なんか、楽しくなってきちゃった!
プランB それは戦略的撤退・・・
具体的には・・・
「逃げるぞ!」
アレンの命令で、4人は一斉に走り出した。
「シャール・・・」
「待って! 殿は私がやる!」
走りながら3人が仰天した!
敵の攻撃を防ぎながらパーティー全員を無事逃がすのが”殿”の役目である。軍隊などでも撤退する場合には殿役が必ずいる。そしてその役にはパーティーの中で最も強靭な者が選ばれる。それは最も危険な役目だからである・・のだが。
普通なら白魔術系統の魔術師が殿を務めるなどありえない。
だが、サブリナは自らそれを買って出たのである。
横目で見たサブリナの目は本気。決して自暴自棄で出た言葉では無い事は明白であった。
「・・あ・・・? ああ・・。」
アレンの言葉は、なんとも間の抜けた返事だった。
それを聞いたサブリナは速度を落とし、追い越しながら気遣うシャールに軽くウインクを送る。
(いったい・・何があったんだろう?)
3人の心の声は同時にハモったのである。
だが、敵は待ってはくれない。
足の速いハウンドウルフたちがすでにサブリナの背後に迫っていた。
(集中しろ! リズのように集中して気配を探れ!)
サブリナは意識を集中させて魔力探知を行っていた。
(・・・いる。 後方に5匹・・・遅れて左右に3匹ずつ・・その後ろにゴブリンが数匹・・・)
一匹のハウンドウルフがようやく射程に入ると、地面を蹴って飛びかかってきた!
『盾!』
空中で突然出現したサブリナの盾にぶつかったハウンドウルフが、悲鳴を上げて地面に落ちた。
(いける! 私でも殿がやれる!)
メギドが言っていた言葉を思い出す。『仕留める必要はないんだ。』その言葉が彼女の気を楽にしている。
(そうなんだ。私の役目はみんなを守る事。時間を稼げればいい!)
そして1度の成功は彼女に自信と勇気を与えた。
しかし、まだ油断はできない。
すぐに2匹目が倒れた仲間を飛び越え、サブリナの背後に迫る。
木と木の間をすり抜けたと思った瞬間、木と木の間に出現した棒状の盾に足を取られて転倒した。
(形にこだわらなければ、行く通りもの攻撃方法も、防御方法もある。)
しかし、今度は3匹目が木々の間をすり抜ける風で、棒状の盾を警戒して跳んだ。
ギャフゥウ???
木々を抜けるかに思えたタイミングで体の周りに発生した格子状の盾の隙間に首が入る。さらに盾が木にぶつかって地面に落ちたが、外れない。しばらくもがくが裏返された亀のように体制を立て直せないでいた。
(・・なんだか楽しくなってきちゃった・・)
ハウンドウルフよりも速力に劣るゴブリンが木によじ登った。奴らは武器を使う。半弓を手にした奴らだろう。弓矢でサブリナの動きを封じるつもりなのだ。
(私たちに向けられる悪意を感じろ! サブリナ!)
サブリナは振り向かない。
全身の神経を研ぎ澄まして、自分たちに向けられる悪意(矢)の位置を探ろうと必死である。
ほぼ同時に数本の矢がサブリナに向かって放たれる。
『盾!』
空中に出現したそれは、大きく湾曲した透明な盾である。矢が当たって落ちると思われたが、それは盾を滑り、方向を変えて左へと飛び、1匹のハウンドウルフの足元に刺さった。驚いたハウンドウルフは急劇に方向転換し、木の幹に体を打ち付けた。
「いったい、どうなってるの、サブリナァ!」
振り向かずに走り続けていても、リズの感覚は鋭敏である。
さっきから近づいてくる敵の気配が、次々に遠のいていくのを感じられる。それなのに、サブリナが攻撃している様子はない。チラリと後ろを振り返ってみても、サブリナはずっと走り続けている。
『右の3匹が大きく迂回して来ている・・!』
おそらくは側面から攻撃を仕掛けるつもりだろう。
案の定、脚力で勝るハウンドドッグが右の茂みから飛び出した!
『盾!』
突然飛び出した3匹の眼前に、分厚い防御壁が作られる。
が、それはただの防御壁ではなかった。粘性の高い溶けた水あめである。それが3匹の体に纏わりついて動けなくしてしまったのだ。
「うげぇー? 変顔ーっ、きしょーい!」
じたばたともがくハウンドウルフにくっついた防護壁は地面のホコリもくっつけて、異形の泥団子と化していた。
ハウンドウルフたちは立ち止まった。
サブリナの魔法射程に入ることを警戒しているのだ。
奴らは戦法を変えた。
遠巻きにアレン達を囲み、追い詰めて襲い掛かろうというのだろう。飛びかかってこなくなった分、逃げるには都合がいい。アレン達にはアレン達の目算がある。
それはあの吊り橋である。
そこさえ過ぎてしまえば、谷が魔物との大きな障壁となってくれる。
吊り橋の向こうにさえ渡ってしまえば、少ない戦力で時間を稼げるとアレンは踏んでいるのだ。例え、あの正体不明の魔物でも仲間が来れば、倒すことが出来る筈だと考えていた。
「くっ!!! ここまでやったのか!」
吊り橋のたもとでアレン達は立ち止まった。修理して退路を確保したはずのあの吊り橋が落ちて・・いや、何者かの手によって落とされていたのである。
こうなれば、逆に退路を断たれたアレン達は絶体絶命の危機にある。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・大丈夫・・大丈夫だから。私が・・・」
サブリナが突然膝をついた。
高度な防御魔法を駆使しての撤退は見事だったが、その代償に大量の魔力を失い、魔力切れ寸前である。
「サブリナ!」
「大丈夫・・ちょっとフラッとしただけだから・・魔力回復剤を使えば・・・」
彼女は腰のポーチから魔力回復剤を取り出そうとして、顔が青ざめた。どこかでポーチをぶつけてしまっていたらしい。中の回復薬の瓶が砕けて中身が無くなっていたのだ。
「あたしの使いなよ!」
リズはポーチから1本しかない魔力回復剤をサブリナへ渡した。
「ありがとう。」
サブリナは素早く瓶のふたを切り一気に飲み干す。けれど、満タンチャージという訳にはいかない。せいぜい5分の一というところだろう。
(私にも収納が使えていれば・・。)
彼らが躊躇している隙に、ハウンドウルフたちの包囲網は完成していた。
奴らは後続のゴブリンやハウンドドッグを待って、今は威嚇だけに留めている。しかし、それは遠い先の話ではなさそうだ。
あの怪物だろう。
遠くから木々がなぎ倒される凄まじい轟音が響いてくる。
「全員、確認しろ。」
緊張してはいるが、落ち着いた声でアレンが言った。
みんな、その声で自分の傷や装備の再確認を行う。
絶望には無暗に立ち向かうことが最善ではない。出来る事を自分に再確認させることで活路を見出す。それに、みんなを落ち着かせる意味もある。これが若くしてA級の冒険者となったアレンの底力であった。
「まだ爆裂弾が4個ある。あの怪獣に効くかどうかわかんないけど。」
狼煙を上げたリズが素っ気なく答える。
「シャール。」
「あいよ。」
「お前は僕と一緒に怪物に突っ込む。悪いが露払いを頼む。」
「なんだよ。俺が攻撃じゃねえのかよ。」
「リズはそのタイミングで爆裂弾を怪物に投げろ。」
「任しときなって!」
「サブリナは・・」
「私は残った魔力でみんなを護る。」
みながサブリナを見る。
サブリナも目で答える。
誰も脅えていなかった。
最後かもしれないこの時に。
目の前の大きな木が吹き飛ぶと、あの怪物が姿を現した。
身の丈は5mほどもあろうか、その姿は牛頭のミノタウロスのようで少し違っている。尻尾が太く長く、アルマジロのような装甲で全身を覆われている。
不敵に笑ったアレンが低く言い放った。
「行くぞ、みんな!」
アレン達が地を蹴った瞬間、怪物はニヤリと笑ったように見えた。
youtubeで日本語の多様な表現。特に一人称の種類の多さに感嘆する動画があった。それを見て、書き手としてこれほど楽な言語は無いなと、今更ながらに日本人に生まれたことを感謝している。
どういう事が言いたいかと言うと、一人称を用いる時、一つの表現しかない英語の場合だと、全てはIになる訳だが、日本語の場合 僕=I 私=I 自分=I ワイ=I わし=I 拙者=I あたし=I あたい=I・・・と言った具合に何通りもの表現方法が可能である。これってものすごい楽。読み手側にすれば、僕を例えばボクにしただけで、そのキャラクター、性別、職業までも想像することが可能だ。
本当に日本語って楽しいな。




