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第1話 ――ダンジョンが「現実」になった日

三年前、霞が関にダンジョンが現れた。

それは日本にとって、いや世界にとって「境界線」だったのだと思う。


地下からせり上がるように出現した黒い穴。

周囲を封鎖する警察、続いて展開された自衛隊。

テレビの中で専門家たちは「未知の空間」「異常現象」「自然災害の一種」と言葉を選びながら説明していた。


その日の夕食時、我が家のテレビも同じ映像を流していた。


「……現実感ないなぁ」


そう言ったのは、当時中学一年生だった俺(日高 恒一)――和歌山の片隅に住む、ごく普通の少年だ。

向かいに座る母は、看護師らしく冷静だった。


「でもね、怪我人が出るのは確実よ。新しい病棟の話も出てるし」


父はいなかった。

海外勤務が多かった父は、その後離婚し、海外で再婚した。

家には、母と、兄妹――高校一年の兄と中学三年のひより、そして俺だけが残った。


父の趣味で作られた地下室付きの二階建ての家。

地下室は、倉庫のような、少し湿った空間だった。

その時はまだ、あの地下が“世界とつながる穴”になるなんて、誰も思っていなかった。


霞が関ダンジョンは、日本初のダンジョンだった。


当初、内部調査を行ったのは警察と自衛隊。

スライム、ゴブリン、オーク――

RPGで見たことのある魔物が、銃火器をものともせずに迫る映像は、何度もニュースで流れた。


銃は効かない。

正確には、人の手を離れた瞬間、力を失う。


この法則が発見されたことで、ダンジョン攻略は一気に難航した。

結果、自衛隊は部隊の再編と強化へと動き、

ダンジョンは「管理する対象」として切り分けられる。


そうして生まれたのが、ダンジョン管理課だった。


ダンジョンは等級で分けられた。

EからSまで。

階層数と魔物の強さで分類され、

霞が関ダンジョンは、最初はEランクと判断された。


しかし――

「三十階を越えても、終わりが見えない」


その一報が流れた時、日本中がざわついた。


それから三年。


ダンジョンは増え続けている。

都市部だけでなく、地方にも、山にも、海辺にも。

人々は慣れ、法は整備され、

ダンジョンは「危険だが、管理された場所」になった。


高校二年になった俺のクラスでも、変化は目に見えていた。


「俺、来週資格取るんだ」


昼休み、クラスメイトの一人がそう言った。

ダンジョン冒険者資格。

16歳以上が受講できる講習を受け、試験を突破した者だけが、正式にダンジョンへ入れる。


「マジで? 怖くね?」

「最初はEランクだし。警備もいるし」


笑いながら話す姿は、三年前の不安な顔とは違っていた。


講習ではモラルが徹底的に教えられるという。

理由は単純だ。

ダンジョンで得た技能やスキルは、外でも使える。


だからこそ、刑事罰は重い。

だからこそ、資格が必要なのだ。


「スキル、何もらえると思う?」

「剣術かなー」

「弓もいいよな。銃より効くらしいし」


俺は少し離れた席で、その会話を聞いていた。


正直、興味はあった。

レベル、ステータス、スキル。

現実がゲームのようになった世界で、それを持たないままでいるのは、不安でもあった。


だが、踏み出す勇気がなかった。


家では、母が一人で働いている。

俺は高校一年、妹のひよりは受験を控えた中学三年。

俺が無茶をするわけにはいかない。


そう思っていた。


数日後、同級生の資格取得を見送る日が来た。


ダンジョン管理課の地方支部。

建物の前で、クラスメイトたちが集まっていた。


「行ってくるわ」

「死ぬなよー」

「縁起でもねぇ!」


冗談を飛ばしながら、彼は中へ入っていった。


ガラス越しに見える講義室。

真剣な表情で説明を聞く同級生たち。

そこに、かつての「非日常」はなかった。


俺は思う。


ダンジョンは、もう特別な存在じゃない。

生き方の選択肢の一つになっただけだ。


それでも――

心のどこかで、ざわつく感覚が消えなかった。


「俺は……どうするんだろうな」


答えは、まだ出ない。


この時の俺は知らなかった。

数週間後、自宅の地下室が、

どこまでも続く深淵への入口になることを。

ダンジョンが「異常」から「制度」に変わる過程と、日高 恒一はまだダンジョンに踏み出せずにいた。

次話では学校でのスキル談義を通して、恒一が決意を固めていきます。

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