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硬ぇーのが自慢なのかよ。

「急げっ! 狼煙(のろし)は3度目だぞ!!」

 シュミットの罵声が響くと、後続の皆が「おう!」と叫んだ。

(生きてろよ! アレン!!)

 しかし、アレン達のいる場所まではまだまだ遠い。しかも道はあって無きような物。走るにも困難を極めていた。




 吊り橋のあるたもとで爆発があって数分後の事。


 アレン達は全員が傷つき、地面に転がっていた。

爆裂弾も、アレン達の突撃も、サブリナの防御魔法も・・・ことごとくあの怪物に粉砕されたのだ。

(クソッ! 僕が判断を誤らなければ・・・)

いくつもの撤退パターンが頭の中で繰り返し湧いて出る。

寝ころびながらも視界に入るシャールとリズは、大量の血を流してピクリともしない。

(クソッ! クソッ! クソーーーッ!)

肋骨と左腕が折れている。指を動かしただけで体中に激痛が走る。右手で地面を掴んだが力が入らない。立ち上がりたいのに、立ち上がる事さえできない。

 アレンは自分を呪った。

 遠巻きでミノタウロスの怪物との戦いを見ていた魔物がじわりじわりと近づいてくる。

(神よ! あんたはなんて冷酷なんだ!!)


   ずん。。。

 ・・と目の前で何かが地面に下りた音がした。


「呼んだか?」

 アレンのかすむ目の前に奇妙な仮面だけが見えた。

「よく頑張ったな。お前ぇらは休んどけ。後は・・」

 その言葉はもうアレンの耳に入らなかった。


 目を閉じたアレンの頭をそっと撫でると、仮面の男が立ち上がり、周りを見据えた。

魔物たちは突然現れた長身の男に、威嚇しながら少しだけ後ずさりした。すると、何匹かのゴブリンとハウンドウルフが悲鳴を上げて倒れた。首にはクナイという鉄製の短剣が突き刺さっている。見ると藍色の装束に身を包んだ3人がそれぞれシャールたちを守るようにクナイを構えている。

「大丈夫です。怪我は酷いが、みんな生きてます。」

 その声に安心したのか、大男は仮面とマントをかなぐり捨てると、大きく伸びをした。

「おう。良かった。・・後は頼むわ。」

 メギドの間の抜けた声が終わると同時に、メギドの瞳の光がすぅーっと冷たくなった。

加速(ベシュレイ)。」

 メギドの姿が突然消え、近くにいた数頭のハウンドウルフが血しぶきを上げて倒れた。・・・だけじゃない。数秒のうちにゴブリンも残りのハウンドウルフも血しぶきを上げて地面に横たわったのである。

 そして、残ったのはあの怪物だけであった。


 今は数メートル離れた正面に姿を現したメギドが仁王のように怪物を睨みつけていた。


「俺の仲間が大分世話になったな。」

怪物はグフグフと口ごもった声で耳まで裂けた口を開けて舌なめずりをした。

「ふーん。俺の言葉が分かるか。珍しい奴だな。」

メギドも耳まで裂けてない唇を吊り上げる。

加速(ベシュレイ)、ツヴァイ!」

 加速魔法の二重掛け!

 元々加速(ベシュレイ)一つでも目にも止まらぬ速さなのに、メギドの二重掛けは分身を産むような速度だった。その加速による連続攻撃は怪物を吹っ飛ばし、抵抗する隙を与えなかった。

 あまりの連続攻撃に後退する一方の怪物!

 飛び散る木々!

 土埃がもうもうと立ち上り、辺り一面を日食のように暗くしていく。

そして追い続けて攻撃するメギドは、いつの間にかアレン達が()()()()()洞窟の前の広場にまでやって来ていた。

「はぁ、はあはぁはぁ・・・クッソッ、硬ってーなあ、てめえッ!」

 再び対峙したメギドの鉄棒はグニャグニャに折れ曲がっていた。

 一方の怪物の装甲にはいくつかのひび割れが見られるものの、破壊できるまでのダメージを与えられていない。

「これじゃあ、剣での攻撃なんかじゃ傷一つ付けられんわな。」

怪物の装甲は鎧ではない。生体の一部分である。しかも瘡蓋(かさぶた)の様な物がブクブクと泡のように亀裂を包む。どうやら自己修復しているらしい。


「オマエ、ヨワイ。」

 怪物が口をきいた。

「・・おいおい・・マジかよ。口をきく魔物は初めてだぜ。」

 メギドのギョロ目が大きく見開かれた。

「コウゲキ、キカナイ。キっかナEーyお。オマエ、ヨワスギ。」

「ふん! お前は硬いのが自慢なのかよ。」

「ソダだ、レモ、オレこワ、コワコワ・・せナ・・イ」

「ホントかよ? なら、試してみるか?」

「オレ、ウGOカナイ。ウゴカなイ・・イチDo、コウゲキ・・・ユルス、みロ。」

 メギドは腕を組んで考えた。

そしていたずらっ子のように薄気味の悪い笑顔で答えた。

「本当だな。動くなよ。」

 メギドは怪物に背を向け少し距離をとる。

「ぜーーーったい。絶対だぞ! 約束だかんな!」

 ガキのようにニタニタと笑い、収納(コンポート)魔法で異空間の蓋を開けると、中から2本の鉄棒を取り出した。把手(とって)がそれぞれついていて、中国の武器のトンファーのような形をしている。が、トンファ―と決定的に違うのはその大きさと長さである。鉄の棒の太さは5cmもあろうか、しかも長さは2mほどある。重量も相当な物だろう。

メギドはそれを左右の手で軽々と振り回し、左右の棒の先端を怪物にまっすぐに向けた。

「ムダ。無駄。ムダむ・・DAダ。ナンんビト・・タリ・・どーモ・・」

 メギドは自信に満ちた笑顔で怪物を見た。

雷撃(エクレール)!」

 メギドがそう叫ぶと、両方の鉄棒に螺旋状の稲妻が走り、それがものすごい速度で回り始めた。

「エ・・ナンだ・・ソ・・」

「デビーちゃん、頼むわ!」

 メギドのポーチからあの一つ目の蛇のような首が面倒くさそうに顔を出すと、その口から鉄球をポン!   と 吐き出した。


 吐き出された鉄球は、ゆっくりと弧を描いて鉄棒の間へと落ちてゆく。


「オイ。チョcyo マ・・」


 鉄球は鉄棒と鉄棒の狭間にストンと落ちると、一瞬止まったかのように見えた。


「ナナな・・・」


 鉄球は自重で少しばかりのお辞儀をして見せると、フッ・・・と消えた。

 

 同時に耳を(つんざ)くような轟音が響き渡り、きのこ雲のような土煙が天空高く舞い上がった。

 

「ワリィーな、時間が無くてなヨ。」

 怪物が立っていた場所から100mも先に怪物の下半身が千切れて転がっていた・・・。





「カ・・カイル副長。何なんですか・・あれ・・。」

 藍色の装束の小男が、長身の男に尋ねた。訓練を受けていても、想像を絶する力を目の当たりにして、意思とは関係なく体が小刻みに震えていた。

 藍の影(アイスキア)のカイル副長の顔はただ茫然と形が変わった山の姿を見つめて言った。

「・・・あれが噂に聞く・・神の一撃(エルエクレール)ってやつだろうな・・。」

「人間なんですか・・あの人。」

もう一人が呟くと、突然彼らの目の前にメギドが姿を現した。

「ギャー―!  すいません! すいません!」

「何言ってんだ? おねえちゃん。」

「すいません。彼女が何か失礼なことを呟いたみたいで・・。」

 カイル副長はバツが悪そうにしている。

「そんな事よりこいつらだ! 容体はどうだ?」

「シャールがかなり危険な状態です。出血もひどいですし、心音が弱まってます。次がエリザベス。背骨が折れて内臓が破裂してるようです。」

「よし、まずは二人だな。並べて寝かせろ。ゆっくりだ。」

 アレンとサブリナをちらりと見る。

 サブリナに外傷は無さそうだが、魔力切れを起こして意識を失っている。戦闘の様子が目に浮かぶようだった。シャールとリズが倒されて、一人奮闘するアレンを守るために最後の一滴まで魔力を振り絞ったのだろう。おかげでアレンは致命傷を避けられたのだ。アレンも重症だが、防御魔法のお陰か後回しでもよさそうだった。サブリナは魔力さえ補充すれば死ぬ事は無い。ただ・・


 メギドは寝かせられた二人の間に(ひざまず)くと、手を挙げて何かの言葉をつぶやく。

すると、彼の両手は淡く光始め、シャールとリズのむき出しにされた腹部に腕を突っ込んだ。

 二人の皮膚はメギドの手を拒まず、まるで液体でもあるかのように受け入れている。そして彼らの体内でモゾモゾとメギドの腕が動いているのが見て取れた。

「き・・気持ち悪・・」

「カイル副長・・何なんですか・・あれ。」

 呟いた部下は目を丸くしてカイルを見た。

「俺は何も見てない。お前たちもそうするんだな。」

 副長は厳しい目で二人の部下を見る。それは有無を言わせぬ命令の視線だった。


 カイルがそうしたのには訳がある。

通常の治癒魔法は手をかざして魔力を送り、患者の自己修復を急速に早めるものだ。それ故に時間もかかるし、生命力が極端に低くなっている者には、それでは間に合わないこともある。

 メギドがやった魔法は、自分の手を患者の肉体に半分同化させ、損傷部位を直接修復する。血止め、縫合、再生、場合によっては増血もする。異物がある場合にはそれを抜き取ることも可能だ。

 その為、この魔術は暗殺にも使用される。

人知れず相手の内臓に損傷を与えて殺すことも出来ので、大抵は原因不明の病死とみなされてしまう。

 よって、<禁呪>とされた。

 使える者は魔法庁によって管理され、許可がない場合に使用が見つかれば罪に問われる。

  別名<悪魔の手術(マニュディアボロス)>と言われる所以(ゆえん)である。



 数分の後、二人の顔に赤みが差し、呼吸も落ち着きを見せた。

 こうしてアレンも同じように手術し、サブリナにも魔力を補充した。

 さっきまで死にかけていた4人の寝息を見て、メギドは優しい目をしていた。

「そろそろ行きましょう。」

「そうだな・・」

 メギドがそう言うと、4人は忽然と姿を消した。





・・・空が・・暗青い・・・・

 ぼんやりと視界に入った空はセーフテントの淡い青色を加味して、いつもより青みが強い。

 (あたし・・死んじゃったのかなあ‥。)

 リズはぼんやりとした青い空に溶けていきそうな気がした・・。

ふと・・胸に組まれた両手が何かを大事そうに抱えているのに気付いた。

 体中が痛かったが、それを持ち上げてみる。

(あ・・あたしの・・・・)

 知らず知らずのうちに両目から涙が零れていた。

  それはリズの魔力羅針盤だった。

 『いたぞ!』『無事か!』『生きてる! 生きてるわっ!!』

 セーフテントの光越しにクロエの顔が見えると、リズは泣きながら再び気を失った。



 軍事予算の拡大によって、日本は戦争をしようとしている。と、リベラルな方はよくおっしゃる。

それで毎回思うのだが、どうして戦争をする側の前提の考えなのだろう。

 戦争は私も嫌だし、多くの人間が忌避するものだろう。けれど、戦争を仕掛ける側になるとどうして決めつけるのだ。戦争には二つの顔がある。攻める側と守る側だ。

 攻める側は失敗しても引けばよい。しかし、守る側が負ければそれで終わりである。そういう考えには至らないのだろうか?

 特に最近の軍事テクノロジーはAIの発達によって、超高度な武器が次々と現実化している。理論はあっても現実化できなかった武器が実用化されている。レーザーもそうだ。

レーザー自体は第2次大戦(ベトナム戦争だったかも)からすでに実用化されていたものの、当時はまだ相手の目つぶしくらいの威力しかなかった。今は航空機を打ち落とせるまでになっている。

 ※確か非人道的と言うことで禁止されたとも聞く。


 気づいた方もいると思うが、エルエクレールはレールガンである。秒速2000mというスピードで飛ぶ弾丸(砲弾)の衝撃の威力はとてつもないものである。

 今は一昔前の常識が通じない世界になっているのだ。


 今回はいつもよりちょっと長くなってしまった。次はエピローグとなるので、一応これで終わりである。

  さて。。次の話はあまり考えていない。どうしたものか・・。続けようか、どうしようか・・?

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