オッサンに聞きたいことがあるんだが・・・
「オッサン。聞きたいことがあるんだが・・。」
歩きながらアレンがメギドに話しかけた。どうやら彼もメギドが名前を呼ぶまではオッサンで通そうというつもりらしい。
「何だい、兄ちゃん。」
「僕はシスの街で冒険者を始めてから10年になるけど、オッサンの事は見たことも聞いたことも無い。」
「そりゃそうだ。冒険者になったのは2か月前だからな。それからずっとここに潜ってたし。」
アレンの目が訝し気になった。
(それもおかしい・・・)
冒険者になるには冒険者ギルドに登録が必要だが、最初はどんなに力があってもF級からスタートするのが決まりだ。すべての冒険者は実績を積んで初めてランクが上がる仕組みである。どんなに優秀でも2か月でD級と言うのは異常な早さだった。
それにメギドは、13階層まで地図に頼らず先頭を切ってパーティーを先導してきた。
「D級は7階層までだろ。どうして13階層まで詳しいんだ。」
「まあ、その・・・よ。そこはそれ、好奇心ってヤツに勝てなかったというか・・・楽しいじゃねえかダンジョンってのはさ。気が付いたらそこまで潜っちまってたんだわ。」
ガハハハッとメギドは笑って誤魔化したが、初心者が13階層まで探索できるほど<暗黒の迷宮>は甘くない。毎年多くの犠牲者が出る難易度の高いダンジョンなのだ。決して楽しめる場所ではないし、しかも単独で踏破などA級冒険者のアレンでも出来ない。
「オッサン、あんた人間か?」
「失礼だな。どっからどう見ても人間だろう、俺は。」
アレンは胸を張るメギドに苦笑した。
もちろんアレンは、メギドは怪物か何かと思って訝しんだわけではない。彼の過去に何か裏があると考えていただけである。
「ところで・・だいぶ来たが、救難信号の元はまだ先か?」
「いや、もうすぐだと思う。」
14階層に入ってからも警戒を緩める事の無いアレン一行だったが、ここまで戦闘は一度も無い。魔物の姿さえ探索には引っ掛からなかった。
「危険は無かったけど、こうも出くわさないと気味が悪いな。」
「そうね。こんな事、上の階層じゃ有り得ないわ。」
シャールが不安げに呟くと、サブリナもそれに同意した。
「だけど、魔素の感じは強いのに、魔物が感知出来ないんだよね・・・。」
リズもどこか不安気である。いつもの軽口が影を潜めていた。
それを最初に見つけたのはリズである。
それは白銀の鎧だった。
脱ぎ捨てられているという訳でもなく、きちんと整えられていたわけでもない。人が倒れた状態のような形でそれはあった。
「あれ・・って、ビフのじゃない!」
アレン達が駆け寄ると、中身はもぬけの殻だった。ご丁寧に肌着まで残されていた。
「いったいどういう事だ?」
鎧から人体だけが消失した。そんな感じだった。
「なにか、判ったのか? オッサン?」
しゃがみこんで、鎧を調べているメギドにアレンが言った。しかし、メギドはただ難しそうな顔をしている。
「・・・・まさかな・・。」
「なんなのよ。もったいぶってないで教えてよ。」
「確信が持てないからな・・。」
メギドはそう言ったきり、黙りこくってしまった。
「・・・先に進もう。」
やがて、灯りの魔法に照らされた道に一本の杖が現れた、
杖は地面に突き刺さっていて、まるで道しるべのようである。
リズは慎重に杖に近づくが、周りに何の気配も無く、リズの合図で、4人が杖の周りに集まった。
「にわとこの杖。ギャリックの杖に間違いないわ。」
そう言うとサブリナは膝から崩れ落ちた。
ギャリックは<蒼い牙>の黒魔術師で、シスの冒険者の中では最強の黒魔術師とまで言われていた。
「ギャリックはどこへ行ったんだ?」
「死んだわ。」
サブリナの見つめる先には、高温でガラス化した地面が四方に広がっていた。
「魔術師最強最後の呪文を使ったのよ。」
魔術師最強最後の呪文。それは自爆魔法という。文字通り自分の命を贄に、大量の魔力を集めて暴走させて爆発させる代物である。当然ながら中心にいる術者は塵一つ残らず消し飛んでしまう。
「いったい、何があったんだ・・?」
アレンはちらりとメギドを見ると、屈んで地面を丹念に調べているようだ。やがて地面から何かを摘まんだまま動かなくなった。
その時、静かな洞窟にブ~~ンと羽虫の音が聞こえると赤い蜂のような虫がシャールの胸当てに留まった。シャールは何気なくその虫を叩き潰そうと左腕を持ち上げた瞬間、メギドに腕を掴まれた。
「なんだよ。オッサン。」
「潰すな。」そう言うと、メギドは慎重に赤い蜂の羽を掴むと凍結呪文で凍らせた。
「大げさだな、オッサン。ただの虫だぜ。」
「バカ! こんな深部に虫なんか居るものか。」
そう言われて全員が凍り付いた。
「アレン! 後退するぞ。静かに、ゆっくりだ。」
誰もが無言でメギド言葉に従った。
何が起きているのか誰も分からなかった。しかしそれでもメギドの言葉に従ったのは、真剣な表情に気圧されてしまったからなのだろう。
200mほど後退したところで、メギドは地面に腰を下ろした。
「なんなんだよ、オッサン。この虫とギャリックに何か関係あるのか?」
「まあ座れや、大将。これから話す。」
少しばかりの笑みだったが、一同を安心させるには十分だった。
一同が腰を下ろすと、メギドは収納魔法で、自分の収納庫を開き、腕を突っ込んだ。
「あると・・いいんだが・・・」
「あった!」と叫んで、メギドは嬉しそうに五つの首飾りのような魔道具を取り出した。
「よかった。人数分あったな。」
「オッサン。そろそろ説明してくれ。何が何だか分からない。あんたを見れば、何か大変なことが起こっているのは分かるんだが・・・」
「まずはこいつを各々付けろ。」
渡された首飾りはツタンカーメンの首飾りのような大きな首飾りで、木製で粗末なつくりのそれは、お世辞にもかっこいいとは言えない代物だ。リズなどは真っ先に文句を言いそうだが、なぜか黙って首飾りを着けた。しかも少しばかり震えているようにも見える。
「そいつは試作品でな。着けた人間の周りに薄い防護幕を作る。セーフテントの小型版みたいなヤツだ。胸元に魔石が埋め込まれているだろう。それに手を当てて魔力を送り込めば起動する。」
突然、リズが泣き出した。彼女の魔道具が起動しなかったらしい。
「どうした、小娘。」
「あ、あたし、魔力が少ない。それに、なんだか怖い!」
メギドはリズの右手をそっと手に取り、自分のほほに手を当てさせた。
「チクチクするだろ。」
「へっ?」
「髭剃ってないからな。」
リズがプッと噴出した。
「なあ、リズ。お前が怖がるのは正しい反応だ。何が居るのか分からなくても、お前の本能はちゃんと恐れている。俺だって怖い。だが、心配するな。ちゃんと全員で生還できる。」
そういうと、リズの首飾りに魔力を注いで魔道具を起動させる。
「俺のも頼む。」
アレンとサブリナは自分で起動できたが、シャールの魔道具は彼の魔力では起動しなかったらしい。
「試作品だからな。起動魔力の量に個体差があるんだ。」
「いい加減に話してくれ。<蒼い牙>に何があったんだ!」
アレンの問いに、メギドは静かに話し始めた。
「・・この魔虫はメラーアベイユという。れっきとした魔物だ。ランクで言えばS級だろう。」
一同の顔が青く変わった。
「当然人間を襲うし、有機物は骨どころか血液の1滴までしゃぶり尽くす。こいつは斥候だ。こいつを殺すと、自らの体液でにおいを振りまき、数万匹もの仲間を呼ぶ。個体は大した事はないが、強靭な顎とマヒ性の毒を持つ。毒にやられると人間は動けなくなり、生きたままこいつらに食われる。」
誰もが<蒼い牙>に起こったことを想像し、沈黙した。
「どうする? 兄ちゃん。このまま帰るのもアリだ。」
アレンは俯くと右手の親指を噛んだ。
友人は助けたい。しかし、<蒼い牙>がやられた相手だ。無傷で帰れる保証はない。もしかしたら、<紅の翼>も全滅するかもしれない。
「アレン。本当にどうするの?」
「・・・みんなの意見を聞きたい。それで決める。」
シャールとサブリナは一度戻ろうと言った。大規模な救助隊を率いて来た方がいいという考えだった。
「リズは?」
「あたしは・・このまま行く!」
その言葉に皆が驚いた。彼女が一番脅えていたはずなのに。
「ここで逃げたら、もうここには戻れない。理屈じゃないんだ。」
「・・・・・オッサン。あんたは?」
メギドの目は静かだが、揺るがない眼でアレンを見つめた。
「兄ちゃん。お前がリーダーだ。お前が決めろ。みんなはそれに従うだろ。」
アレンが全員の顔を見回す。
そして誰もが緊張した面持ちで頷いた。
「<蒼い牙>はこいつらにやられたんだろう。全滅かもしれんが、セーフテントの救難信号が出ている以上、それを見届けねばならない。」
全員の顔に生気が蘇った。
「兄ちゃん。お前さんならそう言うと思ってたぜ。」
メギドのごつい顔が、にっこりと笑っていた。
1000字くらい書いたときに・・・猫にいきなり・・・・シャットダウンされた。
めげずに頑張りました・・・。




