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D級ってのは、マジっすか?

「オッサン、あんた邪魔だからさー、後衛に回りなよ。」

 メギドはギロリとエリザベスを睨みつける。

 ここは7階層の難所と呼ばれる<ブッデオの回廊>である。

幅は広いが、軽くループした3kmもの一本道。魔物と遭遇すれば必ず戦闘になるし、挟撃されれば逃げ場がない。


「煩いぞ、小娘。索敵能力は俺の方がずぅ~~っと上だ。だから俺に任せて、の~~んびりしてるがよかろう。」

「フン! あたしの方が上だもんね! だ・い・た・い、その図体で、索敵しようってのが間違いだって―の。」

「体がデカいのは生まれつきだ。 だ・い・た・い、俺の魔法での索敵能力の方が索敵範囲は広い。」

「索敵範囲は広くても、トラップまでは回避できないでしょうが。」

「心配はいらん。強靭な肉体と、魔法防御で多少の罠などモノともせんわ。ガッハハハハ!」

「その代わり、反射神経は鈍ってるでしょ。年なんだからさあ~、後ろで大人しくしてればぁ~。オ・ッ・サ・ン。」


 我先にと先頭を行く二人はどちらも譲ろうという意志は無さそうだった。

 <紅の翼(エールルージュ)>のメンバーにはエリザベスというシーフがいる。本来であれば、エリザベスが先頭に立ち仲間(パーティー)への脅威を予め払拭する役割を担う。魔術師は大抵後衛で戦闘開始後に行動する物だ。

 ところがどういう訳か、メギドはパーティーの先頭に立ち魔法を駆使しつつ索敵を行っている。


「それにさあ。なによその甲冑と鉄の棒。ちゃんとした魔術師ならローブと先っちょがクルクルってなってる木の杖じゃないのさー!」

「小娘、よーく聞け。いいか、魔術師の魔力と言うのは、健全な肉体に宿るものなのだ。甲冑は常日頃から体に負荷を与え、鍛錬する為にあるのだよ。よーく分かったか、小娘。」

「へん。ホントは魔物の攻撃が怖くて・・・」


 先頭を行く二人の歩みが同時に止まった。

 そして止まると同時に左の拳を上げる。

     敵だ!

 後続の三人が足を止めた。


「小娘。お前は殿(しんがり)に行け。俺は前を蹴散らす。背後から・・・」

「みなまで言うなよ、オッサン。」

エリザベスはスルリと先頭から離脱すると、目にもとまらぬ速さで殿に回り、後方の警戒に回った。

憎まれ口を叩きあっていたとは思えぬ連携である。

加速(ベシュレイ)。」

 呟くように放った言葉を置き去りにしてメギドが消える。と、数秒後、遠くから魔物の悲鳴らしき怒号がわずかに聞こえた。


「行こう。」

 アレンの言葉にメンバーが反応した。

駆け足となり、20m程走った先に、メギドが仁王のように突っ立っていた。

「片付いたよ。」

メギドは事も無げに言う。

足元には魔石が20個ほどと棍棒のような武器が落ちている。魔石の色と大きさから、どうやらゴブリンの群れだったらしい。

「メギド。勝手な行動は慎んでもらおう。」

 アレンとしても出しゃばりなメギドの行動に耐え切れなくなったらしい。

「済まなかったな。以後は気を付けるさ。」

「待ってくれ。これはパーティーの命運を決める重大な事だ。以後は僕の命令が出るまで動かないと誓ってくれ。」

「ふむ。もっともだな。分かったよ。」

 と、その場は収まったものの。次からメギドは有無を言わせぬアイコンタクトで(アレンを威圧)率先して先頭に立った。

「これじゃあ、俺たちは子供みたいなもんだな。」

 苦笑いするタンクのシャールは、まだ一度も出番がない。いや、無いのはアレンもエリザベスもサブリナも一緒だった。

 先導するメギドとエリザベスの二人は、目的が救出であることから、避けられない最低の戦闘以外は極力回避している。さらにメギドは<暗黒の迷宮(オプスキュリテ)>を熟知しているようで、すでに14階層目前まで来ている。お陰で通常なら3日はかかる行程を、ろくな戦闘もなしで僅か1日で踏破した。


 後衛を歩くアレンの袖をサブリナがそっと引いた。

「アレン。あの人、いったい何者?」

3日かかる行程を急ぎで来ているせいか、サブリナの表情に疲れも見える。だが、それにもましてメギドに対する不安が募ってきているらしい。

「俺にも分からない。だけどただのオッサンじゃなさそうだって事は分かるさ。」

「なあアレン。あいつ本当に魔術師なのか?」

 タンクである重装備のシャールよりも重そうな甲冑を身に着け、右手の武器は長尺の鉄製の棍棒とくれば、どうみても魔術師とは言い難い格好である。ただ、シャールの甲冑はミスリルやアダマンタイトの高級な鎧で鉄よりも数段軽い。D級で金が無いからと言ってしまえば栓もない事だが、メギドの甲冑は重い鉄製。しかも通常の鎧よりも分厚い鉄を使っている上に、チェーンメイルまで着用しているようだった。

「とてもD級とは思えないわ。」

「だね・・。」と、殿(しんがり)を歩くエリザベスも小声でつぶやく。なんだかんだ言いながら、エリザベスもメギドの能力に舌を巻いている。


 メギドが突然立ち止まった。

14階層の入り口まではあと少しの所である。


「どうした? 魔物か?」

メギドは顎に手を当てた。少し考え込んでいるようである。

「兄ちゃんよ。少し提案がある。」

 アレンは少しだけ眉を顰めた。

「駆け足でここまで来ちまったが、目指す14階層はこの先だ。だがよ。ちぃ~っとばかし急ぎすぎたかな。っと思ってよ。そっちの嬢ちゃんもかなり疲れているようだし。今日はここで休まねえか?」

 確かに急ぎ過ぎた感はある。

 14階層はアレン達にとっても未知の階層である。一旦は緊張を解いて活力を養うべきだとメギドは言っているのだ。仲間の事を考えれば、それが正解なのだろう。ただアレンは幼馴染の安否も気になっていた。

「俺はオッサンに賛成だね。12階層にあるセーフハウスはとっくに通り過ぎたが、14階層で睡眠をとるのは危険だろう。」

「シャールの言う通りだと思う。ここは開けてるし、キャンプを張るには最後の場所かもしれないわ。」

 アレンは少し迷った視線をエリザベスに向ける。

 エリザベスは答えの代わりに深く頷いた。

「じゃあ、決まりだな。」


 こうして<紅の翼>は13階層で一休みする事になったのである。

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