表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/25

第二十四話 エリスの退学裏ルート

 “退学処分”と発表されたその日、エリス・ベルフェリアは確かに学園を去った。

 だが――それはあくまで“表向き”の話にすぎなかった。


 学園の門を出た彼女を乗せた馬車は、王都へ向かわず、静かな森の奥へと進む。

 外套を羽織った騎士たちに囲まれ、行き着いた先は、王宮の外郭にある隠された離宮。

 そこは「保護観察」という名目で、王宮直属の管理下に置かれた者だけが入れる特別区域だった。


 厚い扉が閉じられる音を背に、エリスはゆっくりと微笑んだ。


「退学、ね……いい言葉だわ。“敗北”よりずっと聞こえがいい」


 鏡の前に立つ。

 頬の傷も涙の跡も、もうない。

 白金の髪を整え、唇に淡い紅を差す。

 それは――かつての“えりち”の姿に近かった。


――◇――


 前世。

 彼女は人気配信者「えりち」として、画面の向こうの世界で輝いていた。

 明るく、器用で、可愛くて。

 どんなコメントにも笑顔で応じ、ファンの心を掴んで離さなかった。


 けれど――一度の炎上が、すべてを変えた。


『嘘つき』『人を利用してた』

 そんな言葉がタイムラインを埋め尽くし、ファンだった人々が牙をむいた。

 謝罪配信も、釈明も、何の意味もなかった。

 彼女は“愛される側”から、“責められる側”へと転落した。


 その夜、彼女はひとりモニターの光を見つめながら誓った。


「(もう二度と、嫌われない。今度こそ、永遠に“愛される側”に立つ)」


 その願いが、なぜか叶った。

 目を覚ますと――そこは、あの乙女ゲーム『セレスティアル・ハート』の世界だった。

 そして自分は“ヒロイン”エリス・ベルフェリア。

 誰からも愛され、祝福される存在。


 完璧な“再スタート”のはずだった。


 ――なのに、また。悪役なんかに負けた。


 手のひらでぎゅっとドレスの裾を握る。

 爪が白くなるほど強く。


「……ふふ。こんな結末、認めない」


 その瞬間、部屋の奥の魔導通信石が淡く光を放った。

 そこから、ノイズ混じりの声が響く。


『ログを確認した。君の感情値、依然として高水準だ。異常干渉によってルートが変化したようだな』


 エリスの瞳がかすかに光る。

 どこか現実離れした青――システムの光が宿るような色だった。


「……ねぇ、“運営さん”」


 エリスは静かに問いかける。


「この世界、修正できるわよね? ルートを巻き戻したり、書き換えたり――そういうの、あなたたちならできるでしょう?」


『理論上は可能だ。だが、干渉には代償が伴う』


「代償なんて構わない。だって、この世界はゲームなんでしょう?私が“ヒロイン”である限り、すべては私の舞台。……あの女の思い通りにはさせない」


 声に宿る熱が、かつての配信者としての狂気を思わせた。

 “視聴者”がいなくなっても、彼女はまだ演じ続けている。

 カメラの代わりに世界を相手に。


 通信石の光がゆらめく。

 やがて、淡いノイズ混じりの声が再び響いた。


『では、新しいデータルートを開こう。君の願いどおり、“物語”はまだ続く』


 エリスはゆっくりと目を閉じ、唇の端を上げた。


「ええ――まだ、負けていないわよ。カトリーナ・エルノア・グレイス」


 その名を囁いた瞬間、通信石が赤く瞬いた。

 まるで、封じられたプログラムが再起動するかのように。


 静寂の中、彼女のドレスの裾がゆっくりと舞い上がる。

 ――そして、“ヒロイン”はもう一度、舞台へと戻る。


 次に現れる彼女が、果たして“人”なのか“システム”なのか、その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ