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それから・・・・どうなの?

「お前、もう()()()()てないのか?」

 魔木馬(トロイ)が引く馬車に揺られながら、アレンは聞いた。

「ん~。そうだな。ほとんど見なくなった。だけど、蜂は苦手になったな。」

 ソナタは苦笑していた。

そんな事を言えるようになれば、だいぶ回復したんだな。とアレンは満足そうに微笑む。


 メラーアベイユの事件からもうすでに2か月が経っていた。


 あの後、ダンジョンから出たソナタは、ギルド専用の診療所へと担ぎ込まれたのである。

最初のうちは疲労から動くこともままならなかったソナタだが、次第に体力が回復するにつれ、悪夢にうなされる毎日を送り、起きている時でもパニックになったり、鬱状態が続いたり、自死をいつも口にしていた。

「なあ、教えてくれ! 俺はメリンダを見殺しにした。生きたまま虫に食われていくメリンダはずっと俺に助けを求めてた!」

「いいか、それは仕方のないことだったんだ。それはお前のせいじゃない。」

「俺は、生きてていいのか? みんなと一緒に俺も死ねばよかったんじゃないのか?」

「バカを言うな。俺はお前が生きていて本当に良かったと思ってる! メリンダ達だってそう思ってるさ、自分を責めるな。」

 そんな問答を何度も繰り返した。

 ソナタのPTSDは日を追うごとに酷くなり、時には自殺をはかったり、看護師に暴力をふるうことすらあったのだ。


 そんなある日の夜。

診療所の扉を叩く者が現れた。

「ヒッ!」

扉を開けた女性の看護師が驚きのあまり、ドスンとしりもちをついた。

「あ!! あ、あんた! 何者だ!」

当直の男性の治癒師が脅えて言い放った。

 扉の前に立っていたのは、木製の盾ほどもある巨大な仮面を着け、絨毯のようなボロ布をまとったはだしの巨漢だった。

「ワタシ、アダモ・ナマステ言イマス。南ノ国ノシャーマンデース。」と、その男はカタコトの言葉で名乗ったのだそうだ。そして悪い霊がいるので、お払いに来たのだと言ったらしい。

 もちろん最初は当直の治癒師も断ったそうなのだが、そのシャーマンを名乗る男は半ば強引に室内に入り込み、ソナタのお祓いを始めたのである。

 男はカタコトと呪文を低く唱えながら、眠らせているソナタの胸に手をかざしていたらしい。そして1か月ほど毎晩、その巨漢は現れ、(自称)お祓いを施していった。

 やがて・・・

それが効いたのか、ソナタは落ち着きを取り戻し表情もだいぶ和らいできたのだという。

 アレンには何となくその人物に思い当たるフシがあったので、手紙でその看護師に聞いてみると「そう言えば、後ろから見ただけですけど、頭に毛がありませんでしたね。」と返事が返ってきた。


「そん時のあんたの顔って、()()()()になってたでしょ!」

 その話を聞いたリズが腹を抱えて笑い出した。

「いったい何なんだ、あのオッサンは!」

「・・もしかしたら精神干渉治癒魔法かもしれないわね。」

 サブリナの目が生き生きと輝いている。

「精神・・なに?」

「最近王都でも取り入れられたって聞く新しい治癒魔法よ。」

「冗談じゃない! 精神干渉魔法はかけられた相手の人格や記憶を捻じ曲げるものじゃないか!」

 アレンの言う通り、ウクリナ国では禁止されている魔法である。それでも仕方なく使用する場合には魔法庁の許可と、厳重な監視の下で行われなくてはならない。

「そうなんだけどね。戦役で傷ついた兵士の心の負担を軽くするために、弱い干渉をかけることで治療が成功した例もあって、少しずつ研究が進んでる最先端技術なの。王家でも最近じゃその治療法に積極的になってるって話よ。」

「・・・本当に大丈夫なのか・・・オッサン・・。」

「大丈夫よ。おじ様はいつだって完璧ですもの。」

 サブリナの疑わないまっすぐな目に、落胆を覚えるアレン。

王都の宿屋で、そんな会話がなされたのが一月ほど前の話だ。


 幸い、ソナタは精神に異常を来すことも無く、無事に退院することが出来た。

そして今は、アレンとソナタの生まれ故郷ラタッタ村へと向かっている途中なのだった。

 ソナタの足には魔道具の義足がつけられている。激しい動きはできないが、日常的な動きには対応可能という優れモノである。この義足もそうだが、魔木馬(トロイ)も実は非常に高額な魔道具であり、一般人は持つことが出来ない。私たちの感覚で言えば、アラブの大富豪くらいしか持てないような高級品である。


「実はなあ・・・」

「ん?」

「ギルドの職員として働かないか? と誘われてるんだ。」

「ほんとか! そいつは良かったじゃないか!」

 アレンは我が事のように喜んだ。義足をつけているとはいえ、村に帰っての農作業はソナタにとっては、やはり過酷だろう。

「それで、どうする事にしたんだ?」

「・・・ん。まあ、少し落ち着いたらシスの街に戻って、その話を受けようかと思ってるんだ。」

 ソナタははにかんだように笑って見せた。2か月前のソナタを知っているアレンは信じられないという思いだったろう。



 ところで・・・話を少し前に戻して、なぜアレンが王都に居たのか、どうしてこんなに大金持ちになったのかを説明しておこうと思う。

 <紅の翼>(エールルージュ)がギルド専属冒険者になったことは前にも述べた。しかし、それが実力で認められた訳では無い事はアレンも十分に理解している。ではなぜ専属冒険者になることが出来たのか?


 ()()()()である。


 こう書くと、下品な想像が頭をよぎるが、そういう事ではない。

メラーアベイユの魔石は、一粒一粒が途方もなく高額であったためだ。それがおよそ50万個である。ギルドは契約上冒険者が持ち込んだ魔石を買い取る義務がある。それが買い取れる金額では無い事を知ったブルーノは立ち眩みがした。なにせ王国の数年分の国家予算に匹敵する額だったからだ。一時金として相当な額の金を払ったものの、それだけでは到底追い付かず、ブルーノは専属契約を持ちかけて折り合いをつけたのである。

 それはブルーノの独断ではあったが、ギルドとしても分割ですら払いきれない以上、ブルーノの決断を棄却することも出来なかった。また、王立兵団の団長だったブルーノの人脈も功を奏したと言えよう。


 専属契約は最低でもS級以上。通常ならばSS級でなくば誰も認めない。

 アレンも相当迷ったが、これほどのチャンスは2度と来ない。それに専属になれば高レベルの依頼を否応なく引き受けなければならない。実績は後から付ければいい。

 それで受けた。

 受けたが、やはり王都での任命式では酷く後悔した。


 周りにいる誰もが、冷ややかだったからだ。(実力無いくせに、運だけで専属になった。)その場にいる誰もがそう思っている。その視線がえぐるようにアレン達の体を刺したからだ。

(あのオッサンが仲間になっていてくれたら・・・)

 その思いは今でも強い。

 こうなった今では、新たに黒魔術師を仲間にしようとしても、まともな奴を引き入れることは難しい。専属のうまい汁を吸いたい者か、逆に実力があっても格下のパーティーに入ることを良しとしないものが多いからだ。そもそも、フリーのS級なんてのは居る訳がないのである。

 後で実力を付ければいいと思っていたアレンも、実はほとほと困っているのだった。


「見えて来たな。」

ソナタの不意の言葉の先には、二人が育った懐かしい村が見えてきたのだった。

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