
「ああ。無駄遣いはしない」
安全なダンジョン。
安全な稼ぎ。
それを知った今でも、
恒一の意識は地下に向いている。
「……普通を知ったからこそ」
「異常が、はっきりするね」
二人は、地下への扉を見下ろした。
まだ、開けない。
だが、
いずれ必ず潜る。
そう確信していた。
今回は「普通のEランクダンジョン」を比較することで、
自宅ダンジョンの異常性を際立ちました。
安全・管理・換金――
これが社会に組み込まれたダンジョンの姿です。




