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き・・・・・きゅうぅぅぅ!

「円陣を組んでサブリナを守れ!」

「あいよっ!」

「ガッテン!」

 魔物が姿を現した途端、アレン達は円陣を組み、少しずつ洞窟の方向へと向かい始めた。

大量の敵には、攻撃が一方向になった方が少数側が有利だからである。

 最も避けたいのは乱戦になることである。乱戦になれば攻撃力を持たない白魔法術師(ヒーラー)が真っ先にやられる。そうなれば回復の(すべ)が無い他の者たちは消耗戦を強いられてしまうからだ。戦力に差がある場合、それは少数が(なぶ)り殺しにあう事を意味する。

 ゴブリンとハウンドウルフの数はおよそ50体。まともにやりあって勝てる相手ではない。しかも・・・その異変に彼らは気づいていた。

「どうして我先に襲ってこない?」

 そう、魔物たちはじわじわとアレン達を包囲して一斉に攻撃しようとしているように見える。人間の兵士ならともかく、魔物の行動原理としてはありえないのだ。

「来るぞ!」

 アレンが叫んだのが合図だったように、一斉にハウンドウルフが襲ってきた!

 アレンは剣で襲ってきたハウンドウルフを薙ぎ払う! 

 シェールは盾で打ち払い、鎧を噛ませて脳天に短剣を突き刺した!

攻撃力の低いリズは円陣では得意の機動性が発揮できず、ほぼ防戦一方である。サブリナは軽症のうちに回復魔法をかけて、ケガの治療と体力の回復を行っていた。

「洞窟に入るぞ!」返り血をしたたか浴びたアレンが叫ぶ! 

洞窟に入れば、敵に向かうのはアタッカーの二人で何とかなる。気がかりなのは洞窟の中がどうなっているかだが、入り口は狭い。報告にあったような大型の魔物が潜んでいるリスクは低そうだ。

「リズ! あれを使え! シャール!」

「オッケー!」

 リズがダガーを納めて円陣の内側に入ると、シャールがカバーに入る。リズは腰のポーチから何かを出したその時、アレンの前のハウンドウルフの背を駆け上がって一匹のゴブリンが跳んだ。

「くっ!」

アレンが上を見上げた瞬間! アレンには隙が出来た。

その隙をついてハウンドウルフがアレンの脇を(かす)めてサブリナに襲い掛かったのである!

「リーナァ!」

 リズが叫ぶ!

サブリナが噛まれる。誰もがそう思った・・しかし彼らの見た光景は予想を裏切ったサブリナの行動であった。

 なんと、サブリナの杖がハウンドウルフの喉元に突き刺さっていたのである。

「なんと!」

 シャールはその光景を横目で見ながら驚きの声を上げた。今までサブリナが魔物を殺したことなど(つい)ぞ無かったからである。

 杖を素早く引き抜いたサブリナの口元がニヤリと笑っていた。




【 紅の翼(エールルージュ)が王都へ発つ前の日 】


「は~~~~~~~ちぃ~~~~~~~~~~き・・・・・きゅうぅぅぅ!」

     ドサリ・・・・

 地面に倒れ伏したサブリナの息が荒い。

「ダメだなあ~、嬢ちゃん。お前さんはまず体力を付けないとな。」

「ま・・まだです。もう一回やらせてください、先生。」

 サブリナは腕立て伏せをもう一度始めようとするのを、メギドが止めた。

「もういい。それより今は走れ。だが、決して無理をするな。最初は出来るところまで走るんだ。そして次はそこから先に目標を立てる。そうやって、少しづつ距離を伸ばせ。腕立ても同じだ。ただ、筋肉ってのは負荷をかけないと強くはならん。とりあえず限界までやれ。そうして少しづつ回数を増やせ。」

「はい、先生い!」

「・・・先生ってのはやめようや、嬢ちゃん。」

「いいえ、先生と呼びます。せめて、訓練の時は。いいでしょ、おじさま。」

 メギドはげんなりした顔で頬杖をついていた。

横目でサブリナを見ると、キラキラしたまっすぐな目でメギドを見つめている。

(まっ・・いいか。)

「嬢ちゃん。あんた、今まで魔物と戦った事があるか?」

「・・・あの・・恥ずかしながら・・・ありませんっ!」

「仲間に守られてばかりと、自分を責めることもあるんだろ?」

「・・・・ど・・どうして、それを。」

 サブリナの目に涙が浮かんでは零れ落ちた。

「ま、ありがちだからな。」メギドは優しく笑った。

「アレンたちは嬢ちゃんを過小評価してるようだな。」

「そ、そんな事はありません。私が悪いんです。弱いから・・」

「嬢ちゃんの杖はこれくらいだろ。」

 メギドは木の棒を収納BOX(コンポート)から取り出し、杖の両端に布を巻く。

「嬢ちゃんの杖は上が重くてデカい。重心も上だ。そして普段はこうやっている。こんな感じだ。」

  さすがに身長差がありすぎるので、メギドがやると屈むような形になる。

「はい、そうです。」

「嬢ちゃんの杖で、俺に襲い掛かってきな。本気でだぞ。」

「はい! 先生!」

 サブリナは数メートルほど距離をとると、杖を振り上げて襲い掛かってきた。

 メギドはさらに体制を低くし、一瞬で銃を構えるような杖さばきで突進するサブリナを突き倒した。

「キャア!」

 杖の先には布が巻かれているので大事には至らないが、尻もちをついたサブリナは呼吸が出来ずに激しく咳をしている。

「襲えと言われると、大抵の奴は嬢ちゃんみたいになる。けどな、実際の戦闘では力のあるやつ以外は駄目な戦法なんだ。嬢ちゃんはまず、自分の身を守れればいい。襲い掛かってくる相手には杖の先端を向けるんだ。倒すにはタイミングが必要になるが、突きは早くとも遅くとも効果はある。仕留める必要はないんだ。相手に恐怖心を抱かせ、引かせることが重要なんだ。」

「・・わかりました。でも先生、突きを(かわ)されたらどうするんですか?」

「こんどはゆっくりかかってきな。」

 サブリナが杖を振り上げ、今度はゆっくりを襲い掛かる。メギドの杖が目前に迫るとサブリナは右へとかわす。するとメギドの杖は滑るように持ち手を変えて今度は下からサブリナの腹部に重い方を当てる。

「もう一度だ。今度は反対側へ。」

 仕切りなおして攻撃を繰り返すサブリナ。今度は2度目の動作と同じ動きで杖の先を足に絡ませ、転倒させると体を変え重い方で相手を打つ。

「この動作を毎日100回は繰り返せ。瞬時に反射的に動けるまでやるんだ。」

 サブリナは下を向いた。

訓練が嫌な訳では無い。こんな簡単な事で、ある程度の防御が出来るのだということに愕然としたのである。

「・・・先生。もっと本格的に武術を教えてください。」

 メギドはじっとサブリナを見る。彼女の本気は彼にも伝わって来ていた。

「もっと色んな技を覚えたいんだろ?」

「はい!」

「ダメだ。」

「なぜですか? 私もいろんな技を覚えて戦えるようになれば・・・」

 メギドは手で制した。

「誰もがそう思う。だが、実際には一つの技を極めた者には適わないのだ。今はこの動作だけでいい。何千回、何万回と繰り返すうちに技と言うものは身につく。数多くの技を扱える者は技を披露するだけの愚者だ。実践では全く意味がない。嬢ちゃんは誰かに自慢するために武術を習いたいのか? なら他所を当たればいい。」

 冷徹なメギドの言葉に、サブリナも何か思うところがあったのかもしれない。素直に謝った。

「先生。武術の事は分かりました。先生の言う通り、反射的に動けるようになるまで鍛錬してみます。ですが・・・もう一つお願いがあります。」



「急げ! リズ!」

一瞬止まったリズの動きは、アレンの罵声に反応した。

「行くよっー!」

 ポーチから取り出した6つの魔道具を空へと投げる。

瓶のようなそれは地上へ落下すると同時に爆発を起こした。はじけ飛ぶゴブリンたち!! 奴らの勢いが一斉に止まった。

「急げ!洞窟に入るぞ!」

 アレンが殿(しんがり)を務め、シェールが残敵を弾き飛ばし、洞窟へ飛び込む。リズとサブリナが飛び込むと同時に、シェールが入り口を守る。

「アレン! 急げ!」

「今行く!」

 アレンは襲いかかって切るハウンドウルフを切り裂き! 走る!

追って来る魔物を切り伏せては繰り返す。そうやって洞窟に飛び込んだアレンの体はあちこち傷ついていた。

「シェール! お願い!」

「任せておけ!」

そのわずかな時間に、サブリナが片膝をついたアレンに回復魔法をかける。

「驚いた・・・。まさか君にこんな体力があるなんて・・・」

「毎日走ってるお陰かな。」

 サブリナはアレンの言葉に照れたように笑った。

 幸い入り口は狭く、シェール一人でも魔物の侵入を防ぐことは出来そうだった。後は時間の問題である。シェールが傷つけば、今度はアレンが前に立つ。敵の数がこの程度なら、なんとか撃退できるだろう。

 洞窟に飛び込むと同時に目を閉じていたリズは、誰よりも早く暗さにが慣れた。そうしてリズは少し奥を見渡す。

 洞窟は洞窟と言うより横穴だった。数メートル先で行き止まりのようである。

「良かった。あまり深くな・・・」

 闇の中で、異形の赤い目が血のように光り始めた。

  ウゴオオオオォオオオオオーーーーー!

 (つんざ)くような魔物の咆哮が洞窟にこだまする!!


  洞窟の入り口が突然爆発した。

4人は洞窟の中にいた魔物の突進で空中へと押し出されたのであった。

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