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嫌われる絵

嫌われる絵 少年ジャンプの思い出

作者: 白遠

週刊少年ジャンプの思い出。

 絵をずっと描いている。


 まあまあ、絵はうまい方。素人にしては。

 素人にしては正直相当うまい方と思う。


 絵を習ったことはない。一度、中学生の時にプロのイラストレーターさんから半日、絵の描き方を習った。丸と三角と四角を描きなさい。いつかそれが生きてくるから、とその人は言った。絵を生業としている人からきちんと教えてもらったのはそれだけ。あとは美術の授業で絵を描く単元に絵を描いたくらい。


 でも絵のことは学習していた。なにからと言えば、家に毎週置かれていた週刊少年ジャンプからだ。物心ついた時から、家には少年ジャンプがあった。そしてその分厚い雑誌の中に、漫画賞の募集と応募者むけの絵の描き方のページが4ページくらい入っていた。小学生の時はちんぷんかんぷんだった。でも中学生くらいになって、書かれていることが理解できるようになった。その応募者向けの「漫画の描き方」ページには、絵の基本がちゃんと繰り返し書かれていた。「漫画には」とそこには書いてあった。「全身を描けなければ迫力あるシーンは生まれない!」。

 その文章を書いているのはおそらく編集の人で、書き下ろしなのか不明だったが、その時の記事にぴったり合った、黄金期のジャンプ連載中の漫画家のカットが毎回入っていた。印象深かったのは視点のことについての記事で、ろくでなしブルースの作者の森田まさのりさんの複数名の立ち絵と、荒木飛呂彦さんの「コーヒーカップの中に落ちたハエがみた風景」の絵だった。森田さんの方は7、8人の不良の人たちがそれぞれ「頭通し」「足通し」「チ○コ通し」で立っている絵で、アホかと思いつつ説得力がすごかった。視点の高さについての記事だったのだ。荒木飛呂彦さんの方は、発想を縛られないで描いてみようみたいな記事で、非日常の目で考えよう、という一例でハエの目線のカットだったのだ。


 この、約400ページのうちのほんの2ページ(もう2ページは漫画賞の紹介)が、自分の絵を育てたと思う。高校の時には全身を描くのが当然だと思っていたし、背景もつけられるなら付けようという意識が出来上がっていた。

 やがて親元を離れて自分で買わないとジャンプが読めなくなり、バイト先で客が置いていったやつを拾って読むようになり(ゲーセンでバイトしていると必ず誰かが発売日当日の週刊誌を座席に忘れていくのでサンデーもマガジンもジャンプも毎週読めた)、絵を描くのをやめたのと同じころに少年誌を読むこともぱったりなくなってしまった。最近では、Xで見つけた大好きなアーティストさんや、他のフォローさせていただいている人たちから教えていただいて学ぶことも多い。それでもなお、その2ページの学びが確かに今の自分の中に根付いている。まだとても若い頃に、全身を捉える必要性、視点、発想、パースについて、つまり逃げたくなるような基礎について、「これができなきゃさ」とさらりと伝えてもらったことは明らかに財産だと思う。ありがとうございました。


 今でもそういう編集の人はいらっしゃるのだろうか。



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― 新着の感想 ―
 そういえばそういうのがありましたねえ。  荒木先生のハエの視点には目から鱗でしたけど、それだけでなくあの人の作品の個性が表れていたという感想でした。もしかすると本人もそういう偏屈な性格をしているのか…
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