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もう一つ、お願いがあります。

「もう一つ、お願いがあります。」


 サブリナの目は真剣で、メギドをまっすぐに見つめていた。

「私に、魔法を教えてください。」

 メギドは訝しげにサブリナを見て、ため息をついた。

「はあー。魔法・・って、嬢ちゃんはすでにA級魔術師じゃねえか。俺なんかが教える事なんかねえだろう。治癒魔法しか見てねえけどな、すでに無詠唱も出来るし、威力もA級の名に恥じねえぜ。なんで今更・・」

「先生は噓つきです。先生ほどの術者がD級魔術師なハズがありません。」

「いや・・・まあ・・それはだな・・。」

 メギドは困ったように毛の無い頭を掻いた。

「あのメラーアベイユを退治した魔法は灯り(リュヌ)の熱量を極限まで上げる常識外れの魔法でしょう。今までそんな魔法を使う魔術師なんか、見たことも聞いたこともありませんわ。」

「ああ、太陽(ティーダ)か・・嬢ちゃんも攻撃魔法を使えるようになりたいって事か。」

「違いますわ。」

「?」

「私は残念ながら黒魔法系には向きません。覚えたいのは白魔法の方です。」

(けっこう自分を解ってる娘だな。)


 人には誰しも向き不向きと言うものがある。万能で完璧である事を人は求めがちだが、それは大きな間違いである。人は一人では生きられない。お互いが不得手な物を補ってこそ、完璧や万能に近づくことが出来るのである。

 魔術師も同じである。彼ら魔術師が言うには、どの魔法も公平に習得することは出来る。既成の魔法は術式がすでに出来ていて、それを頭の中で組むことが出来れば無詠唱も可能だ。達人になれば並列発動も可能である。

 ところが・・・人には相性と言うべきか、性格的にと言うべきか、攻撃、補助、治癒・防御と大きく大別された魔法体系に向き不向きが生じるのである。4大エレメンタルとの相性だという魔術師もいるくらい、それは大きく分かれるのだ。


「二つのセーフテントを破壊するほどの灼熱地獄の中で、先生は火傷どころか、衣服にも損傷がありませんでしたわ。一般的な魔法防御だけでは到底生き残れない熱量です。どんな防御魔法を使ったのかは分かりませんが、最低でも5つ以上の魔法を同時に発動させていた筈です。しかも最上級レベルの魔法を。」

(・・ムムムムム・・・!)

「そんなことが出来る魔術師は魔法庁の”十傑”(デキム)以外には見当たりません。」

(・・・・・ヤバ・・・。)

「残念だけど、俺はそんな偉いさんじゃねえぜ。」

「だから不思議なんです。”十傑”(デキム)と言えば王族と言っても過言ではありませんわ。実力もですが、その収入も名誉もです。それに”十傑”(デキム)の名に先生の名前はありませんでした。」

「話がズレてきたような・・・」

「・・・そうですね。単刀直入にお願いします。私に防御魔法を教えてください。私は魔法学院で習った防御系魔法を駆使してはいますが、それだけではみんなを守ることが難しくなっていってるんです。もっとみんなを守ることが出来れば、今よりもっと深く潜ることも出来ます。」

 メギドは顎に手を添えたまま、じい~~っとサブリナを凝視する。 

 けれど、サブリナは揺るがなかった。

「・・本気だということは分かった・・。」

「それじゃ・・」

 メギドが手で遮る。

「まずは嬢ちゃんの実力がどの程度か見せてもらおうじゃねえか。」

 そう言うと、メギドはサブリナに背を向け、数歩先で止まった。

 そしてしゃがんで小石を拾い始めた。そして、目も前に山のように積んでいく。

「俺が投げるこの石を嬢ちゃんの防御魔法で防いでみな。徐々にレベルを上げていくからそのつもりでな。」

 サブリナは杖を構える。

「どうぞ。」

 キューン!

言ったそばから、高速の小石がサブリナの左頬を掠めて行った。

「遅い。」

 メギドの顔は笑ってない。

杖を構えたサブリナの表情が険しくなった。あの小石がまともに当たれば大ケガでは済まない。先生は本気だ・・と。

(シルト)!』

 次の小石はサブリナの魔法の盾に当たって跳じけた。

だが、それでもメギドは涼しい顔で石を弾き続ける。数個の石が弾き飛ばされた後、突然一つの小石が彼女の目前を高スピードで横切って行った。

(まさか、横からも!)

覆盾(エンクラフト)!』

サブリナの防御壁は彼女をドーム状に囲み全方位に対応できる形に変わった。すると今度は、一個の小石が防御壁の直前で方向を変えて地面に刺さった。

(う! 嘘よね!)

 彼女の予想通り、その小石は地面から飛び出し、彼女の肩先に当たった。

「痛っ!!」

 彼女の肩に血が滲んでいる。

それでも彼女は地面を蹴って飛び跳ねた。今度は足元も覆い、彼女は中空へ浮かんでいる。

(なるほど。教科書通りだな・・残念だ。)

 メギドの次の一撃は、彼女の防御壁を粉々に砕け散らせたのである。

「キャアア!」

 突然の防御膜の破壊で、サブリナは尻からドスンと落ちたのである。

 それを見届けたメギドは攻撃を止め、おもむろに立ち上がった。

(なるほどな。嬢ちゃんの実力は限りなくS級に近い・・。あとはきっかけさえあれば・・化ける!)

 メギドの顔がちょっとだけニヤついていた。


「とりあえずは及第点だ、嬢ちゃん。・・魔力・術式構築速度・判断力・反射神経・魔法知識。いずれもA級の魔術師の力量がある。俺が教えるべき点は無い。」

「そんな! 先生は私の防御を簡単に打ち破ったじゃないですか!」

「その通りだ。じゃあ、何故だと思う?」

 サブリナは黙り込んだ。

圧倒的な力の差。それは端から分かっている。だが、もしかするとそれでも防げたかもしれない何か・・それが私には足りない。そしてその何かをメギドは知っているのだ。

「嬢ちゃんよ。お前さんの(シルト)は上出来だ。が、それだけだ。」

 意味が分からなかった。

「魔法学院ではどう習った?」


 数年前。

サブリナは王都の魔法学院に入学して魔法学を専攻し、授業を受けた。


「いいですか。これが(シルト)です。」

魔法学院の教授は目の前に透明な盾を作って見せた。教授の(シルト)はガラスのような四角い盾で、ほんのりと青く光を放っていた。『後ろから攻撃された場合はどうするんですか?』という質問に、教授はドーム型の防御膜を張って見せた。そして、『まずありえませんが、地面から攻撃を受けた場合にはこうします。』と、サブリナがやったように空中に浮かんで全方位防御を完成させて見せたのである。

生徒たちは驚いて惜しみない拍手を送った。

(そうだ。私も教授のように褒められたかったんだ。)

 それから血の滲むような努力の末に、彼女は学院の教授と同程度の実力を身に着けたのである。


「嬢ちゃんの(シルト)はガラスをイメージしているだろう。何故だ?」

「それは・・・」

 今までそんなことを考えたことも無かった。ずっとそういう物だと思っていた。学院の授業では教授の見本を真似る事が必須だったし、ほとんどの魔術師の作る(シルト)がこうだった。

 たまに形が円形や六角形だったりと個性がある人もいたけれど、基本的には変わらない。それに(シルト)を不透明にしてしまうと、相手を視認できなくなるデメリットもある。


「それが答えだ。」

メギドは落ち着いた声で静かに言った。

 そう言われたとたん、サブリナは泣き崩れた。

「先生、分かりません。私にはこれをどうすればもっと強靭にできるのかが分からないのです!」

 さすがのメギドも、妙齢のお嬢さんが目の前で泣き崩れているのを見ると、さすがに罪悪感が芽生えるらしい。


「・・・・しょうがねえなぁ・・・ちょっとだけヒントをやる。特別だからな。」

「本当ですか!」

 (こいつ・・ひょっとしてウソ泣きしてんじゃ・・・)

「いいか、嬢ちゃん。ガラスってのは固体じゃない。液体なんだ。」

「え?」


*********

<どうでもいい うんちく・・>

 ガラスとは非常に安定した非結晶体、アモルファス配列による非常に安定した物質とされることが多い。(実はいまだに謎)ガラスが固体ではなく、液体であるという証明にはステンドグラスで説がある。教会などの窓にあるステンドグラスは長年固定され続けているせいで、下側が上層よりも厚くなっている。これは重力のせいで下側に落ちていると考えられているのだ。

*********


「もうひとつおまけだ。嬢ちゃんは任意の場所に(シルト)を発現させることは出来るんだろ?」

「はい。遠くには無理ですが・・・数個くらいなら・・」

「けっこう。じゃ、こいつを参考にしてくれ。」

 メギドはそう言うとさっきの棒を拾って(シルト)をかけ、地面に落とした。

棒はシルトの端に支えられて、斜めの状態で不自然に地面に立っている。そして至極ゆっくりと地面に横たわった。

「俺の(シルト)を触ってみな。」

 サブリナがメギドの作った(シルト)に触れてみる。

  そして驚いた。

メギドの(シルト)は柔らかかったのである。


「不思議だろ。それがどんな役に立つんだと思うだろ? 盾は固く強固でなくてはならない。そう思うよな、普通は。だがよ、柔らかいもので身を守ることは出来ないか? 出来る時もあるだろ。要は使い方次第って事さ。」

 サブリナの丸く驚いた瞳が、にこやかに笑うメギドを見つめていた。



(目から鱗だったのよねえ・・)


 猛獣のような謎の魔物の突進を受けたアレン達4人に、サブリナは咄嗟に(シルト)を使った。それも彼女が改良した新しい魔術で、ゴムのような反発力のある球体で全員を覆ったのである。

 通常の(シルト)であれば、粉々に打ち砕かれて、4人はその突進で命を落としていただろう。だが、彼女のゴムのような球体の盾は、魔物の突進で弾かれはしたが、4人に傷を負わせることなく空中に飛び出し、たいしたショックも与えずに地面に落ちた。

「何だったの!・・・これ?」

 リズが気味悪そうにサブリナの(シルト)に驚いていた。

「戦いは終わってないわよ、リズ。」

 その通り!

もうもうと上がる土煙の中から巨大な怪物の影が見えている。

魔物は4人を一撃で仕留めたと思ったのか、無傷で立ち上がっている4人を見てもう一度吠えた。

「洞窟も罠だったのかよ・・。」

「リズ! 狼煙を上げろ。」

 シュミットたちと予め打ち合わせておいた行動だ。アレン達が正体不明の魔物と遭遇した場合、狼煙を上げる。そして全員で魔物を(ほふ)るという作戦である。・・・が、いかんせん距離が離れすぎていた。

(奴らが来るまで持ちこたえられるか・・・)

「プランBで行くしかないわね。」


 プランB。それは()()()()退()である!

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