乙女ゲームの攻略最難関公爵様の婚約者です。
繊細なデザインのレースがふわふわと風に揺れる。触れると折れそうだ、と言われた華奢な身体を包むのは予約はいっつもいっぱいで5年待ちだと言われている有名な裁縫師が丹精込めて作ってくださった最高に可愛いドレス。くるりと一回転をすれば、周りからほぅ、と思わず漏れたかのようなため息が複数聞こえる。そうよ、そうよね。わたくしの黄金に輝く金の髪王族の証。ふわふわと揺らしながら長い長い廊下を歩いた先にある大きな扉の前で止まれば、両端に立っていた騎士が扉を開けてくれる。侍女に椅子を引いてもらい座れば、わたくしを待っていた両親と弟と視線が合う。
「お待たせいたしました」
「よい。では、いただこうか」
音を立てずにカトラリーを動かしていれば、宰相に本日の予定を聞いていた父がふとこちらを見た。
「そういえば今日はお前たち2人とも婚約者との交流の日だったか」
とろりと輝く蜂蜜がたっぷりとかけられたふわふわのパンケーキに舌鼓を打っていれば、そう問いかけられこくりと飲み込んでから父の方へ視線を向け頷く。そうして自身の婚約者ーアルハルト様の顔を思い浮かべれば少しだけ大きくなり早くなる心臓の音に首を傾げる。起きた時は何も無かったのに。もしかして、体調が少し悪いのかもしれない。だけれど月に1回のアルハルト様との交流日を中止にするわけにも行かない。お茶を飲む場所を庭園が見える場所にしていたが屋内に変更してなにか羽織って身体を冷やさないように気をつければ大丈夫かしら、と考えていれば、前に座っていた弟が不機嫌なことに気がついてぱちりと目を瞬かせる。
「いいなぁ姉上。義兄上に僕もお会いしたい」
剣の腕前が上達したことも見て欲しいし、この前学園で実施された試験の点数が良かったのも見て欲しい。あれもこれもと指折りながらそんなことを言う弟に少し笑う。
「本当に貴方はアルハルト様が好きね」
「うん!僕の憧れ」
まるで恋する乙女のように頬を赤らめて笑う我が弟に呆れてしまう。もちろんアルハルト様と仲がいいのはとても喜ばしいことなのだけれどあまりにも弟がアルハルト様に懐きすぎてこれはこれでどうなのかしら、と困ってしまう。弟の性別が女の子だったら今すぐにでも婚約者の変更を願い出そうなほどに懐いている。
「交流会のあと時間があるか聞いてみるわね」
「本当!?絶対だよ!」
その言葉に頷けば、王族とは思えないほどに感情豊かに喜びを表現するのを見つめて、は、と気づいて傍に控えていた侍女に視線を向ける。
「交流会の場所を屋内に変更してちょうだい。そうね、温室がいいわ」
「かしこまりました」
すぐに対応すべく動き出した侍女によろしくね、と言い弟の方へ視線を戻せば首を傾げていてこちらも思わず首を傾げてしまう。
「なに?体調悪いの?」
「いいえ。少し脈が早いかしら、というぐらいよ。風邪ではないわ。身体を冷やさないようにしようかしらと思っただけ」
「ふーん。あ、じゃあ僕の交流会の場所を姉上が準備していたそこにする。いつものガゼボ?」
「え、えぇ。というか今日初めての婚約者との顔合わせだというのに場所決めもしていなかったの?」
なんて行き当たりばったりなのかしら、と驚いていれば流石に駄目だと自身でも思ったのかへらりと無言で笑顔を返されてため息を吐く。そうして最後の一口を口に運んで紅茶を飲み一息ついてから立ち上がる。まだ食べている弟に先に帰ることを告げて食堂を出れば肩が出るデザインのドレスのためひやりとした風が肩を撫でてふるりと身体を震わせる。屋内に場所を変更して正解だった。
少し急ぎめに部屋に戻り侍女たちによってメイクを施されていき、仕上げにアルハルト様から贈られたドレスを纏えば完成である。そうして時間を確認し、あと少しで約束の時刻が迫っていることを知り慌てて部屋を出る。走る、なんて淑女がすることではないためそんなことはしないができる限り急ぐ。
「お久しぶりです」
部屋の扉を開けようとドアノブに手を伸ばした瞬間、後ろから声が聞こえて振り返り、ふり、かえり。
「……ウッ、」
ふらり、と身体を揺らす。頭が割れるように痛い。ゴンゴンと頭の中で鳴っている。胃からなにかが込み上げて来そうになるのをなんとか気合いで留める。浅く早く呼吸を繰り返し、しばらく続けていればようやく周りの音が聞こえてくるようになった。アルハルト様も侍女たちも慌てており、医者を!姫様!大丈夫ですか!なんて言葉が飛び交っている。いつの間にか握りしめていたアルハルト様の大きい手を見つめて、そうしてゆっくりと見上げれば心配そうにこちらを見つめる藍色の瞳とぶつかる。そうしてわたくしは、わたくし、は。
「……?」
次に目を開ければ、見慣れた天井で。どうしてここに、と考えて、そうして慌てて起き上がれば、横から姫様!と呼ぶ声が聞こえた。
「姫様!体調は大丈夫でしょうか」
ぎゅ、と眉間に皺を寄せたアルハルト様が、そこにはいて。
アルハルト・ガーディル。このアルディラ国第一王女であるわたくしリリス・アルディラの婚約者であり、【ここから愛を育もう】略して【ここ愛】の攻略対象者である。孤児院からヒロ伯爵によって引き取られた主人公が王宮で働くことになり、そうして王宮の片隅で攻略対象たちと愛を密かに育む、というストーリーである。アルハルト様はシークレット攻略対象者。最難関の攻略対象であり、あまりにも多すぎる分岐に心を折るプレーヤーが次々と現れた。それでもアルハルト様に一目惚れした前世のわたくしは何度も何度も何度も何度も分岐を辿り、ようやく、といったところから記憶が無くなっている。そんなアルハルト様の婚約者であるわたくしは、じゃあ悪役令嬢なのかと問われると違う、と首を振る。ゲームでも名前があるモブという扱いである。
では【ここ愛】の悪役令嬢は誰なのか。
それは、我が弟アディンの婚約者であるスフィラ様である。スフィラ様の家は公爵家で、スフィラ様が生まれた際に母は亡くなっており現在は後妻が公爵家を取り仕切っており、暴力は振るわれてはいないものの居ないものとして扱われて肩身の狭い思いしている。そんなスフィア様に降って湧いた王族との縁談。結婚できれば地獄である家から解放される、と考えたスフィラ様はなんとかアディンに好かれようとあの手この手を実行するもののアディンには効かずむしろ嫌がっているように見えて婚約破棄されてしまうかもしれないと焦っているところにアディンがヒロインに愛おしそうに笑うところを見てしまったスフィラ様はなんとかヒロインをアディンから遠ざけようと思いつく限りの嫌がらせをする、というなんというストーリー。
アディンを攻略しているときいつもいつでもアディンの近くにいるスフィラ様に苛ついたことはあったもののその背景を知ってしまえばスフィラ様に同情してしまう。なんて可哀想なスフィラ様、と。スフィラ様が愛をある結婚を求めていたようだが、小雨が降りしきるなか2時間ガゼボで待ちぼうけ。その際に、自身のことをよく思っていないと痛く実感し、それでも家から逃げ出すためには絶対に結婚をしなくてはならなくて気に入られなければ、と生来の優しい性格が歪んでいく、という始まり。そんな生き地獄から早く逃げ出したい、という気持ち。そして、そのためには婚約者に気に入られなければ婚約破棄されるかもしれない。そうしたら次はどんな相手になるのかも分からないし、最悪の場合は結婚もさせてもらえず一生下女として家に縛り付けられる可能性だってあるのだ。そりゃあ死にものぐるいでヒロインを引きずり落としにもかかるだろう。
まず悪いのは後妻だし、次に悪いのはアディンである。
もんもんとそこまで考えて、はた、と気づく。今日の朝、食事の席でアディンはなんと言っていた?なんと言った?今日、初めての交流会と言わなかったか、自分は。
バッと窓を見ればポツポツと雨が降り始めていて、慌ててベッドから抜け出せばガタリと椅子に座っていたアルハルト様も慌てて立ち上がる。
「姫様?」
「失礼しますわ!」
ぐ、とドレスの裾を軽く持ち上げて走り出す。目指すはガゼボ。アディンはガゼボで交流会をすると言っていた。ならば、スファラ様はそこにいる。
「暖かい羽織を持ってきて!」
おろおろと付いてくる侍女にそう言い放ち走るスピードを上げる。庭園に出た瞬間、自身を呼び止める声が大きく多くなった気がしたけれどそれには反応しない。
「いた!」
まっすぐにガゼボへ向かえば、真っ白い六角形の柱に囲まれたガゼボにぽつりと1人座るスフィラ様の姿が。あまり家では食事にありつけないとファンブックに書いていたとおりスフィラ様の身体は折れそうなほど細く、白い顔は風に煽られて入ってきた雨に濡れて青白くなっている。ガゼボに向かってくる人影に気づいたのかこちらをむいたスフィラ様と目が合い、驚きに目を丸くするスフィラ様。
「まぁ!スフィラ様、濡れておいでですわ!とりあえず暖かいものを羽織ってちょうだい」
そう言えば心得たとばかりに羽織を侍女がスフィラ様の肩へかける。少し肌寒い気温が雨が降ったことによってぐっと下がっており、雨に濡れてしまったスフィラ様はカタカタと震えている。
「お湯を用意するので、入っていってちょうだい」
「え?」
「さぁさぁ!」
困惑するスフィラ様の手を引き、ぐいぐいと湯殿へ連れていく。湯殿でスタンバイしていたメイドにスフィラ様を引渡し、そうしてやっと一息つくことができた。差し出された紅茶が美味しい。
「アディンはどこにいるの?」
「自室にいるとのことです」
「そう」
かっ!と目を大きく開いて苛立ちのまま勢い良く椅子から立ち上がる。たしかに朝の会話したときアディンは今日の婚約者との交流会に乗り気ではなさそうや雰囲気だった。けれど、女の子に対して雨の降る中肌寒い外にひとりぼっちで放置するだなんて。だからゲームのスフィラ様は絶望してしまうのだ。
「開けなさい!」
アディンの部屋の扉前に控える衛兵にそう言い放ち、困惑する衛兵が扉を開ける前にノブに手を伸ばす。
「いま殿下はご学友とお過ごしでしで……」
ぐ、と扉を開けようと腕に力を入れた途端そう言われて眉間に皺が寄る。交流会だというのに、婚約者を放って友人と過ごしている、だと?
「アディン!!」
そう名前を呼ぶながら扉を開けば、驚いた顔をしたアディンと、その隣にはアディンと同じように驚いている友人2人。わたくしはその2人を知っているし、ファンブックにも載っていた。攻略対象だ。び、とアディンへ扇子の先を向けて叫ぶように言い放つ。
「アディン!貴方、どうしてここにいますの?交流会はどうしました!スフィラ様はおひとりでガゼボにいらしてよ!」
アディンの表情には姉に知られてしまった、という気持ちしかなくてあんまりな非道さにぐつぐつと苛立ちが湧き上がる。目の前がちかちかと明滅する。
「貴方は朝なんと言っていましたか!アルハルト様のことを憧れと言っていませんでしたか!アルハルト様は婚約者に対してこんなことしません!ひとりの紳士としても最低ですわ!」
「……ッ」
「申し訳ありませんッ!殿下は悪くないのです!僕が、殿下に言ったんです!」
わたくしの言葉に顔を歪めたアディンを庇って横から出てくるアディンの友人であり攻略対象者でもある宰相の息子と騎士団長の息子を一瞥する。
「なんですって?」
「僕が、僕たちが、アディン様に言ってしまったんです。望まぬ婚約だと分からせるために交流会の間放置しておけば立場を理解するのでは無いか、と」
自分で言っていてあまりにも非道な行いだと理解したのだろう。アディン同様に顔を歪めてそういうふたりに、目眩がしてしまう。今更、自身たちの行いを理解するだなんて。そうして、そんな自身の行動の先を見通せない愚かな者たちに、こちらも覚悟を決めた。今日ガゼボから救ったとしてもこれからもアディンと交流していくのならストーリー通りにスフィラ様は闇堕ちしていき悪役令嬢としてヒロインの前に立ちはだかるのだから、まぁ少しくらいはストーリーを歪めてもいいだろうと思っていた。けれど、こんな、こんな王太子として、紳士として、人として恥ずかしい者とこれからも交流していくのをすぐ近くで見ていたくない。
こんなことがこれからもあるのだろうと分かってしまえば、許すことができない。
そう考えて、わたくしは、ストーリーを歪める覚悟を決めるしかなかった。
「そう。そして実行してしまったアディン、それからその行動を止める立場であるお前たちもそれを止めずにいた、と。なるほど。主が間違った道へ進もうとしているのを止めるのが臣下であり、1番近くにいる側近の仕事でもある。それを出来なかったお前たちふたりは側近から外れてもらう。そしてアディン」
「はい」
「そんなにスフィラ様が婚約者では嫌だったの」
「それ、は」
言い淀むアディンを眺める。アディンだって分かっているはずだ。スフィラ様のご実家である公爵家がバックになったことでアディンは立太子出来るのだ。スフィラ様との婚約を解消すれば、アディンの皇太子としての立場は弱くなる。王家の血を引くものは王と王妃、そしてその子供であるわたくしたち姉弟のふたりのみ。だがなぜか第一子であるわたくしに王位を、と声高々に唱えるものたちが多く、アディンの立場は少し弱い状態である。それを補完するためのこの婚約なのだと、分かっているはずなのにこの愚行。なんて、なんて愚かしい。
「わたくしがアルハルト様と婚約したのは、王位を求めていないと皆に分からせるためよ。それなのに、貴方は何をしているの」
「申し訳ありません」
「貴方はしばらく謹慎です。部屋で反省していなさい」
項垂れる3人を見て、背中を向けて部屋から出ようと歩き出す。とりあえず暖かい場所でスフィラ様にはゆっくりしてもらって、父にアディンはしばらく謹慎だと伝えて、あとは何を、と考え、
「姫様!!」
「姉上!」
がくり、と唐突に足に力が入らず床へ落ちていく自身を客観的に見てあ、これ痛いわ、と思った瞬間、意識が真っ白になった。
ふ、と意識が浮上する。
「お目覚めですか」
見慣れた天井をしばらく眺めていれば、視界いっぱいにアルハルト様が入ってきて驚いてしまう。
「、、!」
「姫様は3日間眠っておいででしたので、声が出ないのでしょう。水をどうぞ」
口元に水差しを持ってこられてそれに口をつければひんやりと冷たい水が流れ込んできて一息つく。そうして3日間眠っていた、という言葉が頭にようやく入ってきてまた驚く。
「……み、3日、ですか」
「はい」
頷くアルハルト様をぼう、と眺めてもう一度3日、と呟く。そうしていれば、あの後のことをアルハルト様は報告してくれる。なんでも、アディンは謹慎に入る前にスフィラ様に謝罪を行った、と。そして残りのふたりは自ら側近を降りた、という。スフィラ様は風邪は引かなかったものの心底わたくしのことを心配しており毎日登城している、とのこと。アルハルト様もこの3日間わたくしにつきっきりだったらしく綺麗なお顔に大きいクマが出来ていた。そっ、とアルハルト様の頬に手の先を滑らせてわたくしは眉間に皺を寄せる。
「心配させましたね。申し訳ありません。あとでスフィラ様にもお会いして謝らなければ」
すり、とクマを親指でなぞりつつそう言って傍に控えているはずの侍女を探そうと視線を外した途端、クマをなぞっていた手をぎゅうと握りしめられて思わずアルハルト様の方へ視線を向ける。
「本当に、心配しました」
ぎゅう、と握りしめられた手は痛くは無いけれど、心配したという気持ちはそこから痛いほど伝わってくる。
「もう無理はしないでください。二度と貴女が倒れるところを見たくない」
握りしめられていた手の指先を、軽くアルハルト様に口付けをされて顔が赤くなっていくのがわかる。こんならぶらぶな恋人たちのような雰囲気を醸し出されて色気たっぷりに指先に口付けられては勘違いしてしまいそうになる。わたくしたちは政略結婚なのに。
「政略結婚なのですから、そんなことはしなくても大丈夫です。アルハルト様の想い人になさって下さい」
そ、と視線を外してそう言う。ズキズキと痛む心は無視して。だってこんな甘い雰囲気をこれからも出されてしまったら自分の心は持たない。ヒロインが誰のルートに行くのかも分からないのだ。最難関ルートとはいえアルハルト様も攻略対象。将来アルハルト様から離縁を突きつけられて、別れないで欲しいと縋り付く面倒な女になりたくない。
「は?」
アルハルト様から逃れて背中を向けてぎゅう、と目を瞑れば背後から今まで聞いたことがない声が聞こえてきて、それからズン、と部屋の空気が寒く重くなった。本能的にヤバイ、と感じる。頭の中で警鐘が鳴り響く。わたくしはなにか地雷でも踏んだのかもしれない。助けを求めて視線を彷徨わせてばちりと侍女と目が合う。侍女は平静を装ってはいたものの顔は青ざめており、あ、ダメだと悟る。
ぎ、と自身が横たわっているベッドが少し揺れる。
「姫様。いえ、リリス様」
耳元で吐息混じりに名前を呼ばれてびくん、と身体が跳ねる。なんだその甘い声は、と混乱していれば追い討ちをかけるようにアルハルト様は話し出す。
「リリス様は政略結婚だと思っておられるかもしれません。たしかにアディン様立太子のためのリリス様の降嫁です。ですが降嫁先は本当は違うところでしたが、わたしが無理を言ってリリス様と婚約いたしました」
「え?」
思わずアルハルト様の方へ身体を向ければ真剣な瞳に見つめられていた。
「それは、どういう」
ド、ド、ド、と期待で鼓動が速くなる。期待してはダメだと思ってはいても、こんなの、期待してしまう。きっと顔を真っ赤に染めているであろうわたくしの手を取り、甲へ口付けるアルハルト様の姿に胸が高鳴る。
「お慕いしております。リリス様」
甘い甘い声が耳に流れ込んできて、ぐらぐらと視界が揺れる。頬にかかった髪をするりと取り、そこにも口付けをされる。
「愛しています。リリス様」
そうしてやっと言われた言葉を理解して身体が震える。心臓が痛い。
「わた、わたくしも、アルハルト様のことが好き、です」
小さく震える声でそう言えば、アルハルト様は笑う。そうして、わたくしの頬に剣だこのある大きな手のひらを滑らせる。滑っていく手のひらは次に親指でわたくしの唇をふにゅりとなぞり、またアルハルト様は色気たっぷりに笑う。
「今日は、これで我慢します」
名残り惜しげに唇を何度かなぞったあと、そう言ったアルハルト様は瞼にキスを落とした。恋愛初心者なわたくしに対してあんまりな仕打ちに、もう爆発しそうなほどいっぱいいっぱいで。
「……きゅう」
わたくしは、目を回して気を失うしかなかった。




