うぎゃああ! 来ンな! 来ンな! ド変態ジジイ!!
「おかえり。」
「おかえり、兄ちゃん!!」
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
アレンは「兄ちゃん」の一言にちょっぴり苦笑したが、弟たちを抱き上げて嬉しそうにしていた。
「ところで母さん。レオン兄さんは?」
「レオンなら畑だよ。それよりおめでとう。ギルドの専属になったんだって。」
「ああ、たまたま運が良かったんだ。」
「兄ちゃん、すげえ!!」
弟たちは無邪気に喜んでいたが、母親のモルカはさすがにアレンの気持ちを察しているようだった。
アレンの実家は母親と兄弟。それと祖父の5人家族で暮らしている。
父親はアレンが10歳の時に亡くなった。それからは兄のレオンが農業で一家を支えているものの、生活は苦しい。祖父はいるが、すでに老齢で持病もあった。だからこそアレンは口減らしのために、15歳になると家を出て冒険者になる道を選んだのだ。
「レオンの所へ行ってくる。」
家族にお土産を渡すと、アレンは畑へと向かった。
畑ではレオンが獣害対策のための柵を直しているのが見えた。
「レオン兄ィー。」
アレンが呼ぶと、レオンは腰を伸ばして「おう。」と手を振る。
アレンが近づくと、レオンは満面の笑顔でアレンを抱きしめた。
「良かった! 本当に良かったな、アレン!!」
「・・・その・・・レオン。みんなから何か言われてないか?」
レオンはアレンの顔をまっすぐに見ると「大変そうだな。」と言った。
「いや、そうでもないけど、村の方じゃ・・」
「何か言うやつはいるさ。やっかみだからな。でも俺はお前が成功したことの方がずっとうれしいのさ。」
アレンは涙が出そうになった。
「ありがとう。」それだけ言うのが精いっぱいだった。
「親父はただの農夫だったけど、爺さんは冒険者だったからな。お前もその血を受け継いでるのかもな。」
レオンにそう言われてアレンは突然思い出した。
かつては冒険者だったという祖父。たしかB級どまりだったらしいとは聞いていたが、もしかしたらメギドの事を何か知っているかもしれないと。祖父の世代の方が明らかに古いかもしれないけれど、あれほどの魔術師なら何か彼の経歴の一端でもつかんでいるかもしれない。
「レオン。爺さんからメギドっていう魔術師の事を聞いた事は無いかい?」
「・・・いや。無いな。その人の事は知らんが、気になるなら本人に聞いてみたらどうだ? あれでも昔のことはよく覚えてるからな。」
「あ・・・ああ。」
苦笑しつつもアレンは祖父の所へと向かった。
そのころ・・。
「おーい、居るかー、オッサン!」
「ひゃーーーーっ!」
「ぎゃあぁああ!!!」
ベスパ村に住むメギドの家を訪ねてたリズたちは、何気なく玄関の扉を開けた瞬間、悲鳴を上げて外へ駆け出した!
部屋の中で素っ裸で倒立しているメギドを見たからである。
「な、なな、、何やってんだよ、オッサン!」
「何やってるって? 訓練だ、小娘。」
シャールも驚いてはいるが、リズとサブリナほど慌てふためいてはいない。
メギドの体は無駄な肉が一つもない。マッチョというよりは、すべてのぜい肉を削り取ったような筋肉の塊のようであった。更に、よく見ると倒立したメギドはただ床に手をついていた訳ではない。3cmほどの10個の鉄球に指で倒立しているのだった。
(やっぱ、バケモンだわ、このオッサン・・。)
「よくそんな事できるな、オッサン。」
「よいしょっと。」
メギドは倒立をやめて立ち上がる。
「いや、俺も年をとったよ。若い時は親指だけでやれたもんなんだがなあ。」
そしてそのまま外に出る。
「うぎゃああ! 来ンな! 来ンな! ド変態ジジイ!!!」
「バーカ。こんなジジイイの裸を見て欲情してんじゃねえ、小娘。・・・水球。」
メギドの汗だくの体が水の塊に包まれ、中で緩やかに流れている。
「おい。。あれって攻撃魔法だよな・・。」
「難易度高いですわ。キャッ!」
水が四散すると、「熱気風。」 暖かい風がメギドの体を弄り、乾かしていく。
「生活魔法かよ、今度は。」
「戦闘にも使えますわ。キャッ!」
「すまんな。服を着てると、着替えなきゃならんのでなあ。」
「いいから、早く服着ろ! ハゲジジイ!!」
リズの投げたサンダルが、メギドの頭に当たって派手な音を立てた。
・・・・・
「でぇ~。なんの用なんだ、お前ら。」
メギドは頭にできたこぶをなでながら不機嫌に言った。
(安心してください。服着ていますよ。)
「忘れたのか? 分け前を持ってきたんだ。均等割りってアレンが言っただろ。『遅くなって悪かった』と、アレンからの伝言だ。」
シャールがカバンから重そうな革袋を取り出すと、テーブルの上にドスンと置いた。
「ああ、そう言えばそう言う約束だったな。」
目の前の大金を目にしても、メギドは興味が無さそうだった。
「もっと喜べよ、オッサン。俺なんか、これで<ヘイトの盾>を買えたんだぜ!」
「私は魔玉のアクセサリーと杖を新調しました。」
「めちゃくちゃ高かったんだけどよぉ。これで派手なパフォーマンスとはおさらばだぜ。」
「笑えたもんねぇ~。」
「うっせーぞ。お前はシーフだから、魔道具に頼らなくても済むから安上がりだよな。」
「フフ~ン。バカめ。あたしの魔石羅針盤はチョー優れモノなのだよ、シャール君。」
「フン・・・。ところでオッサンはこの金で何を買うんだ?」
「・・・そうだなあ。特に何も欲しい物は無いしな・・・」
「使い道は決まってるんだよネーッ!」
「ネーッ!」
なぜか女子のテンションが高い。
シャールはメギドの家の中を見渡した。
質素というよりあばら家・・・ここまでくれば廃屋・・と言った方が正確な家だろう。壁はあちこち剥がれ、玄関の扉は傾き、屋根にもところどころ穴が開いている。
「いろいろ買わなきゃなんないものがありすぎだろ、この家。そうだ、建て直したらいいんじゃねえか。」
「・・そうかぁ・・どうしようかな・・・」
メギドは興味が無さそうに大穴の開いた天井を見つめると、ふいに立ち上がった。
「オッサン。どうした?」
メギドは黙って、天井に空いた大穴を指さした。
アレンの祖父ノアは日がな一日、畑の見える小高い丘の木の下にいることが多い。それはアレンが暮らしていたころとあまり変わらない。日がな一日その丘で景色を眺めて家に帰る。それがノアの日課らしい。
アレンの予想通り、やはりそこにノアがいた。
ベンチ代わりの大きな石に座り、遠くをずっと眺めている。
「やあ、ノア。元気かい?」
アレンの声にノアは微睡んだ瞳をアレンに向けた。
「・・・。どなたかな?」
「元気そうだね。ノア。」
アレンは苦笑した。
(やっぱりあの頃よりも進んでるな。)
ノアは冒険者を引退した後、認知症にかかってしまった。最初は父と一緒に農作業をしていたのだが、やがてすべての事に興味を失い始め、ボーっと一日を過ごす日が多くなり、仕事が出来なくなってしまっていた。
それでもアレンがいた頃は、名前はともかく孫だとは認識していてくれてたのに、今は全くアレンが誰か認識できないでいるらしかった。
「ノア。僕、あなたと同じ冒険者になったよ。」
「ほう! 冒険者ですか。わしも昔は冒険者でのぉ、どうかな、わしとバトルしませんか?」
「いいですよ。」
「わしの名前はシンゾー・タマモリ! いざ、勝負!!」
ノアは誰かわからない人物の名前を名乗ると、杖を振り上げ襲い掛かって来た。
アレンはその杖をワザと受け、大仰にひっくり返ると、大げさに命乞いをした。
前にもこういうことはたまにあって、こうすることでノアは大喜びするのだ。
「ねえ、ノア。”メギド・ダイムラー”って魔術師、知ってますか?」
「・・む~~ん。メギド・・メギド・・」
(やはり知らないか・・)
「おおーっ、そうじゃ、わしが助けたあのヒョロニョロしたヤツじゃろお。背ーっばっかり高くて役にたたん棒っ切れみたいなヤツじゃった。」
「え?」
(確かに背は高いけど・・・)
「いつじゃったかなァ。第2次の時に魔法庁の役人じゃった奴じゃろう? わしも戦に駆り出されておったんじゃが、あいつはいけ好かなン奴でなあ・・・」
昔のことになると生き生きと話し始めるノアであったが、ノアが語れば語るほどアレンのメギド像とはどんどんかけ離れていく。彼の知るメギドは全くの別人のように思えた。
それに2次侵攻の時と言えば、30年以上前の話である。メギドはどう見ても40代後半。ギルド長のブルーノよりも年下に見える。それが2次侵攻の時にノアより年上というのは無理があった。
(やっぱり、無駄だったな・・。)
ふと空を見上げると、大空に鷹が舞っているのが見えた。
(あれは!)
その鷹は赤色の光跡を描いて飛んでいた。
そう<紅の翼>へのギルドからの緊急招集に他ならなかった。
セクハラを助長させるような表現と、罵られるかもしれないけど。
読者も少ないし。勘弁してちょ。




