あーーー! あたしの〇〇〇がぁあああ!!
「おはよう。」
「おはようございます。随分早いですね。遅れましたか?」
「いや、時刻通りだ。早速出発しよう。」
アレンはにこやかにアーモン達を馬車へと誘った。
2頭立ての馬車が3つ。それぞれのパーティーごとに馬車に乗り、スパカブ村へと出発した。後続のB級パーティーはアレンとなじみのあるパーティーである。彼らは集合時刻前に集まり、簡単な打ち合わせをすでに済ませていた。
「アレンさん御自慢の魔木馬かと思って期待してたんですがね。」
ちょっとつまらなそうにヘイゼルが言った。
「いや、ギルドで用意してくれていたしね。あれは、また次の機会に。」
「魔木馬ってのは、首が無いんでしょ? 本当に動くのか見てみたかったですね。」
「まあ、それより今のうちに軽く打ち合わせをしておきましょう。」
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【うんちく :魔木馬:】
魔木馬は木馬と銘打っているが、馬のような形をしている訳では無い。ほぼ金属製であり、アーモンの言う通り首がない。無いというか、必要がないのである。
確かに4足歩行の馬の胴体のような形をしているが、馬も首の付け根に当たる部分にカメの頭のような突起物があり、そこに一つの大きな目のような宝玉がある。耳のように見える部分は耳ではなく、バイクのハンドルの役目を果たす。ゴーレムのような自立型の魔道具でバイクと馬を足して割ったような姿をしていた。速度は実物の馬の2倍、悪路はおろか崖さえも登れる優れモノである。
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スパカブ村へは2時間ほどで着く。かといって入念な打ち合わせが必要なほどの材料はないので、おおまかにパーティーの役割を決めたに過ぎない。
曙(B級)は壊滅したスパカブ村の調査と生存者の探索と保護。
流れ星(B級)はシュルークのサポートと警護、周辺警戒の任務を担当する。
そして<紅の翼>は最初に行方が分からなくなったC級パーティーの探索に当たる。それにはスパカブ村を襲った魔物の探索と討伐にもあたる予定だということをアレンは説明した。
「それにしても、あれだけの数の魔物を相手をするのに我々だけで行くとは、無謀じゃありませんか?」
「必ず遭遇するとは限らないし、探索で無理だと判断したら引き返す。そのつもりだ。」
「なるほど。ですが、どうやって魔物どもの居場所を突き止めようと言うんで?」
「こっちには魔石羅針盤があるからね。魔物が集まっていれば、見つけけるのは難しくないと思うよ。」
「かえってC級パーティーを探す方が骨だよな。」
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【うんちく :魔石羅針盤:】
リズの持っている物は、首から下げられるペンダントのような携帯型である。直径は10Cm程のタブレット状、その中に液晶ディスプレイがあるようなイメージである。移動により自動で地図データを覚えるので、行ったことのある場所については地図上に魔石の位置がレーダーのように表示される。魔物は核に魔石があるので魔物レーダーの役目を果たすのだ。冒険者にとっては高機能の探知機として憧れの的であった。
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スパカブ村の惨状は想像を絶していた。
家屋は倒壊し、木々がなぎ倒され、至る所に食い残しの人の欠片が散らばっていた。
「酷えな・・・これは。」
メテオーラのシュミットが思わず呟くと同時に、シュルークのクロエがアレンを呼んだ。
「どうしたクロエ。」
「見つかったよ。」
彼女が指さす小川には、片足だけ岸に残した食いちぎられた下半身があった。
紫の雨のリーダー、ジュードゥである。
アレンは跪き、手を組んで黙とうすると、クロエもそれに倣った。
「クロエ。後は手筈通り頼む。」
「ええ。あなたたちも気を付けて。」
アレンは<紅の翼>と二人の魔術師を呼んだ。
「これからすぐに調査に向かう。」
ヘイゼルは少し渋ったが、アレンの命令は揺るがなかった。
ジュードゥの死体を目前にして、休む暇など無い事を改めて感じたのかもしれない。いずれにしても2つのパーティーはすでに行動を開始していた。
アレンたちはC級パーティーが向かった西側へと向かう。巨大な魔物の足跡もそちらの方角に向かっていたからだ。
リズはかなり不満だったが、魔石羅針盤を預けたヘイゼルとアーモンが先頭に、リズは後方の警戒に当たった。
「絶対に壊さないでよね!」
「解ってるよ、エリザベスさん。」
ヘイゼルは満面の笑みを浮かべて魔石羅針盤を大事そうに眺めている。冒険者にとっては憧れの魔道具の一つなのだから当たり前ではある。
「やはり、西に魔石の反応が集中していますね。」
「わかった。まずはそこを目指そう。戦うかどうかは現場についてからだ。」
1kmほど行くと、行く手は川に遮られた。超えられない川幅ではなかったが、鎧を付けているアレン達には少々荷が重い。
「この先に・・確か吊り橋があったはずです。そこから向こう岸に渡りましょう。どのみち向かう方向は一緒のようですから。」
羅針盤を覗きながらのアーモンの言葉にアレンも同意した。
山道にはなったが、一旦鎧を脱いだり服を乾かす手間を考えれば、その方が最終的には時短になるだろう。
しばらく行くと川幅は狭くなり、その代わりに絶壁に挟まれるような地形へと変わった。一応人が通れる道になっているのが不幸中の幸いである。やがて古ぼけた小さな吊り橋が見えてきた。
「おいおい、これを渡るのか?」
シャールの嘆きも冗談には聞こえない。
橋は老朽化により踏板が無くなっているところもあり、蔓で出来たロープもあちこちささくれ立っていた。
「仕方ないだろう。戻る訳にもいかないしな。」
アーモンとヘイゼルはバツが悪そうに下を向いた。
「まずは僕が渡る。一度に行くと危険だからな。次はサブリナ・・」
「あ、あのう!」
「どうしたんだヘイゼル。」
「すいませんが、俺は最後にしてくれませんかねぇ。た、高いところが苦手なんですよぉ。」
弱弱しい声で懇願するヘイゼルの足は小刻みに震えていた。
「すいません。僕がヘイゼルの面倒を見ますから・・・」
アーモンもすまなそうに口添えする。
「・・・わかった。時間が惜しい、行くぞ。」
アーモンは吊り橋の蔦をしっかりと握ると、慎重に橋を渡り切った。
サブリナとリズ、そしてシャールも渡りきると、アーモンとヘイゼルの番。足がすくんで怖気づくヘイゼルの手を取り、アーモンが声をかけながら橋を渡ってくる。
「うわぁあああ!、もう駄目だぁ!!」
ヘイゼルが橋のど真ん中で突然座り込んだ。
「ヘイゼル、しっかりしなさい! 早く渡ってしまいましょう。」
アーモンがヘイゼルの肩に手をかけた瞬間、つり橋のロープが切れ、二人は川へと落ちてしまった。
「おーい! 大丈夫かっ!!」
二人は川面の岩に何とかしがみついていた。
「だ・・大丈夫でーすっ!」
「何とか助けるから、そこを動くな!」
「いいから、お前たちは先に行け! 俺たちは泳いでそっちに回り込む!」
ヘイゼルの意外な返事だった。高さは駄目だが、水には平気と言う事らしい。
ヘイゼルとアーモンはそう言うと、アレンの返事も待たずに川の流れへ身を任せた。達者な泳ぎっぷりを見ると、確かに心配には及ばないらしい。
「行ってしまいましたね。」
サブリナがあきれたように言った。
「戻ってくると思うか?」
シャールとサブリナが無言で首を横に振った。
「あ~あぁ。あたしの羅針盤がぁ・・・」
リズが半泣きで遠くへ流れていく二人を目で追った。
「仕方ねえよ、リズ。また新しいの買えばいいじゃねえか。」
「そうよ、リズ。」
「バカっ! あれがいったい幾らすると思ってんだよお!!」
「泣いてる暇はないよ、リズ。まずは退路を確保しよう。応急でも橋を直してそれから先へ進む。リズとサブリナは周囲を警戒してくれ。橋は僕とシャールとでやる。」
4人はまるで何事もなかったかのように作業を始めるのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・
「へへへ、うまくいったね、兄貴! ヘークショイ!!」
「A級だなんて言ってもチョロイもンヨ! ヘークショイ!」
森の中の小道。
足早に歩く、ずぶ濡れの魔術師がいた。
「それにしても、儲けたね。」
「あー、思いがけねえボーナスだぜ。」
ヘイゼルは首にかけた魔石羅針盤を食い入るように見つめる。
「こいつを売ったら、家が買えるぜ。ズズ~ッ。」
「それにしても、追ってこないでしょうね。ズズ~ッ・・・」
「追ってなんか来るもんか。今頃はしびれを切らして魔石の方角に向かってるだろうさ。」
ふと、後ろが気になった二人は振り向いて耳を澄ます。
静寂が周りを包み、小鳥の鳴き声が遠くから聞こえる。
「ふっ・・俺もヤキが回ったか・・。」
笑って振り向いた二人の前に、大きな木製の仮面をかぶった大男がいた。
「ひゃーーーーっ!」
「な、な、な、なんだ! お前は!!」
仮面がゆっくりと『なぜ?』とでもいうように首をかしげる。
ヘイゼルが慌てて呪文を唱えようとしたとき、二人の目の前は真っ暗な闇へと変じていた・・。




